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仲間とともに、チームで勝つ。UB Venturesが描く「100年続くVCづくり」──UB Ventures代表取締役 岩澤脩

仲間とともに、チームで勝つ。UB Venturesが描く「100年続くVCづくり」──UB Ventures代表取締役 岩澤脩

「VCは、スターキャピタリストのような『個』が活躍しやすい業界。でも僕らは、チームで勝ちたい。UB Venturesらしいキャピタリストを育てていきたいと思っています」──そう話すのは、UB Ventures 代表取締役社長の岩澤脩です。岩澤がUB Venturesで渦中の友たちと挑むのは、100年続くVCづくり。それをどんなチームで、どのように実現するのか、じっくり聞きました。

岩澤 脩

岩澤 脩OSAMU IWASAWAUB Ventures代表取締役 マネージング・パートナー

慶應義塾大学理工学研究科修了。 リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ・キャピタル証券にて 調査業務に従事。その後、野...

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目次

プロダクトと組織、それぞれに振り切れている人たちの化学反応への期待

まず、これまでまでのキャリアについて教えてください。

新卒でリーマン・ブラザーズに入社して、その後バークレイズ・キャピタル、野村総合研究所を経て、2011年にユーザベースに参画しました。

僕は学生時代から「35歳になったらベンチャーキャピタルをやろう」と決めていました。そのために、20代はコンサルや証券会社で金融と経営を学んで、30代前半で起業、35歳でベンチャーキャピタルをやるというビジョンを描いていたんです。

29歳でターニングポイントを迎えて起業をしようと思ったとき、いい起業のアイデアが見つかっていませんでした。さらに一緒に起業しようとしていた友だちができなくなって、どうしようと思っていたときに、ユーザベースと偶然出会ったんです。

野村総研でSPEEDAを導入することになり、システムの検証を担当したのが私でした。当時のSPEEDAは、まだ顧客数が10社もいないくらいだったんですが、SPEEDAを見て「おもしろいな」と感じました。

それで、ご縁があってユーザベースから声をかけてもらい、受けてみることになったという経緯です。

当時のユーザベースは創業3年目。アルバイトを入れて、社員は15名ほどでした。給与も、僕が入ったときに初めて給与テーブルができたくらいの頃です。

そういった環境に飛び込むのは不安ではありませんでしたか?

それはなかったですね。創業者の梅田さん、新野さんのインパクトが大きくて。梅田さんとの面談ではSPEEDAの成長戦略のアイデアを出してと言われて、当時流行っていたSNS広告をやってみたらどうですかと言ったら、「ほかのプラットフォームは僕らの競合。その土俵で相撲を取るのは気に食わない」と。

トップが本気で世界を目指していなければ、そうした境地には辿り着けないと思ったんです。グローバルなプラットフォームと対等な意識を持って世界にチャレンジしていくんだと言うのを聞いて、もしかしたらユーザベースはグローバルで戦える企業になるかもしれないと思いました。

その後の新野さんとの面談では、2時間半ほど新野さん劇場というか(笑)、こちらはひと言もしゃべらせてもらえないほどでした。スペシャルなチームをつくりたいといって、ずっと海賊船の話をしているんですよ。

片や「世界を取るぞ」というプロダクト少年、片や「誰よりもいいチームをつくりたい」というルフィみたいな。ふたり合わせたら『ONE PIECE』じゃないかと思いました。

それくらい、プロダクトと組織に振り切れている人がいる組織であれば、何か化学反応が起きるのではないかと思って飛び込んだんです。

UB Ventures 岩澤脩
入社してからUB Venturesを立ち上げるまで、どんな経緯があったんですか?

ユーザベースに入ってからはSPEEDA事業に携わっていて、そのうちの大半が海外事業でした。2018年にアジアが目標未達になって、その責任をとる形で日本に帰国したんですが、そこからNewsPicksに行ったり、ゼロから事業を立ち上げたりするイメージが持てなかったので、梅田さんと稲垣さんに「辞めます」と伝えたんです。

そうしたら梅田さんが、「うちに入るとき、35歳でベンチャーキャピタルをやりたいって言ってなかったっけ?」と。自分でもすっかり忘れていたんですが、ちょうどそのとき35歳だったんです。それで、VC事業について考えてみようというのがUB Ventureのスタートでしたね。

経営者としての仕事と、パートナーとしての仕事

UB Venturesの代表として、普段はどういった仕事をしていますか?

主に3つあります。まず、投資をすること。スタートアップにお金を投資しています。ふたつ目は、投資したスタートアップの成長支援ですね。経営会議に出て一緒に戦略を考えたり、実行支援のサポートをしたりしています。3つ目は、投資家からお金を集めるためのファンドレイズです。

ファンドレイズでは、これまでどれくらい投資家の方々にファンドパフォーマンス、事業連携で貢献したか、IPO件数などの数字面に加えて、業界のトレンドをどう考えていて、今後どの領域で良質なスタートアップが出てくるか、といった投資仮説を、投資家に対して説明します。

もうひとつ大事なのが、再現性のある投資判断や成長支援ができているかどうか。具体的にいうと、UB  Venturesのキャピタリストとして、同じカルチャーを共有して投資判断できているか、投資先に誰が支援しに入ったとしても、UB Venturesの支援先は必ず成長しているか。そういう再現性が求められます。

そうなると、キャピタリストの育成が重要になってくると思うのですが、未経験のキャピタリストをどう育成しているんでしょうか。

教育は、完全に徒弟制度にしています。僕の下にメンバーがひとり付いて、一緒に動くなかでロジックを教えるんですが、瞬間的な判断をするにはすごく感性が入ります。そのバイアスをいかに排除していくかがポイントです。

投資判断には「バイアスを排除して客観的に判断できた人が勝つ」という原理があります。たとえば企業から受ける第一印象や、プロダクトのデザインセンスなど、ひとつの要素で投資判断がマイナスに引っ張られてしまうことがあるんです。そのバイアスを排除する作業ですね。

UB Ventures 岩澤脩
徒弟制度で岩澤さんに付くメンバーは、いわゆる「アソシエイト」と呼ばれると思いますが、その後はどんなキャリアパスがありますか?

アソシエイト、シニアアソシエイト、ヴァイスプレジデント、プリンシパルと昇格していって、最終的にはパートナーになります。パートナーはファンドの責任者としてファンドレイズをしますが、たとえファンドレイズが成功したとしても、次のファンドでもパートナーとして残れるかというと、そうではありません。

たとえば僕がSaaS、頼さん(頼 嘉満/マネージングパートナー)だったらIoT・メタバースといったように、専門領域のテーマに紐づいてパートナーになっているので、SaaSのテーマが終わったときに僕が次のトレンドをキャッチアップできればパートナーとして残れるでしょう。

でもずっとSaaSに特化して、パフォーマンスがいまいちであれば退場しなければならない。それくらいプレッシャーがかかっているわけです。だからこそ、ベンチャーキャピタリストには新しい領域にアンテナを張り続ける好奇心が大事なんです。

たとえば何らかのビジネスモデルに接したとき、このビジネスはどうやってお金が回るのか、なぜお客さんがついているのか、数字面だけでなく、背景にある本質的なポイントを捉えに行こうとする人かどうか。そういった好奇心を持っていることが、キャピタリストの素養として求められると思います。

さらに僕の場合はパートナーとしての仕事以外に、経営者として「どういうテーマがトレンドなのか」「そのテーマに対してどういうパートナーをアサインするか」を考えなければいけません。

海外ではVCの経営者とパートナーが別であることが多いんですが、日本でも今後は経営側に進む道と、プロフェッショナル人材になる道がありうると思います。僕がやっているような業務に興味がある人はVCの経営を、一生現場でキャピタリストをやりたいという人は、パートナーとしてのキャリアを進むようになるのではないでしょうか。

投資判断はどのように進めているんですか?

現在は判断が3段階あって、誰かひとりが「いいな」と思っても、すぐには投資が進められないようになっています。

「いいな」と思ったらリサーチをして、毎週の会議のなかで全メンバーで徹底議論します。そこをクリアしたらパートナー面談に進んで、私と麻生さん(麻生 要一/ベンチャーパートナー 兼 AlphaDrive CEO)・頼さんの3名がその起業家と会う。最後に投資委員会を開いて、そこで投資するかどうかの判断をします。

投資委員は僕と頼さんの2名なんですが、週次の会議とパートナー面談までを見て、「市場の証明」「プロダクトの証明」「実行の証明」という3つの観点から事業の筋を検証します。

週次の会議とパートナー面談は事業面をまずは見て、投資委員会ではたとえばバリュエーションが合うか、本当に時価総額200億円までいくかといった経済条件を検証しています。

ファンドにもよりますが、ファンドレイズの期間は準備期間を含めて2〜3年ほどかかります。通常は、ファンドを立ち上げるタイミングは2年に1回。ただ、UB Venturesの場合は4年間で3本立ち上げているので、すごいスピードで順調にファンドレイズできていると思います。ちょっと手前味噌ですが(笑)。

UB Ventures 岩澤脩

課題をオープンにすることで、「渦中の友」たちが窮地を救ってくれた

仕事で忘れられないエピソードを教えてください。

UB Venturesでの一番のハードシングスは、2018年4月に1号ファンドを立ち上げたときですね。

当初は3社から出資を受けてクロージングする予定だったんですが、そのうち2社から同時に降りると言われてしまって……。3社目の企業はこの2社が入れるならうちも、と出資してくれたので、「どうしてくれるの?」と。

でもお金を出資してもらってファンドをつくっているので、乗り越えるしかない。そこで当時の経営チームには、状況をオープンに話しました。そうしたら、佐久間さん(佐久間 衡/ユーザベースCo-CEO)や千葉さん(千葉 大輔/ユーザベースCFO)、稲垣さん(稲垣 裕介/ユーザベースCo-CEO/CTO)、梅田さん(梅田 優祐/ユーザベース創業者)、村上さん(村上 未来/ユーザベース元CFO)たちが一緒に動いてくれて。ユーザベースを信頼してくれているステークホルダーを1社1社丁寧に話しに行って、無事にお金を集めることができたんです。

当時の経営チームのサポートがなかったら、UB  Venturesは立ち上がっていなかったでしょうね。

もうひとつのハードシングスは、1号ファンドから2号ファンドに移行するタイミングで、創業メンバーのひとりがキャリアチェンジと家庭の事情で、卒業するタイミングでした。ファンドも規模も大きくなり、投資も増えているなかで創業メンバーが欠けてしまうのは、かなりヒヤヒヤしました。

現メンバーでVC未経験の大鹿(大鹿 琢也/プリンシパル)が入ってきた直後だったんですが、僕が「やばい」と思う気持ちを伝えたら、彼は全然動じなくて。むしろ「これは第二創業期ですよ。せっかくだから思い切りいいチームをつくりましょう」と前向きに捉えて、UB  Venturesに興味がある方に事業説明をするなどしてくれたんです。これには助けられましたね。

ユーザベースのThe 7 Valuesにある「渦中の友」を象徴するようなお話ですね。

そうですね。あとは、「オープンコミュニケーション」にも通ずる話だと思います。オープンに明るく課題感を伝えていけば、みんなでそれをシェアして、楽しみながら乗り越えられる。ふたつの経験からそんな学びを得ました。

チームに多様性が加わることで、自分が想像していた領域外に出られた

「渦中の友」と「オープンコミュニケーション」の話が出てきましたが、岩澤さんがThe 7 Valuesの中で一番好きなバリューはどれですか?

時代とともに好きなバリューが変わるんですけど、いまは「異能は才能」が“推しバリュー“ですね。

UB Venturesは女性比率が高くて、たとえば現メンバーの頼さんは、女性キャピタリストで海外バックグラウンド。先日卒業したメンバーもシンガポール人のキャピタリストでした。

こういう環境にいると、「多様性があるチームは成長する」というデータは本当なんだと体感するんですよね。僕がひとりでやっていた1号ファンドのときと比較して、2号ファンドは自分の想像できなかった領域まで来られたと感じています。

頼さんが加わったことによって、自分が見えていなかった「ハードウェア」や「メタバース」など、投資テーマがどんどん拡張されていくし、自分だけではアクセスできなかった海外の投資家にもつながっていく。ビジョン自体もどんどん変わっていきます。

自分と同質的なメンバーだけでやっていたら、ここまで来られなかっただろうと感じますね。投資判断におけるディスカッションでバイアスを外すためにも、多様性をしっかり尊重しよう、それが結果的にUB Venturesを100年続くVCに成長させることにもつながるだろうと考えています。

まさに「異能は才能」を日々実感している感覚があります。投資においても、検証や投資判断をするときにESGやダイバーシティに関する視点が求められています。僕らはそれを仕組みとして取り入れてはいますが、まずは自分たちが多様化しなければ、そうした判断はできませんからね。

異能は才能

「UB Venturesらしさ」を土台として、世代交代を繰り返しながら「100年続くVC」をつくる

UB Venturesとして今後挑戦したいことを教えてください。

100年続くVCをつくることです。2022年10月には「事業家による起業家のための100年VC」というビジョンを策定しました。

海外のVCは1960年代から始まって、グルグルと世代交代をし、産業として成り立ってきました。日本では1990年代に立ち上がった第一世代がいて、それが世代交代をしていくターニングポイントにあります。

VCはスターキャピタリストが活躍するような属人化しやすい業界ですが、僕らはチームで勝ちたい。圧倒的な個の力はもちろん大事なんですが、UB Venturesらしい原則にもとづいた投資判断や、UB Venturesらしいカルチャーを持つキャピタリストを育てていきたいと思っています。

誰が出ていっても「UB Venturesのキャピタリストって、起業家に対してオープンで誠実だよね」と言われる。「UB Venturesが出資しているスタートアップっていいカルチャーを持ってるよね」と言われる──そんな空気感をつくっていくのが出発点だと思っています。

UB Ventures 岩澤脩

そのためには、コミュニケーションコストを極限まで増やして、チームメンバーや投資先の起業家の方と対話し続けることで、まず土台をつくっていきたいですね。

その次のステップは、しっかり世代交代をしていくことだと思っています。プリンシパルやシニアアソシエイトのメンバーが、自分の専門領域でパートナーに上がっていくサイクルをつくっていく。それが10年、20年でどんどん入れ替わっていく。新しいメンバーが常にUB Venturesに入ってくるというのが、100年続くVCをつくるうえで大事なことだと思っています。

編集後記

VCという仕事柄、さらにオフィスが別々(本社は丸の内、UB Venturesは渋谷に拠点があります)ということもあり、普段あまり社内にも動きが伝わってこないので、今回のインタビューでは「なるほど、そうだったのか!」という発見がたくさんありました。UB Venturesが「100年続くVC」になれるのか、私には見届ける術はありませんが、この記事が100年後に「UB Venturesの原点」として読まれたらいいなと妄想しています(笑)。

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本記事にはすでに退職したメンバーも含まれております(組織名・役職は当時)

執筆:宮原 智子 / 撮影:渡邊 大智 / 編集:筒井 智子
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