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「POTLUCK」の言葉でブレークスルーが起きた──地域経済創発プロジェクト「POTLUCK YAESU」

「POTLUCK」の言葉でブレークスルーが起きた──地域経済創発プロジェクト「POTLUCK YAESU」

 NewsPicksは三井不動産株式会社と共同で、東京ミッドタウン八重洲5階を拠点に地域経済創発プロジェクト「POTLUCK YAESU(ポットラックヤエス)をスタートしました。「大企業が集まる八重洲という地で、東京と地域が循環するような取り組みができれば」そんな思いでプロジェクトのテーマを提案したNewsPicksのPOTLUCKプロデューサー 山本雄生と、デザイナー月森恭助が、POTLUCK YAESUが生まれるまでの経緯について語りあいます。

山本 雄生

山本 雄生YUKI YAMAMOTONewsPicks Brand Design div. Business Producer

1984年生まれ。大学卒業後広告代理店を経て、2016年にニューズピックスに参画し、広告事業の立ち上げを行う。2019年よりビジネス開発部門を経て、2020年より企業の組織カ...

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月森 恭助

月森 恭助KYOSUKE TSUKIMORINewsPicks Creative div. Brand Design Team

1981年生まれ。大学卒業後、大阪のセールスプロモーション制作会社にデザイナーとして入社。東京の広告制作会社に転職後、アートディレクターとしてアパレル、食品メーカー、コスメ、...

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目次

産業創造につながるオープンな「場」と「機会」を提供

はじめに、POTLUCKが生まれた背景をお聞きしたいんですが、そもそもどんな経緯でNewsPicksがこの取り組みを始めることになったんですか?

山本 雄生(以下「山本」):
私が2018年頃から、三井不動産の新規事業に伴走していたのがそもそもの始まりです。横浜アウトレットでのイベントや、宇宙のカンファレンス「NIHONBASHI SPACE WEEK」、三井不動産創立80周年イベント「未来特区プロジェクト」でご一緒させていただくなかで、今回のミッドタウン八重洲の仕事の話が舞い込みました。
 
「八重洲に3棟目のミッドタウンを開業する予定なのですが、一緒に何か発信できませんか?」というトーンでのご相談から始まりました。その発信のテーマをこちらから「地域をテーマに何かしませんか?」と提案し、同時に三井不動産の担当者の方も、地域をテーマとしたプロジェクトを模索していて、最初に発信したいことがうまく一致し、スタートしました。
 
私としては、東京駅の目の前だし八重洲には大企業が集まっているので、東京で得たものを地域に返していく、循環が生まれるような取り組みをしたらどうだろうと思ったんです。
 
当時はちょうどコロナ禍で、日本から世界に出られないという事情もありました。そこで、「日本のモノを世界に発信する拠点」という意味で、ミッドタウン八重洲全体のコンセプトとして「ジャパン・プレゼンテーション・フィールド」を掲げていて。
 
そのなかで、「地域」もテーマとして含んで、ミッドタウン八重洲の5階を共創型産業発信拠点として、「地域と共生する場所(メディア)」にしてはどうか? という感じで決まっていきました。

POTLUCKプロデューサー 山本雄生
POTLUCKの最終的な目的や狙いはどこにあるんですか?

山本:
我々はPOTLUCKのプロジェクトを「地域経済創発プロジェクト」と呼んでいて、新しいビジネスが生まれる、産業創造の場となることを目的としています。
 
「場」と「機会」を提供することが大きなプロジェクトの「How」であり、地域経済にまつわる新しい産業の創出が大きなゴールとしてありますね。
 
この「場」のあり方については、チームでの議論を経てですが、当初から会員制ではなく、誰でも使えるオープンな場にしようと決めていました。
 
地域経済創生プロジェクト「POTLUCK YAESU」のサブコピーとして、「持ち寄る・見つける・つながる」をキーワードに据えているんですが、その前のコンセプトが「日本のオープンラウンジ」だったんです。

コンセプト整理時の資料

コンセプト整理時の資料

山本:
地域に方々にとって友人の家くらい、ひらいた環境をつくる。クローズドではなく、まずはオープンに、誰でも来られる場所をつくろうと進めてきました。
 
表には出していませんが、このプロジェクトの裏コンセプトは「日本に友だちをつくろう」だと思っています。友だちや知り合いが増えれば新しいことが生まれるし、地域で災害が発生したら身近なこととして捉えられる。八重洲がこうした友だちをつくれる「場」になるといいよね、と話しています。

なるほど。月森さんがこのプロジェクトに参画したキッカケはなんですか?

山本:
NewsPicksの中でメディアをつくる場合、ターゲットは必然的に「NewsPicksを知っている人」になります。今回は三井不動産との共同プロジェクトでしたし、NewsPicksの中の人だけにアプローチするのではなく、NewsPicksを知らない人も来て楽しめるようにしたかった。そこにNewsPicksとのつながりがあればベストだと思っていました。
 
僕らとしても、NewsPicksを編集することに慣れていて、そうなるとどうしてもネーミングやコンセプトがハイコンテキストになりがちなんです。
 
月森さんに声をかけたのは、思考を含め、手掛けられて範囲が広そうだったから。それと、月森さんの前職が東北新社で、広告デザインを手掛けていた点が決め手でした。いい意味で「脱NewsPicksらしさ」で外に出ていくためには、広告的な観点が必要だと思っていたんです。
 
月森さんにはブランドストーリーだけでなく、広告的アプローチで力を発揮してもらいたいと思いました。
 
月森 恭助(以下「月森」):
参画したのは割と早いタイミングで、はじめはプロジェクトのネーミングの壁打ち相手になっていた感じですね。
 
当初は本当にハイコンテキストだったんですよ。ビジネス横文字みたいなものがとてもたくさん出ていて、手触り感がないなと思って。「こういう思考停止することは書かないでください」と意見したりしていました。
 
山本:
このプロジェクトの最初のコンセプトが「図書館」だったんですよね。日本の地域の「知」を集めるということで。楽しそうだなと思う反面、ふと「これだと人が来るイメージがないな……」と。
 
NewsPicksの認知よりも、東京駅の乗降客数のほうが多いんだから、NewsPicksに閉じるのではなく、もっとオープンにした方がいいんじゃないか、といったことを月森さんと話しながらコンセプトの輪郭をつくっていったイメージですね。
 
最終的に、私とプロジェクトにジョインしてくれている横石さん(横石 崇/&Co.代表取締役、プロジェクト・プロデューサー)、ディレクションの松田くん(松田 龍太/フリーランスプランニングディレクター)の3人でディスカッションをしていたときに、横石さんが「もっとオープンなイメージにしたいんですよね、ポットラックパーティーみたいに」と言ったひと言から、その音感やイメージが決め手になって「POTLUCK」にしました。

POTLUCKコンセプト

山本:
このネーミングが出てきた瞬間がブレークスルーで、「ひらいた」という感じがありましたね。
 
月森:
みんなのチャクラが開きましたよね(笑)。

月森さんはこれまで、こうした「場」をつくるプロジェクトに参画した経験はあったんですか?

月森:
前職でエキュート(JR東日本の駅構内にあるエキナカ商業施設)の開業に携わったことはあります。駅ビル・駅ナカによって駅自体に買い物という目的が加わると、通過する場所を目的地に変換できるような側面があります。

POTLUCKも「人が集まる場所をつくる」という意味では似ていると思います。ただ、POTLUCKの場合はビルの4階・5階。通過する人がいる駅とは条件が違って、そこを目がけて来てもらうのってすごく難しいんですね。

じゃあどうすればいいのかというと、メッセージを明確にしつつ、ある程度余白を残す必要があるんじゃないかと思います。

たとえばNewsPicksはメディアのターゲットが明確なので、その人たちに正しくわかりやすく伝えることに重きを置く。ですが、ターゲットが広い広告コミュニケーションの場合、「受け取ってもらえるかどうかわからないものを、受け取ってもらいやすいようにつくる」みたいなところがあって。

だから使い方を限定して余白がなさすぎると、本来ユーザーになり得る人が「自分向けじゃない」とそっぽを向いてしまうので、それを防いで少しファジーなほうがいいんじゃないかと思いました。

POTLUCKと駅ナカには他にも違いがあって、駅ナカの場合は「この駅をどんな年齢の人が、何時頃、どれくらい通る」といったデータが蓄積されているんです。仮に東京駅の利用者データがわかってもPOTLUCKにそれが当てはまるわけではない。本当にこの4階・5階を目的に人が来てくれるんだろうか……といったプレッシャーがありましたね。

「持ち寄る、つながる、何かがはじまる」としながらも、場の使い方を徹底的にレクチャーしていなかったり、うっかり迷い込んだ人がカフェ利用で休憩しながら地域の情報を目にしてしまったり、ひょんなことから何かがはじまってくれるかもしれないような余白がPOTLUCKにはあると思います。

POTLUCKのコンセプト「持ち寄る・つながる・何かがはじまる」を体現する活動を展開

「場」の提供と「機会」の創出をテーマに、実際にPOTLUCKでどんな取り組みをしているんですか?

山本:
デジタル(Webサイト)とリアル(オープンラウンジ)のふたつプラットフォームがあって、そこでPOTLUCK LETTERというメールマガジンの配信や、地域経済創発をテーマとしたリアルとデジタルのハイブリッド型イベント──具体的には、年2回のフェスやPOTLUCK BAR、実際に地方に出かけるキャラバンを開催・実施しています。とにかくPOTLUCKYAESUに持ち寄られた企画をPOTLUCKらしく実行していっています。

フェスはどんなコンセプトで開催しているんですか?

山本:
「祭り」です。一般的なビジネスカンファレンスだと、協賛してくれた企業に対してリードを渡すといったことをすると思うんですが、そうではなく、お祭りで提灯や協賛者の名前が貼り出されているような、みんなでつくる場を目指した結果「祭り(フェス)」にしたいとなっていきました。
 
月森:
地域についてまじめに語り始めると、ネガティブな現状がポロポロ出てくるんです。それよりも、みんなでブレークスルーをつくることが大切。だから、あえてビジネスカンファレンスの逆張りをいくことにしました。
 
山本:
繰り返しになりますが「POTLUCK」のイメージは、「ひらく」なんです。だから、全部のコンテンツが開かれていないといけない。フェスのビジュアルやデザインは、「楽しい」「Fun」を意識しています。

フェスのロゴデザイン

山本:
あとは、「キャスト」「ホスト」「ゲスト」の役割を混ぜられるような場にしようと考えました。出演者が参加者にもなるし、今回のゲストが次回のホストになるかもしれない。キャスト、ホスト、ゲストの垣根なく、みんなが地域経済を考える、みんなでつくる場であることをコンセプトにしています。
 
月森:
まさにPOTLUCKの「持ち寄る・集まる・つながる(※初期コンセプト)」ですよね。
 
地域から名産品を持ち寄ってもらって、そこに人が集まるし、集まった人同士がつながる。モノと人、人と情報、人と人がつながって、その場を起点に新しい取り組みやプロジェクトが生まれるフェスですね。

実際にフェスに参加した方からはどんな反響が得られていますか?

山本:
反響はめちゃくちゃいいですね。2023年春のフェスが545名、秋のフェスには630名が参加してくれました。参加者も登壇者も楽しんでくれたのと、POTLUCKという場所やコンセプトに共感して参加してくれた人が多くて、コンテキストが形成されているなという感触があります。
 
今後は同じことを繰り返しているとだんだん「村化」していくので、オープンとセミクローズな状態をどうデザインするかという課題はありますが、POTLUCKのコンセプトを理解したうえで参加してくれる方が多いので、楽しい、良い雰囲気ができあがっているんじゃないかと思いますね。

フェス風景
「POTLUCK BAR」はどんな狙いで開設したんですか?

山本:
「場所」は365日そこにあるわけですが、僕らがコンテンツをつくるリソースには限界があります。そうなると、その場に参加してくれる人にコンテンツをつくってもらわなきゃね、とは話していたものの、「場所があるのでウェビナー開催してください」というのはなかなかハードルが高かった。
 
だったら、併設されているカフェでバーをやったらどうかという話になって、春に開催した1回目のフェスで余ったお酒を置いて、チイキズカンの坂本さん(坂本 大典/元NewsPicks代表)やRe:gionの呉さん(呉 琢磨/NewsPicks Re:gion編集長)が立つようにしていたんです。そうしたら、「こういうことができるんですね」と話題になって。
 
僕らにとってもいろいろな人がバーに来ることでPOTLUCKの認知が上がるし、これならひとつのコンテンツとして成立する。だったら集客は自分たちでしてもらうことを条件に、地域の人たちが集まる場を提供しようということになりました。

POTLUCK BARの様子

POTLUCK BARの様子

POTLUCK YAESUから地域に出ていく「キャラバン」という取り組みは、どういう経緯で生まれてどう広がったんですか?

山本:
八重洲に人を集めるだけでは、地域経済の創発にはならないのではないかという話があって、地域の人との結びつきを深めるために八重洲から外へ出て行くイベントをやろうというのが発端ですね。
 
2023年春のフェスに来てくれたこゆ財団の齋藤さん(齋藤 潤一氏/同財団 代表理事)から「宮崎でもイベントやろうよ」と声を掛けていただけたので、コンテンツの企画はすべてこちら側で立てて、現地のパートナーとして一緒に開催しました。
 
月森:
キャラバンのときは、そもそもネーミングって本当に「キャラバン」でいいんだっけ? というところから始まっていますよね。トラベルやトリップといった候補もあったんですが、ベースにフェスがあってのイレギュラーなイベントなので、「出張感」があるほうがいいよね、といった議論を経て「キャラバン」に落ち着きました。

POTLUCK CARAVAN
NewsPicksには同じく「地域」にフォーカスしているNewsPicks Re:gionがありますが、こことの関係性はどうなんですか?

山本:
POTLUCKで「地域」にフォーカスしようとなったときに、Re:gionの呉さんとも一緒につくり上げていて、コンセプトづくりにも協力してもらいました。「地域」に詳しいRe:gionピッカーを紹介してもらったり、NewsPicksのつながりを使って視察エリアに一緒に行ったりしていましたね。
 
Re:gionがメディアとして立ち上がっていたのもあって、NewsPicksで地域経済を扱うことの説得材料になったと思っています。Re:gionのブランドを活かしてスタートダッシュが切れました。
 
現在は、Re:gionはチイキズカンだったり、都市型フェスだったり、よりNewsPicks「らしい」立ち位置にいて、POTLUCKは地域経済や人と人との出会いみたいな部分に重きを置いています。

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POTLUCKを「何かがはじまる」場に昇華させる

POTLUCKが目指す世界観を実現するにあたって、いま課題に感じていることを教えてください。

山本:
収益性です。POTLUCKにものすごく可能性を感じているので、しっかりとビジネスにしたいと思っています。
 
その方法は、大きくふたつ考えています。ひとつが、いまのPOTLUCKのスキームをモデル化していくことで、プロデュース事業として収益を上げていくこと。POTLUCKに集まってくる人たちと一緒に事業共創をして、新しい収益源をつくっていけたらと思います。
 
もうひとつは、NewsPicksというメディアを巻き込んで、地域経済創発を増やし、メディアプロデュース事業としてちゃんと収益化していくことです。
 
POTLUCKとして「持ち寄る・集まる・つながる」まではできたけれども、「何かがはじまる」という部分に対して、僕らは何ができるのか。どう産業創造を果たしていくのか、まさに今後取り組んで行きたい部分ですね。 

POTLUCKの風景

編集後記

私も昨年のフェスに行きましたが、とにかく熱気がすごかったです! カフェのご飯もおいしいし、オンラインミーティングができるスペースもあるし、気分転換にテラスで仕事をするのもアリかも。ユーザベースのメンバーにももっと積極的に活用してもらいたいなと思いました。3月には3回目となるフェスもあるので、ぜひ遊びにいらしてください!

執筆:宮原 智子 / 編集:筒井 智子
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