自分自身が「リーダーになりたくない」会社ではダメだ
私は20代のうちに絶対にやりたいことが2つあって、ひとつが海外で働くこと。もうひとつが自分のチームを持つことだったんです。初めてリーダーを打診されたのは入社して半年後くらいだったんですが、「2つとも目標が達成できる!」と思いました。
ユーザベースには2020年に入社して、その3週間後にはSPEEDA Asiaの拠点があるシンガポールに発つことが決まっていました。シンガポールで勤務を始めた初日、当時のリーダーの大鹿さん(大鹿 琢也/現UB Ventures プリンシパル)と1on1をする機会があって、そこで大鹿さんから「自分は1年後を目安に異動するから」と聞かされたんです。
それから半年ほどして「自分が辞めるときは佳織ちゃんがリーダーだから」と言われて、2021年1月に実際にSPEEDA SEAのCSリーダーを受け継ぎました。
村樫さん(村樫 祐美/ユーザベース執行役員 カルチャー担当)からは、異動して割と早い段階からリーダーの打診を受けていたんですが、実は、Cultureチームではリーダーをやりたくないと思っていたんです。SPEEDA AsiaのCSリーダーを務めていたときに燃え尽きてしまって、「今後ユーザベースで絶対にリーダーにはならない」と決めていたんですよね。
Cultureチームのリーダーなんて、CSよりも重たい。聖人君子しかリーダーになってはいけないんじゃないか、お酒も飲んではいけないし、なんなら丸の内オフィスの周辺でゴミ拾いとかしなきゃいけないんじゃないか、くらいのイメージでいたんです(笑)。
自分がカルチャーを100%体現できていなければ、就任してはいけないものなんじゃないかというプレッシャーがあったんですよね。
それでもリーダーを引き受けたのは、「自分自身がリーダーになりたくない会社じゃダメだ」と思ったからです。社内には私のほかにも「リーダーになりたくない」と思っている人はいると思うんですよ。そうした人を減らすためにも、自分がリーダーにならねばと思いました。
「20代でも人事部門のリーダーになれる」「別部署から異動してもまたリーダーになれる」──自分がリーダーになることで、誰かに少しでも自己効力感が生まれればいいなと。行き詰まり感をつくっちゃいけないと思ったんです。

SPEEDA Asia CSリーダーのときはものすごい衝撃でしたね。当初から現地のメンバーに「なぜKaori がリーダーか分からない」と言われてしまって。
Slackでも、いろいろな鍵付きチャンネルで急にメンションがあったと思ったら、メンバー同士のトラブルフォローに入ってほしいとか、本社の意思決定に向けたミーティングに参加するようにとか、急に忙しくなりました。Slackに酔いそうでしたね。
これがキッカケで、「リーダー職以上の人たちってこんな景色を見ていたんだ」とガラッと思考が変わりました。リーダーとメンバー両面の景色を見るか、片面の景色しか見ないかで、毎日の動き方が全然違う。そんな感じですね。
でも総じて、リーダーをやってよかったと思います。特にCultureチームはHoldingsに所属しているので、よりステークホルダーも多いしプロジェクトも大きい。リーダーだから見える景色や、リーダーだから決められることが多いんです。
いまは自分でユーザベースを動かしたいのであれば、どんどんレイヤーをあげていかなければいけないなと思っています。
ワークライフバランスは1日単位でなく、月単位、年単位で考えていい
やさしさとバランスですね。私には人生のテーマがあって、ひとつは「自分にやさしく、人にやさしく、自然にやさしく、多様性にやさしく」。もうひとつは、「自分の境界線を曖昧にする」こと。
意図的に境界線を曖昧にしていると、完璧主義にならなくて済むし、毎日新しい発見や出会い、刺激があって楽しいんです。
逆に、どちらかに極端に偏ったアンバランスな状態は苦手です。マジメだったりふざけたり、どっちもできる人との付き合いのほうが好き。仕事も作業に集中しているときとそうでないとき両方を楽しみたいし、仕事と遊びの境界線がゆるゆるしているほうが楽なんです。
仕事をするうえでバランスをどう取っているかというと、たとえば「コト」に向かう時間と「ヒト」に向かう時間を意識していますね。どっちかに偏るのではなくて、「ものすごく人に寄り添いながら、きっちり成果を出す」といったことを考えながら仕事をしています。
境界線を曖昧にしたいなと思うようになったのは、自己管理の観点です。Well-Beingですね。内省してみたら、自分はどっちかに寄りすぎるとダメになってしまうタイプだとわかったので、自分が健康的に働くうえでもバランスを保つことが大切だなと思うようになりました。
結果としてチームのメンバーにも、健康でやさしくポジティブな状態で接せられるといいなと考えています。

ワークライフバランスについては、私は独身なので比較的実践しやすいはず。以前は夜にスナックでバイトをしていたくらい、プライベートな時間を持てています。
あと、傑さん(山本 傑/SPEEDA事業執行役員 カスタマーサクセス担当)が以前このシリーズの記事で「ライフワークバランスって毎日何時間ずつとかではなくて、何ヶ月とか、何年とかのスパンなんだ」と言っていて、とてもいいなと思いました。


私は今年で30歳になります。35歳くらいまでには出産したいと考えていて、そのときはライフに傾くはず。だから、いまワークを1.3倍くらい頑張っておく。その頑張りのおかげで、ライフに傾いたときに不安になったり、焦ったりする度合いを少しでも減らせたらいいなと思っています。
本当は「20歳から40歳はこう」「40歳から60歳はこう」というふうに大きく区切ることができるのに、みんな「1日のうち8時間」みたいな区切り方をしてしまう。それだとどんどん窮屈になってしまいそうですよね。
一方で、ワークライフバランスがうまく取れていないなと思うこともあります。仕事に夢中になると、いろいろ考え事をしてしまうんですよね。佐久間さん(佐久間 衡/ユーザベースCo−CEO)とか、役員が夢に出てくることも(笑)。
シンガポールにいたときにコロナ禍が始まって、ストレスが限界になって日本に帰国しました。その後自宅でずっとリモートワークをしていたら、バーンアウトしてしまったんです。それをキッカケに日本でのキャリアをあらためて考えて、「いまは海外の支援をしている場合じゃないかもしれない」と思って。
日本に戻ってエスカレーターに乗ったときに、「この国、ヤバいかも」と思ったんですよ。なんでこんなにみんなの顔が暗いんだ、と。みんな自己肯定感が低いし、周りの目を気にしすぎだし。「自分の生まれ育った国の人々を、もっと元気にしたい」そんなことを感じました。
こんなふうに感じたのは、ユーザベースの影響ですね。The 7 Valuesが自分の中に浸透して、ミッションドリブンな人生のほうがおもしろそうだと思い始めていた頃だったんです。ただ、当時は自分のミッションをユーザベースで実現するのではなくて、転職をしようと考えていました。CSとは違う仕事をしたい、キャリアパスを変えたいという気持ちがあって。
そう話したら、しのぶさん(松井 しのぶ/ユーザベース 執行役員CHRO)、稲垣さん(稲垣 裕介/ユーザベースCo-CEO)、村樫さんから1on1をしようと言われて、「そういう使命感があるなら、Cultureチームに来たらどう?」と誘われました。
私、実はこのとき初めて稲垣さんと話したんです。今だから言えるけど、それまで稲垣さんのことが少し苦手でした。当時稲垣さんは英語が話せなくて、周囲が「稲垣さんはそのままでもいい」みたいなことを言っていたので、「それって海外チームとコミュニケーション取らないってこと?」という気持ちがあって……。
でも実際に話してみたらすごく温和で、ものすごく肯定してくれるんですよ。転職してもいい、それはあなた次第ですよ、って。自分の気持ちを押しつけるのではなく、でも、あなたにこういうことを期待しているよ、と言ってもらえる。
初めて会ったのに、大きく包まれるような感覚。ユーザベースを創ったのはこんないい人だったんだ、と思いました。

相互理解を促すコンテンツをたくさん用意してコミュニケーションを図る
私は普段、自分のチーム以外の人と関わることがものすごく多いので、何度も一緒に仕事をしている人と、初めましての人とで接し方を分けています。
初めましての人たちとは、コトを急ぎすぎないようにしています。まずは相互理解を優先する。相手のことを知ろうと努めて、その人の価値観に合わせてコミュニケーションを取るように心がけています。
これは佐久間さんがよく言っている「初期コミュニケーションに投資する」ですね。マネをしてみたら、すごく効果がありました。はじめに仲良くなっておけば、後でぶつかっても本音で話せるんです。
具体的にどう業務に落とし込んでいるかというと、たとえばプロジェクトであれば、最初にみんなでチーム合宿(数時間〜1日かけて行うオフサイトミーティング)をします。ほかにも、定期的にメンバー同士でお互いのゴールセッティング(四半期の目標)を共有したり、私自身のトリセツをつくってみんなに紹介したり。そうした相互理解ができるコンテンツを大事にしています。
アジェンダや人によって、ティーチング、コーチング、フィードバックの使い分けることを意識しています。
コーチングっぽく始めたのにティーチングを始めてしまうと相手を混乱させてしまうので、曖昧なことはしない。初期セッティングをちゃんとして、ティーチングと決めたらティーチングをやり切るようにしています。
本人の中にすでに答えがある場合には、基本的にコーチングをします。一方で、結果は出さなければいけないので、進捗が遅れそうだと思ったら、そこはドライにティーチングに切り替える、といった使い分けをしています。

目上の人や自分よりも詳しそうなメンバーだと、私が折れてしまうことが多いですね。私自身、これはThe 7 Valuesにある「異能は才能」のはき違いだと感じています。相手の能力に依存したり、利用したりしてしまっている。これは自分自身の課題です。
相手に譲ってしまうということは、その人と同じ立場に立っていないんですよね。「自分はこれについて誰よりも考えてるんだ」という自信があれば、軸を持って同じリングに立てるはず。だから、単純作業の時間を極力減らして「思考する時間」を増やすよう心がけています。
化学反応の先にある「わからなさを楽しむ」
ポジショントークになってしまうかもしれないんですが、DEIB Committeeの取り組みを通して、The 7 Valuesのひとつである「異能は才能」を起点に、会社の根幹からストーリーをつくり込んでいけたのはよかったと思います。
企業でダイバーシティ推進をやろうとすると、既に会社の理念やパーパス、事業があって、DEIBを出島のようにぽつんとつくる、という構造が少なくないですすが、ユーザベースの場合はすべてがつながり合ってストーリーになりつつあると思います。
DEIBに取り組み始めた当初は、E=EquityやB=Belongingの要素はなく「D&I」だったし、もちろんメンバーの中にも「D&Iって必要なの?」という人はいました。「ユーザベースでは活躍する人は当たり前にリーダーになれるんだから、女性活躍とか必要ないんじゃない?」とか、「パーパスやバリューに合った人を取るのがユーザベースなんだから、女性採用だとか変なクライテリアをつくらないで」とか。
そこに正面から向き合って、ひとつ壁を越えた感覚はありますね。情熱を持った仲間が増えてすごくいいチームになったし、社外からも注目いただく機会も増えてきました。「誰でもトイレ」や「産休育休ハンドブック」は、毎月のように他社さんからお問い合わせをいただきます。
私個人にとってのDEIBは、海外での経験ですね。初めてイギリスに住んだときは衝撃でした。中国人や韓国人と一括りにされてイヤな気持ちになったり、白人男性にモテたいと思っていたり。そうした周りの人を人種の切り口でジャッジしていた過去の自分が死ぬほど恥ずかしいと思っていて、いまDEIBに取り組んでいます。
すべての前提を覆すような経験をすると、人はいやでもアンラーニングします。そして異なるものに触れることに興奮を覚えて、自分のアイデンティティを確立していくんですよね。

シンガポールから日本に拠点を移したときも本当に孤独でした。本社には数名しか知り合いがいなくて、オフィスに行くのが苦痛で……。カードキーを忘れた日は、誰にも「開けて」と言えないほどだったんです(笑)。こういった感情を想像できるからこそ、いまこんなに強い気持ちで人事にもDEIBにも向き合えているんだと思います。
メリットはたくさんあります。PIXARの『マイ・エレンメント』という映画、見たことありますか? 『マイ・エレメント』は本来は交わることのない火と水が恋に落ちる話なんですが、ショーやサーカスで火と水が交わった瞬間って、すごくきれいですよね。
一見交わらないものが一緒になったときの化学反応って、ステキだと思うんです。普段から交わっている人たちだけでは絶対に生まれない奇跡がある。それがプロダクト開発やサービス開発に活きることが絶対にあるはず。
ただ、そうした化学反応が万が一ネガティブに出てしまったら……と思って、二の足を踏む人もいますよね。そうした場合は、組織が化学反応の機会をつくればいいと思います。
女性活躍推進や子育て世代とか性別やライフステージの切り口じゃなくていいんですよ。たとえばユーザベースでは、デザイナーとエンジニア、ビジネスの人とか。BtoCとBtoBの人とか。小さい化学反応は常に起きています。その衝撃は小さなものでも、絶対に自分の中に蓄積されているはず。
「わからなさを楽しむ」がユーザベースのDEIBのミッションなんですよね。

私にとってのDEIB
前述したPIXARの映画『マイ・エレメント』。化学反応のアニメーションが綺麗なんです。
編集後記
実は2年半前、彼女がシンガポールでSPEEDA SEAのCSリーダーをやっていた頃にも、このインタビューシリーズに出てもらえないか打診したことがあります。でも「実は退職を考えていて……」と断られてビックリしたのを覚えています。今回インタビューして、退職を考えた経緯を聞くことができ、「なるほど、そんなことがあったのか」と2年半越しに知ることができてよかったです。
その後ユーザベースに残ると決めてくれて、今はDEIB Committeeなどさまざまなプロジェクトで一緒に仕事をするようになり、今回念願叶ってようやくインタビューすることができました。個人的に感無量です(笑)!