NewJoiner育成への課題感からスタート
大道寺 咲栄(以下「大道寺」):
私は2017年にユーザベースに入社して、スピーダのフィールドセールス(以下「FS」)として大手企業と中小・中堅企業を担当、インサイドセールス(以下「IS」)チームでリーダーを務め、その後Enablementに携わっています。
スピーダでEnablement組織を立ち上げるキッカケになったのは、2021年の採用戦略の転換です。それまで少人数のシニアメンバーをメインに採用していたんですが、若手メンバーを大量採用することになったんです。そこでEnablementチームを立ち上げて、育成体制を整えていくことになりました。
私は当時のEnablementチームから声をかけられて、その立ち上げから参画しています。NewJoiner(中途入社メンバー)が安心して立ち上がれる環境づくりがしたいとずっと思っていたので、それが叶った形ですね。
作田 遼(以下「作田」):
僕は前職のセールスフォースで、大企業向けの営業から中小・中堅企業に対する新規顧客開拓、既存顧客深耕、チームメンバーの育成に携わりました。その後、営業戦略の立案から実行までを担当し、執行役員を務めた後、ユーザベースに入社しています。
大道寺:
作田さんが入社してくれて、「大先生が来てくれた!」「救われた……!」と思っていました。当時は再上場の最重要戦略としてエンタープライズ深耕が掲げられていて、メンバーの人数が2〜3倍に増員されたタイミング。エンタープライズ深耕のEnablementはスピーダ事業で初テーマだったので、一緒にEnablementに取り組んでいた光岡さん(光岡 亮介/スピーダ事業 執行役員)と、何から着手すべきか右往左往していたんです。
作田さんにはさっそく週次の定例会に入ってもらって、どこからEnablementを進めていくべきか整理して、設計をしていただきました。そこからいっきに取り組みが加速していきましたね。
「中央値を上げる」Enablementの本質とは
作田:
セールスフォースには人事組織ではなく営業組織に近いところで営業メンバーをEnablementしていく組織がありました。日本では2010年頃から取り組みをしていたので、先駆者的な存在だったと思います。
ただ、「確立されていたか」と聞かれると、答えはNOですね。なぜなら、Enablementに求められる役割は時代に合わせて変化するものだからです。
Enablementは営業戦略と密にアラインさせる必要がある。営業戦略が変われば、当然Enablementの役割も変わってくるわけです。
これまでユーザベースのEnablement TeamはHRの下に置かれていましたが、2025年1月から私が担っているCRO組織の直下にEnablement & Strategy Domainを置くことにしたのも同じ理由からです。
ユーザベースは、スピーダ・NewsPicks・Corporateというカンパニーの下に、Domain>Division(2ndライン)>Team(1stライン)という組織構造になっています

作田:
平均値ではなく、中央値を上げる取り組みだと言えますね。セールスフォースでは、Enablementは「2-6-2の法則(※)」の「6」を上げる、つまり、「中央値を上げるもの」という言い方をしていました。
集団において、生産性の高い人が2割、平均的な人が6割、低い人が2割の割合で存在するという経験則。
たとえばセールス組織の生産性を向上する際に、中央値に当たる100人中50番目の人が昨年よりも売上を100万円上げてくれたとしたら、組織全体が底上げされたことになります。反対に、平均値が100万円上がった場合は、トップ層の人たちが数字を引き上げていることになる。もしもその人たちが辞めてしまったら、平均値は下がってしまいます。
現場との合意形成がEnablement成功の鍵
大道寺:
現場のリーダーと課題をしっかり共有することです。「何を解決しなければならないか」の共通認識が持てるよう丁寧にコミュニケーションしました。
当初はスピーダのリーダー陣もEnablementに対して懐疑的で、こちらが課題に対して「型」を徹底することを提案しても、「メンバーがやりたいことを尊重したい」と。でも、これまでと同じやり方では目標数値を達成できないのではないか──そういう議論をとことんしましたね。
作田:
Enablementには2階層あります。1階層目は基礎スキルを上げていくためのEnablement。2階層目は、新戦略や新商材を売るための高度なスキルを身につけるEnablementです。
2階層目の高度なスキルに関しては、それまでやってきたことに変化をもたらすことになるので、リーダーとの合意形成が必要なんです。
リーダーの合意形成を得るためには、営業戦略とのアラインが必須です。営業戦略を理解し、戦略を実行するためにどんな営業施策が必要で、そのためにこういうEnablementが必要だ、というストーリーを描くことが何よりも重要ですね。
大道寺:
2024年2月に光岡さんと議論していたときに、課題が複雑で目線合わせが難しいシーンがあって。現状・あるべき姿・課題をスライドで画にして可視化することで解決したことがありました。大企業アカウント統括本部の戦略を実現できる組織はどんな組織なのかを言語化したり、そもそもその戦略ができている組織ではどんなスキルセットがキーになっているかを明示したり。
事業戦略を組織戦略に転換するために何が必要かスライドで可視化したことで、ブレークスルーのキッカケをつかめました。
私は合意形成で、受け取る方が「やってみたい!」と思ってもらえるメッセージ性・コミュニケーションもすごく大事だと思っています。「やらされている」と捉えられてしまうと定着・浸透が進みづらく、効果が出にくい。「誰がどのようなメッセージで伝えると一番良いスタートが切れるか」を重視していますね。たとえば「作田さんが実践してきた勝ちパターンは取り入れたい!」となるようなイメージです。

作田:
合意形成には、現場の課題感を把握することも重要です。大道寺さんはリーダー陣とのコミュニケーションだけでなく、メンバーの商談にも積極的に同席しています。もともとISもFSも経験があり、営業の難しさも、数字につなげるには何が必要かも分かっている。その現場解像度の高さが、課題感の把握と合意形成がうまくいっている大きな要因だと思います。
ストーリーを描くことでEnablementを成果につなげる
大道寺:
大企業アカウント統括本部向けには、Big DealのパイプラインをKPIに置いています。2024年は順調に成果が出ていました。このうちの6割を占めたのは、吉田佑弥さんがリーダーを務める通信業界担当チームでした。
作田:
このBig Dealの取り組みがうまくいったのは、「ストーリー」を描けたからだと思っています。
ユーザベースはBig Dealをつくっていくことを営業戦略に置きました。Big DealをつくることをOKR化し、2024年、2025年に達成するBig DealのパイプラインをKPIとして設定し、それを達成するためのBig Dealのモニタリング手法が、フォーキャストモデル(業績などを分析するための予測モデル)としてできあがりました。
同時に、通常案件とBig Dealの比率もセットされ、それを実現する具体的手法としてPoV(※)研修やチャンピオンの特定、ISとの連携と、Big Dealの型化を展開していきましょうと。こういう流れでストーリーを描きました。
Point of View:お客様の課題の根幹に対して、ユーザベースがどんな価値を提供できるかを示したもの
このBig Dealを獲得するために吉田さんがチームでしたことは、Big Deal Deep Dive会議という取り組みです。これを毎週開いて、Big Dealをつくるにはどうしたらいいか、ひたすら考え続けていました。それが成功につながったのではないかと思います。
大道寺:
吉田さんのチームはまさに、メンバーのスキルを上げてチームでBig Dealを創出するという、作田さんがプログラムした「スケーラブルなFS組織」を体現していますね。

作田:
そうですね。実際に大企業アカウント統括本部でこれだけ成果が上がっているということで、ほかの営業組織からもトレーニングを希望するリクエストがくるようになりました。Enablementをしていくうえでは、実績を出して社内全体に波及させることも重要なポイントですね。
Strategy機能との統合で描く組織の未来
作田:
Strategy(戦略)があってEnablement(育成)があるという関係なので、今年からEnablement & Strategy Domainになったことにはとても意味があるんですよね。

Strategy Domainは、Go-To-Market戦略(※)や3ヵ年の営業戦略、組織戦略の策定を担います。中長期を考える未来軸の機能と、足もとをしっかり照らしモニタリングして少し先の未来を予測する軸と、2つの機能を役割として持ちます。
Go-To-Market戦略:企業が自社の製品やサービスをどのように顧客に届けるかをまとめた戦略・計画
僕はCROとStrategy Domainを兼務するため、レベニュー組織の責任者としての戦略をそのままStrategyの戦略に落とし込めるのが強みですね。
Sales StrategyとEnablementを形づくっていくうえでは、経営視点でものごとを俯瞰的に見る必要があります。チームのメンバー全員、是が非でも視座をあげなければいけません。逆に、ここでスキルを高めた人は、営業リーダーとしても成長できるはずです。
大道寺:
ユーザベースは再上場に向けて、難易度の高い戦略を描いています。そのため、いかにリスクを察知するか、そのうえでいかに高速にリカバリー策を描いたり、軌道修正したりしていくか、戦略と実行の見直しを高速で回していく必要があります。
Enablement & Strategyは、それを確実に実現するための役割を中心的に担う組織です。単に「できあがっているセールス手法を再現」するのではなく、難易度の高い戦略に合わせたセールス手法をどう実現していくかを描きながら、自身も営業の経験値を積み上げていける点は価値につながるのではないかと思っています。
作田:
ユーザベースはValue Selling(※)や精度の高いTHE MODEL(※)思考、マネジメントシステムなど、セールスの仕組みがものすごく洗練されています。加えて大企業アカウント統括本部では、本当の意味でのエンタープライズ・セリングを身につけることができると確信しています。
Value Selling:プロダクトの機能説明だけをする事ではなく、顧客の課題解決に焦点を当て、価値提供の最大化を目指す営業スタイル
THE MODEL:SaaS企業に最適化された営業組織モデル。セールスフォース社が実践していた営業手法をもとに、福田康隆氏が体系化したもの。

編集後記
作田さん・さっきー(大道寺のニックネーム)には、過去にもそれぞれインタビューしていますが、改めてEnablementの進化を聞かせてもらい、そのスピードの速さにビックリしました! 下に関連記事としてEnablement組織を立ち上げた頃のインタビューを載せていますが、手探りでNewJoinerの観察日記を付けていた(!)頃から約3年、チームメンバーも増え、育成を担当したメンバーも増え、どんどん拡大していてすごいなと改めて思います。今後、社内の他組織への横展開を含め、さらなる進化が今から楽しみです!



