「ChatGPTって何?」からの出発。アイデアソンありきの勉強会を主催し参加者を募る
中山 友弥(以下「中山」):
アイデアソンを発案したのは翔陽さん(西川 翔陽/SPEEDA事業執行役員 CCO 兼 MIMIR Professional Firm Div Leader)です。翔陽さんがアイデアソンの対象となるプロダクトを、SPEEDAとFORCAS Sales、MIMIRに絞って、その中でユーザーの解像度が高そうなメンバーをアサインしたという認識です。
大堀 秋沙(以下「大堀」):
翔陽さんから「アイデアソンやってみない?」という感じでDMが来て、ふだんあまり業務で関わりのないメンバーが突然集められて。翔陽さんからは、企画を盛り上げるために「神輿を担げるし乗れる人だと思ったから呼んだ」と言われました。
鎌田 麻以子(以下「鎌田」):
私はもともと事務局メンバーではなかったんですが、AIに興味があったので、自分から神輿に乗りにいきました(笑)。もともと「G検定」という、日本ディープラーニング協会が主催するディープラーニングの基礎知識を測る検定を受けたりしていたんです。
進藤 かさね(以下「進藤」):
私は翔陽さんに声をかけてもらいました。
今でこそ知識を取り入れるために画像生成AIを触ることはありますが、当時は画像生成AIも一般的ではなかったので、「なんかすごいな」くらいの認識しかなかったですね。ただ、アイデアソンみたいな企画があるなら、クリエイティブで盛り上げたい気持ちはありました。
大堀:
アイデアソンの本番が2023年3月15日だったんですが、事務局に招集されたのが2月頃だったので、招集から開催までがものすごく短期間だったんですよ。
鎌田:
最初、この短期間ではエントリーが集まらないんじゃないかと思いました。なので事務局メンバーに立候補して、とにかくエントリーを集めるために、事前ワークショップをして周知をしようと考えました。
私もワークショップのコンテンツを用意はしたんですが、それだけでは心許ないので、小副川さん(小副川 健/UB Datatech非常勤取締役)を呼んで生成AIについて話してもらうなどして、アイデアソンありきの勉強会を開催しました。
中山:
その勉強会には40〜50人くらい参加してくれましたよね。
鎌田:
企画してよかったです。事前ワークショップでアイデアソンについて告知をして、ほぼ同時にエントリーを開始しました。

大堀:
ワークショップ開催直後に9組、最終的には全部で10組から申込みがありました。
ワークショップ後のエントリー締め切りまでの期間が短かったのと、応募条件が厳しかったんですよ。発表前にテーマと途中までの成果物、コストの試算を出さなければいけない。それでもみんなちゃんと資料をつくってくれましたね。
中山:
最初に手を挙げてくださったのが海野さん(海野 悠樹/SPEEDA事業執行役員 CRO)でした。「SPEEDAに格納されているニュースとレポート(リンク集含む)とFLASH Opinionから、特定キーワードの簡易市場要約」というテーマで、SPEEDAにない情報をChatGPTを使ってユーザーに提供できないか? という視点で参加してくれました。
大堀:
海野さんのように、自分の業務に直結するアイデアを出す人が多かったですね。
鎌田:
自分の困りごとをAIに何とかしてもらいたいという期待を感じました。
鎌田:
アイデアソン当日はzoomで発表することが決まっていたので、進藤さんをはじめデザイナーのメンバーに、zoomの背景とスライドのデザインをお願いしました。あとは時間配分を決めたり、審査員のアサインをしたり、評価基準をつくったりですね。
進藤:
デザインに関しては、私以外にもプロジェクトのクリエイティブを制作するにあたって手伝ってくれたデザイナーが2人います。アイデアソン開催当日まで短期間だったので、私だけでは無理だと思ったのでお願いしました。
スライドのベースの部分は白砂さん(白砂 貴行/SPEEDA UI Design Team UIデザイナー)にお願いしました。グラフィックはSPEEDA BX Design Teamのちゃんみなさん(南澤 裕文)ですね。
ちゃんみなさんは、普段SPEEDAのブランドイメージを軸にデザイン作業を行っています。でも今回は、ちゃんみなさんが思うままにデザインしてほしい! とお願いしたら、かっこいいグラフィックをつくってくれました。

できあがったスライドデザイン
鎌田:
審査員のアサインもToDoに含まれていて、まず佐久間さん(佐久間 衡/ユーザベースCo-CEO)、川口さん(川口 荘史/SPEEDA事業Co-CEO)は確定していました。
中山:
審査員はほかに、翔陽さん、FORCAS CCOの瀬木さん(瀬木 桃子)、MIMIR PdMチームリーダーの安蔵さん(安蔵 鉄平)、SPEEDA Productチームの由貴さん(ソーントン 由貴)、小副川さんをアサインさせてもらいました。
大堀:
あとはアイデアソン開催後、グランプリを獲得したアイデアを実装するために、エンジニアをアサインしなければいけなかったんですよね。グランプリ受賞アイデアは2023年2Qから開発に着手する想定で、開催月を2023年3月にしました。
発表者の個性や立場を色濃く反映。アイデアソンを通して「業務解像度が上がった」
大堀:
私は司会担当でした。かつ発表者でもあったので、共同発表者と一緒に「FORCAS Salesのインサイドセールス向け仮説リコメンド機能」というテーマで発表しました。
中山:
私も発表する側として、「エキスパートオピニオンのTAKEAWAY」について発表しました。
鎌田:
大堀さん、中山さんの2人が発表者だったので、私は審査会の仕切りなどをしました。
進藤:
デザイナーは当日までにタスクは完了するので、当日はタイムキーパーをしていました。
鎌田:
タイムキーパーは重要な役割なんですよ! ひとりでも伸びたら時間内に収まらなくなるので、無慈悲に終了を知らせるベルを鳴らしてもらいました(笑)。ひとり当たりの持ち時間は発表8分、質疑1分、審査記入1分の計10分です。
中山:
ふだんの仕事の中で課題に思うところが、みんな全然違うんだなと思いました。
営業やCS(カスタマーサクセス)のメンバーはユーザー目線の課題を持ってきますし、リサーチや内部向けのことをしている人たちは内部向けのテーマなんですよね。データサイエンティストはLLMの一般的な言論を生成するという特徴と、人間が培ってきた専門性の対比をテーマで、「LLMによって生成された文章と人が生成する文章に差があるほど人の専門性が高い」という仮説を元に、人の専門性を測るというアプローチもありました。
参加した人の個性や立場が垣間見られておもしろかったです。業務解像度が上がりましたね。

中山:
「事業/業務に与えるインパクトの大きさ」「短期間でのクイックヒット」「実現可能性」「コスト」といった指標を置いて、5点満点で採点してもらいました。
鎌田:
評価プロセスでは大堀さんと中山さんの2人が運営から抜けたので、審査会は私がプロセスを後押しする形で進めました。みなさんちゃんと審査時間内に記入してくれて、特にトラブルなくスムーズに進行しました。
大堀:
審査結果は、アイデアソン開催翌週のSPEEDA Weekly(SPEEDA事業の週次定例ミーティング)の中で発表される予定でした。ところが、これは余談なんですが、佐久間さんがフライングしてグランプリ1位、2位の人にうっかり結果を漏らす事故が発生してしまって。
SPEEDA Weekly用に発表スライドを用意してサプライズで知らせようと思ったのに、受賞者はもう結果を知っているという(笑)。
鎌田:
最終的にグランプリを受賞したのは、SPEEDA R&D 吉山真紀子さんの「検索キーワードサポート機能」でした。
ChatGPT・LLMを活用して作成した類語ライブラリーをSPEEDAに組み込むことで、ニュースや業界・トレンドレポート、FLASH Opinion、特許情報などのさまざまなデータを検索するときに、ユーザーに対して類語ライブラリーに登録されたほかの類似キーワードをサジェスト表示する機能です。
大堀:
それがグランプリで、私たちのチームが発表した「FORCAS Salesのインサイドセールス向け仮説リコメンド機能」は2位でした。これは、FORCAS上の企業情報とLLMを組み合わせて、ターゲット企業が抱えている可能性ある課題をテキストで提案する機能です。
その課題も、営業部長、情報システム部長、人事部長といった感じで、ペルソナごとに表示されるようにするというのが発表の内容でした。

ChatGPTならビジネスサイドが開発に参加できる手応えをつかんだ
中山:
SPEEDA R&Dが2023年6月12日、FORCAS Salesが7月20日にリリースしているので、3ヶ月くらいですね。エンジニアはそれぞれ2人体制でした。
大堀:
実装に当たってFORCAS Salesは、約4,000社の公開情報から企業の課題を抽出したんですが、ChatGPTが出す答えが正解かどうかがそもそもわからなくて。
たとえば、プロダクトでは営業部長の課題を出したいのに、ChatGPTの出す答えが情報システム部長の課題っぽかったり。企業によって内容の薄いデータが提示されることもあり、それをチェックして、プロンプトをアジャストして使える形に持っていくのにものすごく時間がかかりました。
プロンプトをアジャストしていく作業はすべて人力で、あるプロンプトで20社試して、出力イメージが違ったらまたプロンプトを直してという感じで、ひたすら改善。
この作業を、一緒にアイデアソンに出たビジネスサイドのメンバー2人で担当していました。開発環境を準備してもらって、2人で隣同士に座って、「このプロンプトのここが変だ」「ここを変えよう」って。
できたものを佐久間さんにフィードバックしてもらって、持ち帰って再びプロンプトをつくり直す──これを2週間くらいやりました。

大堀:
こうした”そもそものクオリティの基準”をつくらなければならないのが難しかったですね。私たちはインサイドセールスなので、ChatGPTで抽出された課題を見て「これだったら喜ばれそう」「ふつうすぎる」みたいになんとなくの基準がわかるんです。
でもエンジニアの人が見ても、「これ何が違うの?」と。私たちが「これいいね」と言ってるのを聞いて、「何がいいんですか?」と聞かれたりしました。
それに対して「抽出された課題に、企業特有のキーワードがいっぱい入ってるからいいんですよ」と答えていくことで、私たち自身も「なんとなく」だったところから、「なぜクオリティが高いと言えるのか」の言語化が進んだように思います。
今回やってみておもしろかったのは、ビジネスサイドが開発に関われる点でした。これまでは言語を書けないと開発に携われなかったんですが、ChatGPTなら私たちでも密接に開発にかかわることができるんです。
6月に実装リリースしたSPEEDA R&Dでも、起案者である吉山さんはCSなんですが、CSが開発会議まで推進してプロダクト開発に関わるのは珍しいことなんですよね。
大堀:
これまでは、インサイドセールスや営業の方が営業先にアプローチするときに、いろいろ調べて課題を抽出して、どう提案しようか考えないといけなかったんですよね。それが、今回実装した機能を使えば、リコメンドされた課題と仮説を読み上げるだけでいい。「これはものすごい便利だ!」という声をいただきました。
この第1弾の実装リリースでは上場企業の課題を抽出できるようにしたんですが、お客様から好評だったので、第2弾として非上場企業の課題抽出に取り組んでいます。上場企業と比較すると社数が非常に多いのでより大変なんですが、ニーズに応えたいですね。
Open AIアイデアソンの派生的な広がり「いずれはプロダクト横断でアイデアソンを開催したい」
大堀:
率直な感想として、手前味噌になってしまいますが、ユーザベースの人たちはすごいなと思いました。あんな短期間での告知、開催だったにもかかわらず、応募者の方みんなビシッと検証して、成果物を揃えてくる。だってこれ、業務ではない、有志のイベントですよ?
中山:
そうですよね。僕は発表側としても参加させてもらいましたが、業務外に毎日1時間くらい時間をとって、最後の1週間は詰め込みで検証しました。あの期間でできる内容としてはベストだったのではないかと思っています。
発表を通していろいろなプロダクトが抱える業務課題がよくわかりましたし、ChatGPTを使うことで何ができるか、発想が広がったように感じますね。
進藤:
私もChatGPTやAIがどういったものかわからないまま参加したんですが、そこで学びがあったというのが大きなポイントでしたね。みなさんのアイデアを聞いてわくわくしました。
本当にすてきなイベントだったんですが、欲をいえば、デザインにかける時間がもう少しあったら嬉しかったですね。
スライドのデザインを当てる前に中身をどうするか、中山さんに叩きをつくってもらって、白砂さんがベースをつくり、私が調整する流れで進行していたんですが、もう少し気を配りたかったなと思いました。

鎌田:
イベントが終わってみて、参加者の方たちからは、もう少しChatGPTのことを理解してから臨みたかったと言われました。事前ワークショップで小副川さんに説明してもらいはしたんですが、もっとChatGPTについての勉強会をしたかったという声がありましたね。
もしもアイデアソンの2回目があるのなら、1回目に出場した参加者たちから検証の仕方やChatGPTのクセを共有してもらえるといいですね。大堀さんからも、「ChatGPTにはこんなクセがあったから、こう改良しました」といった例が共有されると、アイデアの精度が上がるんじゃないかと思います。
大堀:
今回はプロダクトごとのアイデアばかりだったんですが、今後はたとえばFORCAS SalesとSPEEDAのメンバーが組んでプロダクト横断でアイデアを出してもらえたらおもしろいかもしれませんね。
その後はINITIALでも独自にアイデアソンを開催していて、派生的に広がっているので、プロダクト横断でできればおもしろい気がします。
編集後記
言い出しっぺの翔陽さんから「コレ記事化してよ!」と言われ、何それ面白そう! と始まった今回の取材。記事制作中にあっという間に実装されてビックリしました。まさにThe 7 Valuesにある「スピードで驚かす」を体現しているプロジェクトだなと。
あきさん(大堀)のアイデア、実際にデモを見て感動しました。インサイドセールスの経験が浅い人でも、この機能を使えばすぐ活躍できるイメージが沸きます。今後もお客様の実務に役立つ開発をガンガン進めていってほしいです!