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アメリカでの事例をつくって、次世代にヒントを残したい──SPEEDA Edge CTO 杉浦正明

アメリカでの事例をつくって、次世代にヒントを残したい──SPEEDA Edge CTO 杉浦正明

2021年1月にサービスの提供を開始した「SPEEDA Edge」。アメリカに拠点を置き、最新のテクノロジートレンドを英語で発信しています。SPEEDA EdgeのCTOとしてプロダクトを定着させるべく奮闘するのが、杉浦正明。「光は見えているものの、常に壁がある」と話す杉浦に、アメリカでの挑戦とこれから成し遂げたい想いについて、じっくり話を聞きました。

杉浦 正明

杉浦 正明MASAAKI SUGIURASPEEDA Edge事業執行役員 CTO

シンプレクスにて大手証券会社向けプロジェクトのマネージャーを歴任した後に、高速為替取引システムの開発リーダーとしてアーキテクチャ設計を担う。その後、Talknote株式会社に...

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目次

「情報格差をなくしたい」の想いを持ってNewsPicksへ

SPEEDA Edge杉浦正明のキャリア変遷図
杉浦さんがユーザベースに入社するまでの経緯を教えてください。

2004年に新卒で日立ソリューションに入社したんですが、8ヶ月経って「自分は大企業が合わない」と感じてシンプレクスに転職しました。
 
シンプレクスではFXのシステムをつくっていました。FXは相対取引なので、機関投資家の運用次第ですぐ値上がり・値下がりが起こるんです。その情報を知っている人は勝てるし、知らない人は負ける。覆せない情報格差の存在を目の当たりにしました。
 
当時のシンプレクスは社員数100名ほどで、そこから8年間、社員数が1,000名ほどになるまで在籍しました。その後、スタートアップのTalknoteに転職、CTOを務める中で、「スタートアップっておもしろいな」と思うようになったんです。
 
その後Talknoteを退職することになったとき、次の転職の軸として、Talknoteと同じような小さな会社であることと、金融ファイナンスに関係したことをやりたいと思いました。
 
その中で、ソーシャル経済メディアであるNewsPicksに魅力を感じたんですよね。NewsPicksは情報格差をなくそうとしている。専門家だけが知っている知識をシェアして、世の中をフラットにしようとしていると映りました。
 
そんな経緯があって、2014年1月、32歳のときにユーザベースに入社、2016年にはユーザベースから分社化したNewsPicksのCTOに就任しました。

グローバル進出の機運に乗って、米国事業「SPEEDA Edge」に挑戦

2020年にはNewsPicks CTOを降りてSPEEDA Edgeへ。なぜ米国事業に挑戦しようと思ったんですか?

2018年にユーザベースがQuartzを買収しました。あのときのインパクトが、僕にとってはものすごく大きかったんです。ユーザベース内でも当時、「ここからグローバルに展開していくぞ」という機運が高まっていたんですよね。
 
実際にQuartzの経営陣がユーザベースに来て、ミーティングで役員全員と話すんですが、当時僕のTOEICの点数は200点くらいで、英語が全然わからない。それで英会話に通い始めたんですが、最初のカウンセリングで「中学2年生レベルの実力です」と言われてしまったほどでした。
 
会社が今後グローバル展開するというのに、英語ができないのはまずいのではないかと危機感を持ちましたね。周りのメンバーも英会話に通い始めていたので、僕も一緒に通うことにしました。
 
そこからの成長は本当に「一歩ずつ」でした。TOEICを半年に1回受けるようにしていたんですが、200点から始まって、300点、400点……と本当に少しずつ。はじめに英会話に通い始めてから3年で850点までスコアが伸びました。
 
グローバル進出を志して2018年から英語の勉強を始めたわけですが、できるようになると楽しくなってくる。最初は危機感からのスタートでしたが、「仕事で使いたい」と思うようになりました。エンジニアとしてアメリカでチャレンジしたい気持ちが、フツフツと沸き立ってきたんです。

その後Quartz事業からは撤退しましたが、ユーザベースとしてはアメリカブランチは残したい想いがあった。そこで梅田さん(梅田 優祐/ユーザベース共同創業者)が思いついたのが、スリランカのアナリストのリソースを使って、INITIALのようなサービスをアメリカで展開する構想です。

それで、アメリカに行きたいと言っていた僕に白羽の矢が立ち、スタートしたのがSPEEDA Edgeです。

SPEEDA Edge CTO杉浦正明
SPEEDA Edgeを事業としてスタートしたのが2020年。コロナ禍の影響で、実際に渡米できたのは2022年と聞きました。そのあいだもグローバルチームで動いていたんですか?

そうですね。実務でも英語を使っていました。当時は苦労しかなかったですね。2018年に英語の勉強を始めて、2年ほどで600〜700点。その時点でEdgeがスタートしていたんですが、何もわかりませんでした。
 
2020年2月にスリランカオフィスに行ったんですが、現地メンバーのMifnaz(Mifnaz Jawahar/SPEEDA Edge事業執行役員 CCO)とThillan(Tilan Sampath/SPEEDA Edge Content Team Leader)にランチをごちそうになったとき、何を言っているかほとんどわからなかった。コミュニケーションができなくて申し訳ないことをしたと思っています。

SPEEDA Edgeのメンバーは、スリランカとアメリカ、日本にいるんですよね。全体は何人くらいで、それぞれどんな仕事をしているのか教えてください。

チーム構成は、エンジニアがスリランカに3名、アメリカに3名、日本に2名、デザイナーを加えて、全部で8名。営業はSPEEDA Edge事業執行役員CEOの土屋翔さんとハヤトさん(石野 勇斗/SPEEDA Edge Sales Team Leader)、テキサス在住のJustin(Nowroozi Justin/SPEEDA Edge BDR Team Leader)の3名です。マーケティングを担うメンバーがスリランカにいて、全部で20名弱ですね。
 
仕事内容はほかのSaaS事業とそう変わりません。プロダクトを開発して、お客様に提供し、フィードバックをもらう。そのフィードバックをもとに、どう改善するか話し合ってプロダクトに反映していきます。
 
スリランカ、アメリカ、日本をつなぐので、時差があります。3か国間でやり取りしようとすると朝しか時間が取れないので、基本的に朝ミーティングをして、日中に作業をしています。

PMF達成のため、エンジニアの体制を整えてスクラップ&ビルドに取り組む

現在のSPEEDA Edgeの状況について聞かせてください。

今は壁しかないんじゃないかな。常に壁。光は見えているけど、手探り状態が続いています。

日本企業のアメリカブランチに対しては、一定の実績ができあがりつつあります。でもアメリカブランチを持っていて、価格帯的にSPEEDA Edgeを入れられる企業は大企業がほとんど。となると、導入社数が限られてしまうんですよ。

SPEEDA Edge杉浦正明

なので、アメリカのローカル企業や海外企業のアメリカブランチに展開していきたいと思うんですが、そこに対するプロダクトマーケットフィット(PMF)がカチッとハマっていない感覚があって。
 
これは卵が先か、ニワトリが先かという話になるんですが、日本とは少しニーズが違うように感じています。だからこそ、お客様に使ってもらって、フィードバックを得て改善する。これを繰り返してニーズに到達していくしかありません。
 
ただ、実際に使ってもらえても、フィードバックがないまま解約されてしまうケースもあります。手探り状態のもどかしさを感じますね。
 
そういう意味ではやることは明確で、スクラップ&ビルドの回転を早めるしかないと思うんです。そのためにはエンジニアパワーを増やすしかないので、アメリカだけでなく、全世界のエンジニアを集めて高速回転できる体制を構築していきたいですね。
 
難易度が高いんですが、これを「壁」として意識するとくじけそうな気がするので、あまり気にしないようにしています。ユーザーを見つけて提供し、フィードバックを得て改善する。これをとにかく高速で繰り返していくしかないですね。

The 7 Valuesの中で、一番好きなバリューはなんですか?

 「自由主義でいこう」です。ユーザベースは自分がやりたいことと会社の方向性が合致していれば、それを邪魔されない環境があると思っています。みんなで議論して、「これがいい」となったらストレートに推し進められる。そういう意味での自由がありますね。

The 7 Values:自由主義で行こう

最近は世界中のいろんな人と話せるのがとにかく楽しいです。最先端の技術を知りたい。それをどう活用しているか、世界中のエンジニアから話を聞きたい。昔は英語でコミュニケーションが取れなかったので、今はとてもエキサイティングに感じています。
 
スリランカのメンバーと話しても、カルチャーも何もかも違うので新しい刺激をもらえます。エンジニアだけでなく、アナリストとも話ができる。
 
先日スリランカのオフィスに出張に行ったときには、スリランカのアナリストたちはChatGPTでニュースのコンテンツをサマリーにして公開していました。既に仕事に活用しているんだと知って刺激を受けました。
 
それを受けて、ChatGPTで自動化すれば仕事のスピードがもっと速くなるのではないかということで、SPEEDA Edge全体でその取り組みをしていくことになりました。こうした点はグローバルチームのほうが、日本だけのチームで取り組むよりも速く物事が進む感覚がありますね。
 
確実にやったほうがいいことは、まずチーム内でトライするスピード感を持って進めていく。グローバルな環境ではそうしたダイナミズムをより感じますね。

「日本のIT技術のプレゼンスを取り戻したい」

最後に、今後のビジョンや挑戦したいことを聞かせてください。

これは「なぜSPEEDA Edgeをやるか」の理由にもつながるんですが、僕には日本の「IT技術」「エンジニア」「インターネット業界」の3つを何とかしたいという想いがあります。
 
僕らが社会人になった当時は、日本のIT技術はもう少しプレゼンスがあったように思うんです。国産OSがあったり、国産プログラミング言語のRubyがあったり。それなのに、クラウド技術が世に出た頃から、日本のIT技術は2番手、3番手になってしまった。世界で名の知られた国産IT企業は、この20年で大幅に縮小してしまいました。
 
国産ITを消滅させてしまった自分たち世代には、日本のIT技術のプレゼンスを復活させる責任がある。それは僕だけでは実現できるものではありませんが、復活させるための活動は続けていかなければいけないのではないかと思っています。
 
そのために、できる範囲で海外の情報をシェアしたいと思って、「CTOがゆく」というYouTubeチャンネルを運営しています。世界のIT技術を発信して、興味を持ってくれる人がいれば、次世代につながるのではないかと思っています。

SPEEDA Edge杉浦正明

それから、IT技術と同様、日本人エンジニアの置かれた立場も大変なことになっています。今後、DeepLやGoogle翻訳、ChatGPTなどが発展して言語の壁がなくなり、カルチャーギャップも時差も問題にならなくなった場合、日本人エンジニアは全員失職する可能性すらあると思っています。
 
なぜなら、すでに英語が話せて百戦錬磨のエンジニアは、世界中に1億人はいる。そんな人たちが日本人の半額の給料で働いているんです。そうなると、日本人エンジニアを雇う理由がなくなりますよね。
 
AIが完成した瞬間、いきなりグローバル競争の中に放り出されたら、日本人エンジニアは太刀打ちできない。そうならないように情報を提供して、日本人エンジニアが生き残る道を探っていきたいと思うんですよね。
 
ロールモデルとしてひとつ見つけたのは、グローバルなエンジニアチームをマネジメントするポジションです。グローバル競争をしているエンジニアの荒くれ者を取りまとめられる人はかなり希少です。失職しないためには、そこを目指すのはひとつの手段だと思っています。
 
世界中の優秀なエンジニアの力を結集させてGAFAと戦う。そんな必要があると思います。
 
あとは日本のネット企業の成功パターンを生み出すために、何かしらのヒントを残したいですね。いま、いろんな国産ネット企業が海外でチャレンジしています。失敗事例は多いんですが、失敗も大事なんです。失敗事例を踏まえて次のIT企業がまた挑戦していく。
 
このまま日本のIT業界がシュリンクしていくと、マーケットも小さくなってしまいます。誰かがどこかで事例をつくっていかなくてはいけない。もちろん自分たちがその事例をつくっていきたいと思いますし、それが難しかったとしても、次世代につながるヒントを残したいですね。

編集後記

普段は米国にいる杉浦さんがオフィスにいるのを見つけ、飲み会に潜り込み、「いつまで日本にいます? あ、それなら◯月◯日にインタビューさせてください!」と半ば無理やり組ませてもらった今回のインタビュー。

記事中に英語学習のエピソードが出てきますが、渡米前のTHM(Town Hall Meeting/全社定例)で彼がどれだけ英語を学んでいるのか、なぜ米国事業にチャレンジしたいのか、熱意を込めて&笑いを取りながら話していたのを今でも覚えています(今でもたまに録画を見返します笑)。

そんな杉浦さんも今ではバリバリ英語を使って仕事をしていて、本当にスゴい! The 7 Valuesのひとつである「迷ったら挑戦する道を選ぶ」をまさに体現しているなと思いました。

執筆:宮原 智子 / 撮影:渡邊 大智 / デザイン:金子 華子 / 編集:筒井 智子
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