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リーダーシップの新常識「健康は必須スキル」──情報過多時代を生き抜く心身の整え方

リーダーシップの新常識「健康は必須スキル」──情報過多時代を生き抜く心身の整え方

情報過多、複雑化する現代社会において、組織を率いるリーダーの負荷は増すばかり。彼らが心身ともに健やかで、高いパフォーマンスを発揮し続けるためには、何が必要なのでしょうか。

ユーザベースでは、リーダーのレジリエンス(回復力・自己調整力)向上を目的としたプログラムを導入しました。これは単なるメンタルケアではなく、「リーダーの能力開発」の一環として位置づけられています。

なぜ今、リーダーにこそ心身の健康を体系的に学ぶ機会が必要なのか。プログラム導入を主導した人事企画チームの福島竜治と、プログラムを提供した株式会社マインドフルネス代表取締役の関根朝之さんに、その背景と成果、そして組織にもたらした変化について聞きました。

福島 竜治

福島 竜治RYUJI FUKUSHIMA人事本部 人事企画 シニアマネージャー

日系及び外資系企業でのIT業界セールス職のキャリアを経て、2014年より組織人事コンサルタントへ転身。10年をかけて米国発の人材アセスメント事業の日本市場での立ち上げを行い、...

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関根 朝之 氏

関根 朝之 氏TOMOYUKI SEKINE株式会社マインドフルネス代表取締役

マインドフルネス講演者、元プロキックボクサー。1988年埼玉県戸田市生まれ。学生キックボクシング選手権大会2階級制覇、2018年プロ日本2位。「身体が変われば、心も変わり、人...

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目次

なぜリーダーは疲弊するのか? 課題意識から生まれたプログラム

まず、福島さんに伺います。今回、このレジリエンス向上のプログラムを導入するに至ったきっかけや、背景にあった課題意識について教えてください。

福島 竜治(以下「福島」):
現代において、リーダーに求められることや負荷が非常に高まっているというのは、どの会社でも共通の課題認識だと思います。当社も例外ではなく、事業の複雑性なども相まって、リーダーの負荷は相当増えていました。

加えて、ユーザベースはすごく頑張ってしまう人たちが多い組織でもある。その中で、リーダーが疲弊してしまうような場面も見受けられました。そうした状況に対して、経営陣も健康に対する課題意識を持っていたんです。そこに関根さんとのご縁があり、まずは小さくトライアルをしながら効果を体験し、会社にとって本当に役立つものなのかを見極めていこう、ということでプログラムの導入が始まりました。

具体的に、「リーダーが消耗している」と感じた場面があったんですか?

福島:
ユーザベースには情報をオープンに公開し共有するカルチャーがあります。あらゆる情報がSlackやNotionなどで共有されており、情報の透明性があって誰でもフェアに情報にアクセスできる点は素晴らしい。

ですが、リーダーとして複数のメンバーのマネジメントをしながら成果を達成するだけでなく、さまざまなマネジメント業務にも対応していかなければいけない状況の中で、情報の海に溺れてしまい、消耗してしまうこともあり得る。これはどの企業でも同じ状況なのかと思いますが、情報社会の中で避けられない仕事環境なのだと思います。

なるほど。福島さんはユーザベース全体のリーダー育成プログラムも担当していますが、そんな情報量が多い、変化が激しい環境下で、リーダーに求められる“持続可能性”とはどんなものだと考えていますか?

福島:
リーダーが倒れてしまっては、チームにも事業にも影響が出てしまいますよね。なのでセルフマネジメントのスキルとして自分自身を回復させる力の装着をサポートすることは、こういった仕事環境にさらされるリーダーにとって必要な支援ではないかと考えるようになりました。

リーダーが消耗から自分で立ち直り、持続的に挑戦できる健康状態をつくってもらうことは、何よりも持続可能な組織をつくるうえで求められることだと感じています。

ユーザベース福島竜治
関根さんとユーザベースの最初の接点は、どのようなものだったのでしょうか?

関根 朝之氏(以下「関根」):
そもそものきっかけは、IVS(Infinity Ventures Summit)というイベントで、稲垣さん(稲垣 裕介/ユーザベース代表取締役 CEO)にお会いしたことなんです。

その場で稲垣さんに「マインドフルネスしていますか?」と質問したところ、「なんだそれは?」というような反応で(笑)。社長という立場は、福島さんがおっしゃったように、ものすごく負荷がかかります。特に経営のトップはそうですよね。そこで一度、私たちのジムに来て体験してください、とお伝えし、マインドフルネスの重要性を体験していただいたのが最初のキッカケです。

その後、ユーザベースのオフィスに伺って、IVSに同席していた渥美さん(渥美 奈津子/執行役員 CEO室長)など、10名弱の方々にミニ体験会を実施しました。心身の健康の土台を整えることで、メンタルダウンなども防げますよ、というお話を体系的にさせていただいたんです。それがいいね、となり、全社員が参加するTHM(Town Hall Meeting)に呼んでいただくことになりました。

THM、すごく良かったです! オンライン参加者も多数いる中で、いきなりストレッチを教えるというのは、かなり斬新な光景でした(笑)。

関根:
そうですね(笑)。そのTHMで全社向けに告知があって、その後に今回のリーダー向けプログラムが本格的にスタートした、という流れになります。

パフォーマンスの鍵は睡眠にあり。心身の「総合成績表」を整える

関根さんは以前から、企業向けにこうした研修を多く手掛けられていたんですか?

関根:
はい、多くの企業で研修をさせていただき、さまざまな効果が出ています。特に分かりやすいのは、睡眠の質が良くなることですね。ただ、質を良くするためには、身体の状態、脳の状態、腸内環境などを整える必要があります。睡眠というのは、ある意味で身体、脳、メンタルの「総合成績表」のようなものなんです。ですから、睡眠の質を良くするということは、結果的にそれらすべてが良くなっている、ということになります。

その考え方の原点には、ご自身の体験があると伺いました。

関根:
ええ、実は私自身、中学2年生の時に睡眠障害で1ヵ月入院した経験があるんです。当時通っていた中学校が少し荒れていて、いじめが原因でした。眠れない、悪夢で目が覚める、寝起きは最悪で、ずっと頭が痛い。そんな状態では集中力なんてありませんし、メンタルもすごくネガティブになって、「死にたい」と思うほどでした。

当然、部活でやっていたバスケットボールのパフォーマンスも下がります。すべてに影響が出た結果、練習に向かう途中で倒れて救急車で運ばれ、入院することになりました。

マインドフルネス 関根朝之氏
壮絶な体験ですね……。

関根:
その経験から睡眠の重要性を痛感し、猛勉強しました。呼吸の大切さ、自律神経の仕組み、ストレスで脳の扁桃体が活性化するメカニズムなどを学び、自分の体で実験を重ねていったんです。

その知識は、後に始めたキックボクシングでも活かされました。マインドフルネスや睡眠の質向上に取り組むキックボクサーなんて当時は誰もいませんでしたが、私はそれを実践することで、大学時代に2階級で無敗のまま日本チャンピオンになることができた。特別なセンスがあったわけではなく、心身の土台を整え、パフォーマンスを最大化する方法を知っていたからです。その経験が、今の事業の根幹になっています。

真面目さゆえの落とし穴。休むことに罪悪感を抱くリーダーたち

そうした関根さんのお話を聞いて、当初、リーダーたちにどのような変化を期待してプログラム導入を決めたのでしょうか?

福島:
コロナ禍を経てこの5年間で、ミーティングの時間は2.5倍、数も1.5倍になったというデータがあります。明らかに情報過多ですよね。それに加えて、生成AIのような新しい技術が登場し、リーダーは常にキャッチアップと学習を続け、変化を創出していかなければならない。課されるものが2倍、3倍になっているのに、人間のフィジカルや時間は24時間で変わらない。これはどう見ても健全な状態ではありません。

ですから、冒頭にお話ししたように、リーダー自身がセルフマネジメントできるようになるスキルを身につけてもらうことが、会社がサステナブルに存続するために、とても重要だと考えました。自分自身の健康や精神状態を、知識と実体験を持って自らコントロールできるようになってほしい、という期待がありました。

インタビュー風景
セルフマネジメントや体調管理は「個人の裁量」と捉えられがちな部分でもあるかと思います。そこにあえて専門家を入れて、会社として取り組もうと考えたのはなぜでしょう?

福島:
ちょっと手前味噌かもしれませんが、みんな真面目で一生懸命だからです。挑戦を奨励するカルチャーもあるので、みんな人一倍頑張ってしまう。良かれと思って努力していることが、逆に自分を追い詰めてしまうことになりかねません。人間のキャパシティを大幅に超えるタスクを処理しなければならない状況で、どうブレーキをかけていいのか分からなくなってしまうんですね。

頑張ることと、楽をすることの境界が曖昧になり、休むことに罪悪感を覚えてしまう。実際にプログラムで脳波を測定してみると、交感神経が優位になりすぎて、うまくリラックスモードに切り替えられないリーダーが非常に多かった。これは、まさにその状態を象徴していると感じました。

リーダーたちはやり方を知らないだけなんです。だからこそ、体系立てられた知識を専門家からインプットしてもらうことが、彼らを助けることになると考えました。

良好な人間関係、でも運動不足。ユーザベース特有の課題とは

関根さんは、さまざまな企業をご覧になっている中で、ユーザベースのリーダーたちに何か特徴を感じましたか?

関根:
はい、非常に面白い特徴がありました。ウェルビーイングには「身体的健康」「精神的健康」「社会的健康」の3つの側面があるのですが、ユーザベースの皆さんは「社会的健康」、つまり人間関係が非常に良好なんです。ハーバード大学の80年以上にわたる研究でも、幸福度と健康に最も相関があったのは「良好な人間関係」だとされています。多くの企業では、この人間関係のストレスが心身の不調の大きな原因になっていることが多く、サポートが大変なケースも少なくありません。

ユーザベースはその点、問題がなかったと。

関根:
その通りです。人間関係はとても良い。その一方で、アンケートを取ると「睡眠の質が悪い」、そして「圧倒的な運動不足」という課題が浮かび上がってきました。特に運動不足は深刻で、東京駅直結のオフィスということもあり、ほとんど歩かない(笑)。

人間は動物であり、体の約6割は水分です。血流を良くすることが健康の基本であり、そのためには歩くことが最も簡単で効果的です。健康のためには1日8,000歩が推奨されますが、皆さんは全く足りていませんでした。

社会的健康の基盤はしっかりしているけれど、身体的なセルフケアが課題だったんですね。

関根:
だからこそ、私たちのプログラムが非常に効果的でした。人間関係という根深いストレス要因がないため、睡眠の質を上げるためのアプローチ、たとえば呼吸法やストレッチで自律神経を整えるといった自己調整の方法を学ぶと、結果としてダイレクトに表れるんです。

実際に、プログラムを受けたグループと受けなかったグループとでは、スタート時のメンタルスコアはほぼ同じだったにもかかわらず、最終的には全く違う結果になりました。心身の健康の土台を整えるだけで、メンタルに優位な差が出た。このクリアな結果が出たことが、海外の論文でケーススタディとして取り上げられることになった理由でもあります。

参加者の9割が睡眠の質を改善。パフォーマンス向上で生まれた「余白」

プログラムを経て、具体的にどのような成果が見られましたか?

福島:
非常にポジティブな結果が出ています。プログラムは睡眠、運動、食事という3つのテーマで、3〜4ヵ月にわたって体系的な知識を学びながら実践する形で行いました。最終的に、参加者の9割が「睡眠の質が良くなった」と回答し、83%が「仕事のパフォーマンスが上がった」「集中力が上がった」と実感しています。

睡眠の質が、直接仕事のパフォーマンスに繋がったんですね。

福島:
その通りです。そして、パフォーマンスが上がると、仕事が早く終わるようになります。興味深かったのは、参加者からの「以前は仕事が早く終わることに罪悪感を感じていたけれど、今はパフォーマンスが上がった結果だと捉え、生まれた余白(休み)を罪悪感なく取れるようになった」という声でした。精神的にも非常に健全な状態になったと感じます。

これは単なるメンタルケアではなく、まさに「リーダーの能力開発」だと捉えています。

他社でも、こうしたプログラムを「能力開発」と位置づけて導入するケースは多いのでしょうか?

関根:
最近はリーダー向けに導入されるケースが増えてきました。経営者自身が健康の重要性を実感していて、それを従業員にも広げたいという意図が多いですね。まずリーダーに体験してもらい、その効果を実感した上で、組織全体に展開していくというスタイルが主流になりつつあります。

マインドフルネス 関根朝之氏

素直さとオープンな文化。プログラム効果を最大化した組織風土

プログラムの効果を最大化する上で、ユーザベースならではの組織文化が影響した部分はありますか?

関根:
それは非常に大きいですね。まず、皆さんが驚くほど「素直」であること。私がお伝えすることを、斜に構えることなく、まずはスポンジのように吸収して「とりあえずやってみる」という姿勢がある。だから浸透が早く、成果も出やすいんです。正直、日本の企業ではマインドフルネスと聞いただけで構えてしまう方もまだ多いので、これは特筆すべき点です。

そしてもうひとつは、オープンなカルチャーです。良いと思ったことを、役職の垣根なく周囲にどんどん伝えていく。役員の方もそうでない方も、フラットに会話されているのが印象的でした。だから、良いものが広がりやすい土壌があるのかなと。

福島:
実際に、プログラム内で任意参加のファスティング(断食)を提案した際も、最初は事務局の私たちが実践してその体験をシェアしたところ、「絶対にやらない」と言っていた食事好きのメンバーまで「やる」と言い出し、最終的には全体の半数近くが自主的に参加しました。

こうした周りを巻き込んだ動きは、他の企業ではなかなか見られない光景かもしれません。オープンコミュニケーションというカルチャーが、良いものを自己開示して共有するという行動を後押しした面は確かにあると思います。

スキルや個性より大切な「土壌」。心身の健康こそリーダー育成の根幹

福島さんはこのレジリエンスプログラムを、リーダー育成体系全体の中でどのように位置づけていますか?

福島:
私たちはリーダー育成の全体像を「木」のイメージで捉えています。その人自身の個性は「木の上の方」、多くの人を束ねるマネジメントスキルは「根」の部分。そして、今回のプログラムで扱う心身の健康は、それらすべてを支える「土壌」そのものだと考えています。

いくら優れたスキルを身につけても、土壌の栄養がカスカスでは、木は健やかに育ちません。これは、サステナブルな自分をつくるための、まさに土台となる部分です。

UB Leaders Academy(全社横断のリーダーシップ開発プログラム)

UB Leaders Academy資料より

リーダーのスキルセットとして、健康を定義しているのですね。

福島:
はい。ほとんどの企業では、ウェルビーイングや健康経営は人事の福利厚生の一環として語られますが、リーダーが持つべき"必須スキル"として定義している会社はまだ少ないのではないでしょうか。しかし、現代のように変化が激しく負荷の高い環境では、自らを守り、パフォーマンスを維持するための知識と実践は、不可欠なスキルです。これを実装してもらうことではじめて、リーダーシッププログラムは完成するとさえ思っています。

リーダーの精神状態や健康状態は、本人が自覚している以上に組織に大きなインパクトを与えます。精神的に安定し、どんなストレスにもしなやかに立ち向かえるリーダーのもとでは、メンバーも安心して働くことができる。逆に、疲弊してため息ばかりついているリーダーのもとでは、「この会社でリーダーになりたい」とは思えませんよね。

リーダーがまず健康になることで、組織全体に健全な風土を醸成していく。それが、ひいては次世代のリーダーを育てることにも繋がると信じています。

実際に、プログラムを受けたリーダーが、自身のメンバーに良い影響を与えた事例などはありましたか?

福島:
ありました。あるリーダーは、「健康に関する知識とマインドが身についたことで、メンバーから相談された際に、健康面でのアドバイスができるようになった。マネジメントの引き出しが増えた」と話していました。このように、リーダー自身が起点となって、良い影響が自然に組織に広がっていく。それが理想の形です。

リーダーA

一時期の慢性的な疲労感は徐々に低減していく感覚。肩こり、眼精疲労が未だ慢性的に自覚あり。睡眠は随分良くなっています。また、メンバーの状態に応じてメンタルコンディション、身体コンディション面での視点でフィードバックできる機会が増え、組織内でのメリットを強く感じました。

リーダーB

安定しない睡眠、生活リズムを主体的につくっていけるようになりました。また、日々の集中の有無も感覚的に意識できるようになり、思考の質の改善に向けた行動がとれるようになりました。

リーダーC

朝、晩定期的にストレッチやマインドフルネスの呼吸を行うことで、程度としてだいぶ軽い状態をつくれるようになった+呼吸が浅い時を意識的に把握できることで、詰まった時でも冷静さを取り戻せる=レジリエンスが高まったように思います。

最後に、今後の展望についてお聞かせください。

福島:
2026年のUB Leaders Academy(全社横断のリーダーシップ開発プログラム)において、関根さんのプログラムをより多くのリーダーに展開することが決まりました。受講するリーダーだけでなく、「プログラムで学んだことを配下のメンバーに啓蒙する」といった仕掛けも入れながら、自律的に健康な組織文化が根付いていく基盤をつくっていく計画です。

この取り組みに参加した人たちが変化を実感し、その価値を周囲に伝えていくことで、この先大きく輪が広がっていくことを期待しています。

対談風景

編集後記

私は記事内にも出てきたTHM(全社向けのMTG)の運営も担当しているんですが、関根さんがゲストにいらした回で、「みんなでストレッチをしましょう!」と言われてビックリしたのを覚えています(笑)。記事化の相談をもらったとき、「何で今、マインドフルネス?」と思ったんですが、事前に福島から話を聞き、なるほど! となりました。レジリエンス、大事ですよね。

今回のプログラムは、まずリーダーからとのことなので、今後メンバーにどう展開されていくのか楽しみです!

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撮影:金子 華子/編集:筒井 智子
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