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「コト向き」で多様性を活かす組織づくり──スピーダ事業IS本部 田本圭史朗

「コト向き」で多様性を活かす組織づくり──スピーダ事業IS本部 田本圭史朗

ユーザベースの多様なリーダーに光を当てる企画、「Diversity Empowermentシリーズ」、今回はスピーダ事業インサイドセールス本部ゼネラルマネージャーの田本圭史朗です。「異なる視点や経験が加わることで、意思決定の質が格段に高まる」と話す田本に、自身のリーダー観やDEIBに対する考え方について、じっくり話を聞きました。

田本 圭史朗

田本 圭史朗KEISHIRO TAMOTOスピーダ事業 インサイドセールス本部 ゼネラルマネージャー

新卒で株式会社シーラに入社。不動産売買事業に従事した後、The Model型組織の立ち上げに参画し、インサイドセールスマネージャーとして従事。
2022年に株式会社ユー...

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目次

「自由主義」の組織でリーダーシップを執る難しさと面白さ

2022年3月にインサイドセールス(以下「IS」)として入社して、2023年7月にリーダーに就任しました。初めてリーダーを打診されたとき、どう思いましたか?

率直に、うれしさ100%。でもそのうち50%くらいは不安やプレッシャーもありました。
 
というのも、前任の伊藤情さん(現 大企業アカウント統括本部 アカウントマネージャー)は、それまで未達の状態が続いていたIS組織を達成組織にした立役者。一番脂がのっているタイミングでフィールドセールス(以下「FS」)のリーダーに抜てきされ、自分がその後を引き継ぐことになったからです。
 
非連続な成長を実現したリーダーの次に自分が立つことになって、その成長を止めてしまったらどうしよう……というプレッシャーがありました。リーダーに指名されてありがたいと思う反面、押しつぶされそうな不安も感じていましたね。
 
ただ、もともとユーザベースでリーダーになりたい思いは、ずっと持っていました。ユーザベースは「自由主義」を掲げていて、その中でリーダーシップを執るのは難しそうだなと興味があったんです。リーダーには規律を守るイメージがあるのに、自由を推進する責任を持つってどういうことだろう? と。
 
前職でリーダーを務めていたときは新卒メンバーが多かったので、マネジメントは「右向け右」、つまりある程度一律の指示でも成果が出ていました。でもユーザベースは中途メンバーが多い。かつ、主体的で多様性を重んじるカルチャーのなかでマネジメント方針を見出していくには、違った能力が必要とされるだろうと考えていました。だからこそ、ユーザベースでリーダーができれば、自分を成長させられそうだと感じていましたね。

スピーダ インサイドセールス本部 田本圭史朗
実際にリーダーをやってみてどうですか?

とても楽しい反面、難しさもありますね。そもそも自由を大事にするカルチャーのなかで、リーダーという存在は相反しているのではないかと思っていたんです。数字の管理や規律は自由と相反するものに感じられて、自由を担保するために、数字について言及するのを恐れていた時期もあったくらいです。
 
でも、自由の中には責任があって、この責任をまずは「MUST(すべき)」で捉えるべきだと考えるようになりました。そこから「CAN(できる)」を広げていって、その先に「WILL(やりたい)」がある。この流れが大事だと捉え直してから、自由と責任は共存するものだと考えられるようになりましたね。

「コト」と「ヒト」の可能性を最大限に引き出すマネジメント

仕事だけでなく人生において大事にしているものは何ですか?

「コト」と「ヒト」の可能性をあきらめないことですね。

「コト」に関しては、ISは落ちているボールをどれだけ拾いにいけるかだと思っていて。できるだけたくさんのボールを拾いにいきたいですね。

「ヒト」に関しては、たとえば「自分はこうしたいけど、この組織環境ではそれができない」と言う人がいたら、本人が半ば諦めていたとしても、その人の想いを叶えられるように組織を組成したり、環境を変えたりできないか、一緒に模索します。
 
つまらないと感じるのは、可能性にフタをされることですね。自分や他人に「どうせ無理だ」「限界だ」とキャップをはめてしまうことで、熱量が失われてしまうのが一番悲しいと感じます。
 
現在のユーザベースの環境はとても気に入っていますね。意気込みを持ってやっているIS組織を先導するのはすごく楽しいですし、メンバーがワクワクしながら仕事ができる環境をつくりたい。
 
僕は、自分にないものを持っているメンバーの円と自分の円とが重なったとき、相手の中心までベクトルを伸ばせるかがマネジメントの度量だと考えていて。

自分が相手の目線に立ってその人の可能性を最大限に引き出すことができれば、その人にしか取れない商談が決まる。それがユーザベースの価値につながっていく。そんなふうに考えるのが好きなんです。

スピーダ インサイドセールス本部 田本圭史朗
ワークライフバランスについて、どう考え、実践していますか?

ユーザベースの多様性を考えるうえで、ワークライフバランスはとても重要だと考えています。前提として、ライフとワークのバランスは、ライフステージや価値観、スタンスによって移り変わっていくものだと捉えています。人生の優先度は変わっていくものですから。
 
入社した当初はワークに比重を置いていた人でも、四半期に一度のゴールセッティングやフィードバックの際に、改めて「いまどう考えているか」を聞いて、ワークとライフのバランスを取ってもらえるようにしていますね。

組織融合で学んだThe 7 Valuesを基準にした景色合わせ

うまくいかなかったとき、どうしていますか。

自分を責めすぎず、何が起きたか「構造」で捉えるようにしています。"ヒト"に向きすぎると必要以上に自分を責めてしまうので、「構造がよくないのでは?」と"コト"向きで考えるんです。
 
たとえば、スーパーでレジが混んでいて列が全然進まないとします。そのとき、「店員さんが遅いからだ!」と責めるのではなく、「そもそもレジの台数が足りないのでは?」「セルフレジやスマホ決済を増やせば解決できるのでは?」といったように、原因を“人”ではなく“やり方”や"仕組み"に求めて改善策を考えるイメージです。

こうすると「誰かが悪い」というヒト視点ではなく、「構造を変えればもっと良くなる」というコト向きな発想につながります。
 
でもここまで、ヒト向きとコト向きのバランスを間違えてたくさん失敗してきました。それこそ自分だけで何とかしようとしてしまい、チームが離散してしまったこともあります。
 
僕は5人兄弟の長男で、同じベッドで寝て育ってきました。高校は下宿だったんですが、このときも4人部屋で。そうした環境で学んだのは、人間関係を構築するなかでコミュニケーションが "ヒト向き"になると、こじれてしまうんだということ。"コト向き"にすれば誰も傷つかず、同時にコトの改善もできるんですよね。 

メンバーと話すときに意識していることは何ですか?

メンバーと話すときには、ちょくちょく「WILL(ありたい姿)」について触れるようにしています。入社時やゴールセッティングのときに話した“ありたい姿”に対して、今どんな状況かを定期的に確認するんです。

ときどき、メンバーから「WILLをつくるのって難しくないですか?」「自分は目の前のことを愚直にやるタイプなので、WILLなんてないです」と言われることがあります。これ、正直よくわかります。

僕自身も入社当時、上長にWILLを聞かれたときは、実現イメージなんて5%も思い描けていないまま、なんとか絞り出して伝えていました。

当初のWILLは、自分の中から出てきたものというより、他の人の話に共感して、そのゴールの姿だけが印象的に残り、「これが自分のWILLだ」と真似していたようなものでした。共感度は高かったけれど、腑に落ち感や納得度はせいぜい5%くらい。それでも「こうなれたらいいな」という方向性はぼんやり形づくられていました。

UBでは1on1などのタイミングでWILLについて話す機会があります。実現イメージが5%程度でも、上長や誰かにアウトプットしてみるとWHYやHOWを深掘りされ、そのやり取りを通じて自分の中で再考するプロセスが生まれます。その積み重ねの中で、WILLが少しずつ立体的になっていった感覚があります。

だから、一度掲げたWILLが「なんか違うな」と思ったこともありました。でも、WILLもワークライフバランスと同じで、価値観の移り変わりに伴って変えていけばいいんです。

WILLを見つけるには、たとえば「おじいちゃん、おばあちゃんになったとき、どういう姿になっていたいか」という抽象度の高いところから始めて、「カッコいいおばあちゃんになりたい」なら、じゃあ今どうしたらいいんだっけ? と掘り下げていく。
 
それでもWILLが見つからないのであれば、最初は納得度5%でいいから、とにかくWILLをつくってみよう、と伝えます。それを口に出して誰かに伝えてみると、「ちょっと違うな」という感覚が出てくるかもしれない。そうしたらまたつくり直せばいいんです。
 
四半期のゴールセッティングのときは、当然WILLに追加があってもいいし、移り変わってもいい。そういう前提でコミュニケーションしていますね。

スピーダ インサイドセールス本部 田本圭史朗
1on1のときに気をつけていることはありますか?

熱量を持って自分のビジョンを語っています。でもこれには迷いもあって。1on1で自分の熱量をメンバーに伝えることで、相手が火傷してしまうのではないかという恐れもあったんですよね。
 
でもユーザベースのカルチャーのいいところで、フィードバックを受ける側にもそれを受け取るか、受け取らないかの裁量がある。熱量を持って伝えたところで、それに感化される人もいれば、「それは違うな」と取捨選択する人もいるんですよね。
 
僕自身、ISの仕事が好きで、そのなかでつらい経験もしてきているので、どうしたらお客様がナーチャリング(※)サイクルに乗って、いまコンタクトするべき人に連絡できる仕組みをつくれるか? といった実現可能なビジョンを伝えるようにしています。

ナーチャリング:見込み顧客との関係を段階的に育成し、購買意欲を高めていくマーケティング手法

メンバーと意見が対立したとき、どうしていますか?

実際に、旧INITIAL(現 スピーダ スタートアップ情報リサーチ)とSPEEDA(現 スピーダ 経済情報リサーチ)が組織融合するタイミングで、メンバー同士の対立が発生したことがあって。そのときはThe 7 Valuesを基準に考えることを実践しました。

同じユーザベースでも、両者はカルチャーが違う。事業の大きさも、フェーズによるモメンタムの違いもある。当然コンフリクト(対立)が起こりますよね。

SPEEDA側からは、旧INITIALは「何も考えずにひたすら電話するんでしょ?」という、いわゆる脳筋のイメージを持たれていて(苦笑)。一方のINITIALはSPEEDAに対して、ルールに縛られた風紀委員のようなイメージを持っていたんです。あ、これはあくまで僕から見えていた景色ですよ!
 
そこで、INITIAL、SPEEDAのあいだにThe 7 Valuesとそれに基づく「34の約束」という、”中立かつ基軸になる他者”を置いてコミュニケーションすることにしました。「ユーザーの理想からはじめる」というバリューを基準に、INITIAL・SPEEDA両者の景色を合わせることを粘り強く実践したんです。

対立構造が生まれると、どうしても「INITIALの人が」「SPEEDAの人が」というふうに、「ヒトが悪い」構造に陥ってしまって、組織融合がうまくいきませんでした。そこでThe 7 Valuesや「34の約束」を主語にコミュニケーションすることで、ヒト向きではなくコト向きで捉えようという発信をしました。

たとえば、施策の優先順位を巡って意見が割れたとき、「これまでSPEEDAではこうやってきた」「INITIALではこうやっている」と立場ごとの主張にすれ違いが生まれていました。でもThe 7 Valuesに立ち返って、この選択は「ユーザーの理想からはじめる」に沿っているか? という問いに置き換えることで、自然と議論の軸が揃い、今までの立場ではなく目的ベースで結論を出せるようになりました。

多様性によって組織はより遠いところへ行ける

ユーザベースのDEIBについてどう思いますか?

 僕、「異能は才能」というバリューがすごく好きなんです。多様性を認め合った先の世界線では、今よりもっといろいろなことができるだろうと。「異能は才能」はそのままユーザベースのDEIBにつながっています。
 
特にISは営業未経験で異動してくる人も多く、多様性に富んだ部署です。それぞれが強みを発揮し成果を出してくれる現状は、まさに「異能は才能」を体現していていると日々感じています。

「異能は才能」を実現するためには、HOWと周辺状況を把握したうえでコミュニケーションを取ることが大切だと思うんです。
 
組織として目指す方向は同じでも、なかにはボートで川を下る人もいれば山を越えて向かう人もいる。このときHOWだけ見てしまうと、「なぜ山を登らず船を漕いでいるんだ」というコミュニケーションになってしまいがちだからです。

スピーダ インサイドセールス本部 田本圭史朗
DEIBに取り組むメリットはなんだと思いますか?

異なる視点や経験が加わることで、意思決定の質が格段に高まると感じています。特にセールスの現場では、1人ひとりのバックグラウンドや価値観の違いが、組織としての引き出しの多さに直結すると思っていて。メンバーたちの多様性が高ければ高いほど、対応できるお客様の幅も広がっていきます。
 
多様性が担保されたチームは、メンバーのエンゲージメントや自律性も自然と高まります。自分らしさを大切にしてくれる環境でこそ、組織への貢献意識も高まるし、対話や意思決定も柔軟になるんですよね。その結果、組織としての強さとしなやかさの両立が実現できると考えています。
 
あと、リーダー選出の観点でも多様性は重要です。リーダーを選ぶ際には、自分に近い志向性の人を置かないようにしています。私と似たリーダーばかりだと、組織内でのリーダー像が固定されてしまうので。
 
「自分もリーダーをやってみたいけど、田本さんのようにできないな」ではなく、リーダーでも自分の色を出していいんだ、と思えるように多様性を持たせていきたい。

私にとってのDEIB

私にとってのDEIBは、違いを認めることではなく、「違いがあるからこそおもしろい」と自然に思える状態です。誰かの「らしさ」や「背景」が尊重されて、それがチームの強さになる。そんな関係性や空気を大事にしています。
 
日常でDEIBを身近に感じられるのは、マンガやアニメですね。『闇金ウシジマくん』とか『新宿スワン』とか。『ONEPIECE』も好きです。ルフィの仲間は国も種族も性格もまるで違うし、クセ強めなキャラが多い、つまり多様性が高いんですよね。でもそれぞれが自分の強みを発揮して、「最強のチーム」になっていく。このプロセスがDEIBの考え方そのものだと思います。

編集後記

DEIB Committeeで、この「Diversity Empowermentシリーズ」に誰に出てほしいか相談したとき、複数のメンバーから名前が上がったのが、たもち(田本のニックネーム)でした。いつもニコニコしていて、たもちと話すとみんな笑顔になる、そんなリーダーです。

今回じっくり話を聞いて、"人"ではなく"構造"で捉える、ワークライフバランスもWILLも変化していい、など、考え方もステキだなぁと改めて感じました。

執筆:宮原 智子/デザイン:藤原 来未/撮影:落合直哉 /編集:筒井 智子
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