「ユーザベース愛」を持って周囲を牽引する力は唯一無二の強み
僕は2014年7月に旧SPEEDAのセールスとしてユーザベースに入社しました。その約半年後の2015年1月に営業チームのリーダーになったのが、自分のキャリアにおける初めてのリーダー経験ですね。
当時5人ほどいたメンバーの中で、僕以外は営業経験豊富なメンバー。一方で、僕は入社して半年のあいだ自身も営業としてキャッチアップしながらも、定例ミーティングのアジェンダ変更を提案したり、価格プラン変更をお客様にお願いするプロジェクトをリードしたり、当時の海外拠点との橋渡し役をしたり、いろいろとボールを持たせてもらっていたので「バランスがいいな」と思われていたんじゃないかな。
そこから3年間はフィールドセールス(以下「FS」)リーダーを務めて、その後2018年1月にCOOになりました。SPEEDA事業内で執行役員体制をつくることになったんです。
でも、最初の2年は何とか役割を担えていたと思うんですが、3年目で大失敗をしてしまって……。2020年上期にCOOを降りました。
2020年の組織統合で、SPEEDA(現 スピーダ 経済情報リサーチ)、INITIAL(現 スピーダ スタートアップ情報リサーチ)のレベニュー組織と、スピーダのグローバルを含むコンテンツチームを見ることになり、管掌範囲が一気に広がったんです。
結果的にすべてうまくいかず、そこに新型コロナの流行も重なり、インサイドセールス(以下「IS」)は商談が取れず、SPEEDA、INITIAL両方で解約率が上がってしまった。僕は何もできず、COOを降りました。
それから半年間はカスタマーサクセス(以下「CS」)のいちメンバーに戻って、解約阻止やプランの切り替え提案に注力していたんですが、100%子会社になったミーミルとSPEEDAの共同ソリューションとして「FLASH Opinion」が出るタイミングで、ミーミルのコンサルティングファーム向けCSチームの立ち上げに参画することになり、2年間ミーミルに出向しています。
その後2023年にミーミルとSPEEDAが組織統合するタイミングで、Sales Enablement(営業組織の育成)に携わり、同年6月からマーケティングチームのリーダーに就任。2024年からはスピーダ事業全体のマーケティングを統括することになりました。今年から、マーケティングとインサイドセールス部門が同じ組織になったため、現在はマーケティング&インサイドセールスを統括しています。

いくつかありますね。ひとつは、ミッションドリブンで”コト”に向き合えるところです。ユーザベースやスピーダ事業に対して無条件に愛情を持っていて、パーパスに向いてやっていける。よく「ユーザベース愛が強いよね」と言われることがあるんですが、それはリーダーを任せるうえでとても重要な要素だと思っています。
もうひとつが、「背中を預けられた領域で何でもやる」という強いコミットメントです。これまでのユーザベースでもいろいろなことをやらせてもらって、その理由を「バランスがいいから」と捉えていました。実は僕自身は、「バランスがいい」ことが弱みだと思っていたんです。裏を返せば、飛び抜けたものがない。過去に佐久間さん(佐久間 衡/元ユーザベースCo-CEO)との1on1でも、「強みがなくて困っている」と相談したことがありました。
そうしたら佐久間さんは、「さんちゅ(山中のあだ名)の強みは、強いフォロワーシップを持っていることと、人生の目的に素直に情熱を燃やせること」と言ってくれたんです。「これをやる」と決めて周りを牽引する力は飛び抜けて強い。それは明確な強みだと言われました。僕の中では何となく「バランスは良いが、どこにもエッジがない」という整理をしてしまっていたんですが、それを「フォロワーシップの強さ」と再言語化してもらい、とてもしっくり来ています。
僕は自分のことを「使い勝手のいいリーダー」だと思っています。ミーミルもそう、マーケティングもそうなんですが、「さんちゅに頼めば断らない」と思ってもらえている。任せられるリーダーがいるって、組織にとって安心なんですよね。その結果としていろいろな役割を任せていただけたのではないかと思っています。
リーダーとマネージャーは違う、メンバーの成長を促すには「場」が必要
これは以前読んだ本の受け売りなんですが、リーダーとマネージャーは定義が異なります。リーダーは、その事業なり組織なりが向くべき方向に旗を立てられる人。マネージャーは、メンバーの能力を最大限に引き出す人。そういう意味では、僕は自分のことをリーダーよりもマネージャーだと考えています。
僕の場合、配下のリーダーが「これがやりたい」「こうすべきである」と提案をしてくれたら、それをベースにものごとを進めるようにしています。彼らの活躍の場をつくって、そのなかで成長してもらえるよう努めていますね。
その際に気をつけているのが、その人の「意思」と「ロジック」に筋が通っているかどうかを確認すること。
たとえば、僕がマーケティング組織のリーダーになる前から、CXマーケティグチームのリーダーであるレナさん(川井 礼奈)がずっと強い意思を持ってナーチャリングの仕組みをつくってくれていました。
その仕組みの概念的な部分には僕も賛成だったんですが、「具体の貢献度を何で測るのか」といった細部のロジックが整っていなかったように見えた。それ以降、1年ほどレナさんと会話を続けながら、中期的なビジョンと短期的な成果貢献を言語化すべく、磨き込みを続けてもらいました。
その結果、もしも外部から何か突っ込まれたときに、僕自身の言葉で説明責任を果たせる、言い換えれば、レナさんのアイディアを守れる筋の通ったロジックができました。メンバーの思いを結実させて成長させるためには、「意思」だけでなく「ロジック」を成り立たせることが重要だと感じた出来事でしたね。結果的に、いまナーチャリングの仕組みから大きな成果貢献を創れていて、事業内で横展開する動きが加速しています。

リーダーを育てることですね。僕がDomainリーダー(※)としてメンバーと定期的に1on1できる機会は限られているので、直接メンバーの成長にコミットするのは難しい。だから、いかにメンバーの成長を任せられるリーダーを育てるかが、間接的にメンバーを成長させる一番の近道だと思っています。
じゃあどうやって1stラインや2ndラインのリーダー(※)を育てるか、なんですが、これは個別具体的なケースにあわせてケーススタディをしていくしかない気がしていますね。
ユーザベースは、スピーダ・NewsPicks・Corporateというカンパニーの下に、Domain>Division(2ndライン)>Team(1stライン)という組織構造になっています
たとえば、僕が管掌している組織でも営業(インサイドセールス)とマーケティングではアウトカム(成果)の出し方が異なります。営業だと4DX(※)を用いた仕組化やロープレ/ユースケースインプットを軸にした育成を、いかにリーダーがハンドリングできるかが重要です。
4DX:実行の4つの規律(The 4 Disciplines of Execution)。以下4つを指す。
①極めて重要な目標にフォーカスする ②先行指標に基づいて行動する ③成果を目に見える形で記録する ④定期的な振り返りと約束を行う
一方で、マーケティングやデザイナー、HRなどは、よりプロジェクトベースで動いていくなかで、PM力や企画・コンテンツ力など、営業とは異なるスキルを身に付ける必要があります。また、定量でクリアに成果を測れる営業と、定性的なアウトプットの質を評価する必要のあるマーケティングでは、評価の仕方も工夫が必要です。
だから、職種によって個別具体的に成長を促す必要があると思っています。
基本的には定量的な目標の達成がとても重要だと思っています。定量成果は「顧客から選ばれている」ことの証だし、どんなに良い組織をつくり、パワフルなメンバーがいても、事業が成長していないとしたらそれは自己満足だと思うからです。
事業が成長し続ければ、組織も必然的に大きくなりリーダーが生まれていくし、組織のチャレンジの総量も大きくなっていく。必然的にメンバーの成長を促す機会が増えていきます。目標未達が続いてしまうとコストを削減する方向に議論がいきやすく、縮小傾向になってしまう。
どんなに組織やメンバーのコンディションが良くても、その活躍の場を創れないと意味がない。そのためにも、定量的な目標を達成し続けることはとても大事だと考えています。
逆に、ユーザベースには、組織・カルチャーについて強い想いを持ってくれているメンバーや、個人のWillや成長を大事にしているメンバーも多い。そこはあまり心配していません。
マーケティングを担当し始めた当初は、「短期vs中長期」「定量vs定性」の2軸で捉えるのに少し苦戦しました。スピーダのマーケティングイベントは「良いコンテンツをつくる!」「参加者/登壇者も楽しいと思える体験をつくる!」というこだわりがとても強い一方で、足元の施策から実績をつくることへの意識が、少し弱いんじゃないかと思っていた時期がありました。
マーケティングが初めての自分にとっては、「レベニューのメンバーが頑張って数字をつくってくれているので、僕らも短期的に数字貢献が目指せる施策をもっと回した方がいいんじゃないか」という思考回路になっていたんです。

でもそうじゃないんですよね。足元でやる1件1件のセミナーや記事コンテンツ・調査レポートの質を徹底的にこだわり抜くことで、そのコンテンツにロイヤリティを持ってくれるお客様が増え続け、そんなお客様が半年~1年経って実際にスピーダを検討してくれる際に「いつもスピーダのセミナーを見ています」と言ってポジティブにディスカッションができる。マーケティングのリーダーになって初めてそこに腹落ちしました。
なので、「短期の数字vs中長期の仕込み」でなく、その両方を同時並行に追い続ける意識を組織や1人ひとりのメンバーが持つことがとても重要だと思っています。
リーダーとしても、この「&思考」を持つことの重要性を痛感しました。
COOの失敗から学んだ「背中を預け合う組織」の重要性
SPEEDA事業のCOOを降りたことですね。当時は2ndラインリーダーだったんですが、1stラインリーダーとの強い信頼関係をつくりきれなったこと、自身の領域が広がる中で現場の解像度が足りず、1つひとつの意思決定が弱いものになってしまったことが失敗の要因だったと考えています。
実は僕、自分に自信がない人間なんです。自分の意思決定をものすごく不安に感じるし、自分が「Aだ」と思っていても、多数の人や強い意志と確信を持っている人から「Bだ」と言われると、「Bが正しいのかもしれない」と思ってしまうんですよ(笑)。
2020年にCOOで失敗をしたとき印象に残っているのが、「山中さんって、佐久間さんが言ったことそのまま伝えてきますよね」と言われたことでした。佐久間さんと壁打ちをして、佐久間さんが確信を持って発言したことに対して、僕自身も「確かに」と腹落ちして組織内でも伝える。
でも、それを自分の言葉で適切に伝えられていなかったことで、メンバーには「上からの言葉を鵜呑みにしている」と映ってしまったんですよね……。そもそも自分自身の現場・ユーザー解像度が低いから、他の人の意見を聴きながら判断をする構造になってしまい、その構造自体も現場のリーダーからすると、心もとなかったのだと思います。
「背中を預け合うことができる組織」をつくろうと意識するようになりました。
なぜあのとき失敗したかを紐解くと、チームリーダーの皆さんを頼り切れなかったからだと思うんですよね。チームリーダーたちに頼るのではなくて、自分で決めなくてはいけないと思い込んでいた。そのくせ、佐久間さんとの対話の中で生まれていく意思決定が多かった。チームリーダーたちはそんな僕に対して「自分たちを頼ってくれないんだ」と感じただろうし、信頼できなくなっていったんだと思います。
前述の通り、メンバーを頼り切れなかったことに加えて、自分が現場解像度を持てていなかったことも失敗の要因でした。FSリーダーからCOOになって、しばらくセールスの一線から離れていたし、IS/CSは未経験。だから、「現場解像度のない人=僕が、よくわからない情報をもとに意思決定する」といった構図になってしまっていたんです。
もちろん、全領域での解像度を上げるのは難しいですが、自分なりの解像度や現場感を持っておくのは大事だと思いますね。

失敗することは「当たり前」と思ってもらえるような雰囲気をつくることですかね。「失敗なんて当たり前だよ」「僕もいっぱい失敗してきたよ」と。とにかく、挑戦には失敗がつきものであり、特別なことではないと伝えますね。
振り返ってみると、佐久間さんも僕に対して意識的にそう振る舞ってくれていたと思います。「失敗して当たり前だよ」と。
グローバルへの挑戦とNewsPicksとの融合に向け、機動力を上げていく
マーケティングとISが同じ組織になることで、ひとつの組織として同じ目標を追っていけることにワクワクしていますね。
これまで1年半マーケティングをしてきて、成果をコントロールできない歯がゆさを常に抱えていました。先ほど話した「短期的な定量成果<イベントの質や体験価値」に見えてしまったのも、短期成果をコントロールできない、という組織的な構造の問題もあったと思っています。今回ISと一緒になることで、THE MODEL(※)でよく言われるカニバリゼーションが解消され、同じ目標を追える体制がつくれたのは嬉しいですね。
THE MODEL:SaaS企業に最適化された営業組織モデル。セールスフォース社が実践していた営業手法をもとに、福田康隆氏が体系化したもの。
ひとつは、グローバル事業にチャレンジすることです。既にアジアや米国で挑戦していますが、その総量を増やしたい。再上場後、確実に挑戦したいですね。
もうひとつ、スピーダ事業とNewsPicksのシナジーがもっと生まれていけばいいなと考えています。たとえば、スピーダのマーケティングのコンテンツをNewsPicksに掲載する過程で大企業の経営者の方に取材をさせていただくことも増えてきていますが、こういう取組みはNewsPicksがあってこそできることだと思っています。
こうした現場のいち取組に留まらず、本質的にスピーダとNewsPicksの事業が重なり合い、補完し合う状態をもっとつくれると考えています。自社でメディアと経済情報プラットフォーム(SaaS)を持っているユーザベースならではのユニークネスがまだまだ生み出せるはず。
スピード感ですね。まだまだスピードが遅いと感じています。あと3ヵ月早く育成体制がつくれていれば。組織融合ができていれば。マーケティング施策を打てていれば──そんな後悔を回避するためにも、今後はいま以上にスピードを担保していきたいですね。
組織が大きくなって僕の管掌範囲が広がっていくなかで、定例ミーティングや1on1も増えてなかなか思うように時間が使えず、日々の意思決定が先送りになっていたり、施策を決めきるスピードが遅くなったりしていると危機感を持っています。
事業が成長して規模が拡大すればするほど、機動力を上げていく必要があると思いますね。
ひとつは、生産性やタイムパフォーマンスをもっと突き詰めて考えること。ユーザベースはコミュニケーションを大切にする会社です。これはとてもいいことなんですが、その原則のもと、タイムパフォーマンスについて考えることを疎かにしてはいけないと感じています。1つひとつの活動の生産性を高め、行動量と意思決定量を増やしていく。
このタイミングだからこそ、成長性と収益性の両面としっかり向き合うべきだと思います。
もうひとつは、リーダーを育成することですね。現在は、3rdラインリーダーと一部の2ndラインリーダーを僕が兼務しています。他にも2ndラインと1stラインを兼務しているリーダーも多い。こういう組織構成だと、当然ながら意思決定の量が1人のリーダーに集中してしまうので、スピード感を出すことが難しくなるんですよね。
チームの数だけ1stラインリーダーがいれば、その人たちに意思決定を任せられるので、必然的に組織全体の意思決定のスピードが上がっていきます。だからリーダーを育てていくことは、これからのユーザベースにとってさらに重要になっていくだろうと考えています。

編集後記
インタビューでも話しましたが、さんちゅは毎年役割が変わるので、年始にオフィスで会うと「今年は何やるの?」と聞くようにしています(笑)。今回のインタビューで、それが「背中を預けられた領域で何でもやる」という強いコミットメントを持っているからだと知れて、なるほど〜と腹落ちしました。
オフィスのカフェで、よく近くに座っているんですが、いろいろなメンバーが入れ替わり立ち替わり、さんちゅに話しかけに来るし、それ以外の時間はほぼずっとオンラインMTGをしているのを見ているので、さんちゅ自身のユーザベース愛の強さはもちろん、さんちゅ自身がみんなに愛され、信頼されているんだなと感じます。さて、来年はどの領域を管掌するんでしょうか?(笑)







