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コンテンツの力で越境したビジネスチャンスをつくる──初の地方版『Ambitions FUKUOKA』創刊の舞台裏

コンテンツの力で越境したビジネスチャンスをつくる──初の地方版『Ambitions FUKUOKA』創刊の舞台裏

NewsPicks for Businessが2021年5月に創刊した、変革を志す企業人・組織人のためのビジネスマガジン『Ambitions』。これまでに3号を刊行し、2023年10月にはビジネスメディア『Ambitions Web』をスタートしました。2023年11月14日には、『Ambitions』初の地方版となる『Ambitions Fukuoka』を創刊。福岡の街を変え、越境したビジネスチャンスをつくることを目指す『Ambitions Fukuoka』ができるまでのストーリーを、編集長の大久保敬太と副編集長の田中智恵が振り返ります。

大久保 敬太

大久保 敬太KEITA OKUBOAmbitions FUKUOKA 編集長 兼 NewsPicks for Business 九州 編集長

ライター・編集者として活動。エンタメ、カルチャー、ビジネスなどジャンルを越境し、雑誌やムック、書籍、Webコンテンツ、企業媒体と多種多様なコンテンツ制作を行う。企業のオウンド...

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田中 智恵

田中 智恵CHIE TANAKAAmbitions FUKUOKA 副編集長 兼 NewsPicks for Business Ambitions 九州拠点 リーダー

エン・ジャパン、リクルートマーケティングパートナーズ(現:リクルート)を経て、2019年よりNewsPicksに入社。
広告セールスのほか、AmbitionsFUKUO...

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目次

Uターンから始まった、福岡の街を変える取り組み

はじめに、なぜ『Ambitions FUKUOKA』をつくろうと思ったのか教えてください。

田中 智恵(以下「田中」):
大きく3つ理由があります。1つ目は、エリアが抱える課題感。2つ目は、企業規模やエリアを越境したコミュニティづくり。3つ目は、NewsPicks for Businessとしてエリア単位で認知を獲得することです。
 
もともとは2022年12月に、私が地元の福岡にUターンしたことが発端です。10年以上ぶりに福岡に戻ったら、福岡の街全体で「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」のような大きな改革に取り組んでいたんです。
 
ビジネスビルや商業施設をつくったり、地場の歴史ある企業が新規事業を始めたり、行政支援のもと、スタートアップもどんどん生まれていました。ただ、こうした情報がエリア外には届いていなくて、すごくもったいないと思ったんです。この取り組みを発信しなきゃいけない、と思ったのが1つ目ですね。
 
もう1つ、福岡はコミュニティが強い街なんですが、同規模、同領域だけで集まったり、エリアを越えて交流したりといったことがあまりない印象でした。そこで 、NewsPicks for Businessの発信力を活用し、越境した関係性をつくっていけたらと思いました。
 
最後が、福岡エリアでNewsPicks for Businessを通じて弊社のことを知ってもらうという目的ですね。メディアの取材では通常ではなかなかお会いできない方からお話を伺えるし、取材をきっかけに関係性もつくれるんじゃないかと考えたんです。

AmbitionsFUKUOKA 副編集長 田中智恵
そうした理由から『Ambitions FUKUOKA』を立ち上げたわけですが、なぜWebではなく、「紙」だったんですか?

田中:
物理的な「モノ」があるのは強いなと思ったんです。パラパラとページをめくるのって、その人の時間を独占できますよね。かつ、「情報格差のある地域経済に『経済情報の実弾』を投下する」という世界観を伝えるためにも、紙媒体にしたほうがいいんじゃないかと思ったのが理由です。
 
『Ambitions FUKUOKA』は「本をつくって売上を立てる」のが目的ではなくて、いわばマーケティング戦略のひとつです。代表の麻生さん(麻生 要一/AlphaDrive 代表取締役CEO)からは、「これを投下することで街にインパクトを与えることができるだろうから、やってみよう」と言ってもらいました。

福岡の「変わりたい」という気持ちが追い風に

『Ambitions FUKUOKA』に登場する人の人選はどうやって進めたんですか?

大久保 敬太(以下「大久保」):
田中さんがある程度ネットワークをつくっていたので、そこからの人選がメイン。あとは企画をもとに、「それだったらこの人が適任じゃない?」という感じで決めていきましたね。
 
田中:
福岡って、直接面識のない人でも誰かにお願いすればつながれるんです。ネットで調べて「この人に取材したい」と思ったら、知り合い経由でつないでもらいました。
 
大久保:
ほかにも、たとえばSPEEDAのメンバーを経由してお客様につないでもらったり、NewsPicks Re:gionと一緒にイベントをさせてもらったり。ユーザベースのみんなにも助けられました。

コミュニティのつながりが強いとはいえ、『Ambitions FUKUOKA』としての実績がないなかで地域の大企業のトップが取材に応じてくれたのはなぜなんでしょう。

田中:
「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」などのプロジェクトが進んでいて、今は福岡という街が変わるタイミングなんですよ。ふくおかフィナンシャルグループもオープンイノベーションを推進する施設をつくっているので、取材を受けてくださるんだと思います。
 
大久保:
UNIDGEが協業しているKPMGジャパンさんもスポンサードで入ってくださっていますし、AlphaDriveが新規事業の立ち上げを支援しているJR九州ともつながっていますね。

AmbitionsFUKUOKA編集長 大久保敬太
実際に『Ambitions FUKUOKA』をどうつくっていったんですか?

大久保:
2023年5月に刊行のゴーサインが出て、夏頃まで営業して発売が11月。そこから逆算してスケジュールを立てて進めました。
 
100ページ以上のコンテンツを同時に動かす場合、いかにイレギュラーに対応できる「遊び」をつくるかが大事だと考えています。遅れやトラブルは絶対に起こるものであり、それがすべて同時にきたら制作が止まってしまう可能性があるんですよ。
 
今回で言うと、高村さん(高村 真央/AlphaDriveイベントプロデュースグループリーダー)、比嘉さん(比嘉 太一/AlphaDriveメディアプロデュース2グループ)のチームが、理想のスケジュール通りに完成度の高いページをつくってくれました。そのおかげでリソース調整が可能になったと思っています。
 
校了のちょうど1ヶ月前にはゴールまでの道筋が見えてたので、そのタイミングで「いける」と確信しました。あとは仕上がり度とフェーズごとに進めて、校了前に足並み揃うようにするだけです。
 
コンテンツ制作というと追い込みやドタバタに目がいきがちですが、制作がうまく進んだ要因は、全体進行を見据えて引っ張ってくれた制作チームの2人のおかげでした。

越境したビジネスチャンスをつくりたい。NewsPicks for Businessが外からの風を吹かせる

『Ambitions FUKUOKA』ではイベントも開催しましたが、どんなイベントだったのか教えてください。

田中:
『Ambitions FUKUOKA』の発売前日に、福岡で刊行イベントを実施しました。このイベントで叶えたかったのは、「発信」することと、越境したビジネスチャンスをつくること
 
発信という意味では、取材させていただきたい方や今後に向けて関係性を築きたい方、あとはNewsPicks for Businessのケイパビリティを提供したかったので、広告代理店さんとの連携も念頭に置いていました。
 
あとは、大企業とスタートアップのつながりはもちろん、エリアという意味でもごちゃ混ぜにしたかったので、そこを意識した内容を考えました。
 
このイベントをして嬉しかったのが、他にもいろいろな交流会に参加されている方に「いつものイベントと顔ぶれが違う」と言われたことですね。
 
大久保:
福岡のイベントって、参加者が顔見知り同士になりがちなんですよ。何割かの方はその状況を変えたいと思っていたようで、「NewsPicksが来て、外からアプローチしてくれることに期待している」と言っていただきました。
 
田中:
イベントでいくつかトークセッションを実施したんですが、北九州市と福岡市が共創に向けて、それぞれの魅力を伝えるピッチをしたんです。登壇いただいた方々が「福岡と北九州で連携をしていきましょう」と高らかに宣言してくださって。これまでも本当は連携したかったけど形にできていなかったんですね。それを実現するきっかけになっていると嬉しいですね。

NewsPicks for Business 田中智恵

コンテンツもイベントも、想像以上の反響を得る

刊行イベントの反響はいかがでしたか?

田中:
さっそく問い合わせが来ています。とある行政施設から冊子をつくりたいという要望や、代理店さんからも地元企業のコンテンツ制作のお問い合せをいただいています。
 
これだけではなくて、テレビ局からも「一緒にYouTubeチャンネルをやりませんか?」とか、ラジオ局から「一緒に番組をやりませんか?」と言っていただくなどのお声がけもありました。正直、ここまで反響があるとは思っていませんでした。
 
大久保:
FDC(福岡地域戦略推進協議会)の石丸事務局長には、FDCのイベントでお話する機会を設けていただきました。そこでいろいろな企業さんとつながることができて、本当にありがたかったですね。

第1号を刊行して、イベントも想像以上の反響が得られたということですが、逆にここまでで反省点はありますか?

田中:
戦略もないままに思いついたことをとにかく実践してきたので、もしかしたら抜け漏れがあるかもしれない、もっとできたことがあったかもしれないと感じています。
 
大久保:
思いつきで進めたことは、僕にとってはすごくよかったですね。僕はもともと制作の人間で、制作としてのアイディアしか出ないんです。でも、今回は田中さんがセールス主導でアイディアを出してくれました。

田中さんが制作とは全然違う角度からアイディアを出すので、毎回「何それ!」って感じておもしろかったんですよ。雑誌なのでちょっとカオスにしたい気持ちもあって、いろいろな視点を入れたかったので、田中さんのアイディアにはできる限り全乗りしました。
 
田中:
確かに。編集長が制作側の人で、副編集長がセールス側なのはユニークな点かもしれないですね。
 
私自身はどうしてもビジネスサイドの考え方をしてしまうんです。それをやってメリットがあるのか、利益になるのか。ただ私は制作の経験がないので、どんな構成にしたら読まれるのかを大久保さんに助けてもらって。結構2人で衝突したこともありましたもんね(笑)。
 
お互いビジネスサイド、クリエイティブサイドでとことん顔をつきあわせて、「ここから以降は相手に任せよう」となるまで話し合いました

NewsPicks for Business 大久保敬太
まさにユーザベースが大切にしているオープンコミュニケーションですね。健全なコンフリクトも起こりつつ、最後はお互い背中を預け合える。

大久保:
僕は逆に商談に同席させてもらって得ることがたくさんありました。こういう文脈で、こんなふうにつながっていくんだと。
 
田中:
私も取材にはほぼ同行させてもらって、制作の過程を見られたのはよかったですね。

コンテンツを起点に、福岡をもっと「人が集まるエリア」にしたい

このマガジンを起点に、今後地域にどんなことを生み出していきたいですか?

田中:
大きな話になるんですが、今回『Ambitions FUKUOKA』を手がけてみて、コンテンツの力はすごいと改めて感じました。人をわくわくさせるし、「仕事って楽しい!」と思わせる力があるんです。その力を福岡一円のビジネスのグロースに役立てたいと思いました。
 
大阪や名古屋といった地方都市があるなかで、「かっこいい福岡」と思われるようなブランディンをしたり、ここでしかできない仕事ができる場にしたり。コンテンツを起点に、福岡をもっと人が集まるエリアにしたいですね。
 
大久保:
僕も「ただ雑誌をつくろう」だったらやっていなかっただろうと思います。物理的にはコンテンツの編集ですが、雑誌という媒体の特性を活用して、誰かと誰かをつないだり、どこにアプローチするかだったり、イベントや地域といった「場」の編集に広げていく。つくって終わりではなく、制作の先にあるものがめちゃくちゃおもしろいですね。
 
田中:
今回の取り組みを通じて、エリア内でのエンゲージメントができあがりつつあるので、今後はそれを閉ざすことなく定期イベントを企画したり、コミュニケーションを取ったりしなければと思っています。
 
すでにJR九州の古宮社長が、AmbitionsFUKUOKAのイベントに出てくださることになっているんですが、これは『Ambitions FUKUOKA』の取材を通して生まれた企画なんです。
 
古宮社長は月に1回、社員さんが1,000円で参加できる飲み会を開催しているそうなんです。新入社員含む社員の皆さんたちと意見交換しているらしくて、それをアレンジして、福岡で働くビジネスパーソンが古宮社長と交流できるイベントを開催することになりました。
 
本誌は今後も年1回は刊行していきたいですし、小規模でいいので定期的にイベントも開催していきたいですね。いずれは九州全域に広げていきたいと考えています。特に長崎はいま、上場企業が1社もないらしいんですよ。行政が上場企業をつくろうと取り組みを始めているので、それにあわせてスタートアップとのオープンイノベーションを企画するなどしていきたいですね。

左から、大久保・田中

編集後記

最初に『Ambitions』の地域版をつくると聞いたとき、どんな目的なんだろう? なぜ大阪ではなく福岡? などいろいろな疑問が浮かんだんです。でも今回インタビューしてみて、福岡の街が変わるタイミングであることを知って、「だからまだ実績のない創刊号なのに、こんなに多くの人が協力してくださったのか!」と納得しました。何より、インタビュー中の2人が本当に楽しそうに話をしてくれて、私もワクワクしました!

執筆:宮原 智子 / 撮影:井上 秀兵 / 編集:筒井 智子
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