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SPEEDAの成長を支えるターゲティング戦略 3つの成功条件と2つの「しくじり」【ナレッジシェア #04】

SPEEDAの成長を支えるターゲティング戦略 3つの成功条件と2つの「しくじり」【ナレッジシェア #04】

ユーザベースの創業事業、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」。国内だけでなく、中国や東南アジア、北米などにも展開し、R&Dの分野にも事業の幅を広げています。また2020年からは、インタビュー等を通じて専門家の知見にアクセスする機能「SPEEDA EXPERT RESEARCH」を提供しています。

ナレッジシェアシリーズの第4弾は、SPEEDA事業全体のターゲティング戦略について。2019年に本格的に導入した経緯や成功の秘訣、また失敗につながるポイントについて、SPEEDA事業執行役員 CRO(Chief Revenue Officer)の海野に聞きました。

海野 悠樹

海野 悠樹YUUKI UNNOSPEEDA事業執行役員 CRO(Chief Revenue Officer)

新卒で株式会社マイナビにて法人営業を担当。

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目次

ターゲティング戦略導入の経緯と成果

SPEEDAでターゲット戦略を導入したのは2019年。同じユーザベースのSaaSプロダクトでB2B事業向け顧客戦略プラットフォーム「FORCAS」が、ターゲット戦略の導入によりARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)昨年対比2.7倍増という大きな飛躍を遂げたことがきっかけでした。

SPEEDAはユーザベースにおける収益の屋台骨であり、会社全体を牽引するためにも非連続な成長を続ける必要があります。そこで「ターゲティング戦略の導入」という大きな決断が下され、これまでセールスのメンバーとして細かい数値分析や業務改善に取り組んでいた私がオーナーシップをもって導入を進めることとなりました。

毎年のように改良を重ねた結果、新規売上の成長や、当時課題だった解約率1.0%未満の達成を実現し、ARR67億円を記録。SaaS事業全体をARR100億円水準まで引き上げる原動力となりました。

2021年12月期通期 決算説明資料

2021年12月期通期 決算説明資料より

また、マーケティングからセールスまでが同じ指向のもと、事業運営されるようになったのも大きな成果です。結果的に事業部内は一気通貫で物事が運ぶようになり、各担当ごとの認識のズレが発生する機会は激減したのです。

3つの成功条件

ターゲティング戦略の成功には、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。

ターゲティング戦略 3つのポイント

それぞれについて詳しく解説します。

①適切な粒度のターゲティングによる一貫したストーリー

ターゲティングを行う際に最も留意すべきは、売上創出に携わる全てのメンバーが誰でも理解できる内容にすることです。「上場企業」などと大雑把に括ってしまうとアプローチ先が広範囲に及んでしまい、解釈にばらつきが出てしまいます。

だからといって、条件が10個も20個も細かく分かれていては、誰も覚えることができません。誰もが代表的な企業を、何社も頭に思い浮かべられる粒度でターゲティングを行うことで、プロダクトやマーケティング、セールス、カスタマーサクセスまで一貫したストーリーで価値を届けることができます。

適切な粒度のターゲティング

②定量情報の分析と、定性情報の発見

ターゲティング先に作業工数や人的リソースなどを集中的に投下するため、戦略の実行においては、商談化率や受注率、解約率といった定量的な指標が改善されているか常に注視し続けなければいけません。

一方で、定量的に分析するだけではわからない、未来のターゲットを探索することも同時進行する必要があります。その上でヒントになるのが、セールスメンバーやカスタマーサクセスの定性的な感覚です。「商談で顧客がすごく感動してくれた」など、新しい発見は毎日発生します。母数が少なくデータには現れにくいことが多いですが、今までにない新たなターゲティングの切り口になりえます。

データによる定量的な分析と、セールスメンバーによる定性的な発見、その両面を大切にすることが、ターゲティング戦略を進行する上では大変重要です。

③トップダウンによる最終決定

ターゲティング戦略は、事業全体の運命を左右するものと言っても過言ではなく、慎重に決定する必要があります。決定するまでには事業部の全部署からヒアリングを行いますが、リクエストを受け入れすぎてしまうと、誰もが結果を残せる戦略からは遠のいてしまいます。最後に内容を決定するのは責任者ただひとり。戦略の全体像は合議制で決定すべきではありません。

一方、上記のようなポイントを見出し「売上成長」という結果に到達するまで、私たちは何度も失敗を繰り返してきました。もしこれからターゲティング戦略の策定に取り組む場合、ぜひ「しくじり」も一緒に参考としていただけると幸いです。

ターゲティング戦略で起こりがちな「しくじり」

①ターゲティングの粒度が極端

私が特に最初の2回で失敗を痛感したのは、適切な粒度のターゲティングを設計できておらず、メンバーに浸透しなかったことです。

最初に策定したターゲティングは、受注率を極限まで高めようと思い、ひとつのターゲットに10個の細かい条件を入れました。私は策定した当人なので、もちろん頭の中にしっかりと入っていたのですが、初めて目にするメンバーにとっては細かすぎて、意図が伝わりませんでした。

最初に作成したターゲットリスト

最初に作成したターゲットリスト(一部加工しています)

初めて実行するターゲット条件がメンバーの頭に入らないような状態では、スムーズに行くはずもありません。複雑すぎてマーケティング施策にもセールス活動にも反映できず、一貫したストーリーを組み立てられませんでした。プロダクトオーナーの佐久間さん(佐久間 衡/ユーザベース代表取締役Co-CEO)からも「細かすぎて伝わらないようでは、良い戦略と言えない」とフィードバックされ、新たに粒度の大きい戦略を練り直すこととなりました。

すると今度はターゲットを絞りきれていないため、受注率や解約率などの指標が改善するどころか、悪化してしまったのです。現場に混乱が生じたことから、戦略を再度見直すことに。

一貫したストーリーと指標の改善、両方が達成できるターゲティングを見つける難しさを痛感した、印象的な出来事でした。

②幅広い意見を取り入れ、完成度の低い戦略に

もうひとつの大きな反省は、マーケティングやインサイドセールス、カスタマーサクセスなど、レベニュー組織のメンバーから幅広い意見を取り入れすぎてしまったこと。

SPEEDAにおける戦略などの意思決定は、Slackのオープンチャンネルなど、誰でもアクセスできる場所で行われます。そのプロセスを見たメンバーたちが「このターゲットも入れたい」「このターゲットは提案が通りにくかった」など、さまざまな意見を寄せてくれました。

もちろん意見自体はありがたいのですが、全てを取り入れようとすると戦略に矛盾やほころびが発生してしまうのです。

たとえばマーケティングにおいて獲得しやすいリード(お問い合わせ)と、インサイドセールスにとってのパイプライン化(有効な見込み顧客としてフィールドセールスに案件を渡すこと)が見込めるターゲットに、ズレが発生するのは必然です。矛盾した意見をそのまま受け入れて戦略を策定したところ、適切な粒度でターゲティングを行えませんでした。

こうした経験から、幅広い意見を受け入れつつ、最終決定は自分自身で行う重要性を知ることとなったのです。

ターゲティング戦略の策定プロセス

ここまでの内容を踏まえ、どのようにターゲティング戦略を策定しているか、そのプロセスを具体的にご紹介します。

まずは過去に実行した戦略と、そこから得られた定量的な結果(リード数・商談化率・受注率・解約率など)をもとに傾向を分析。有効だったターゲット条件とそうでないものを洗い出し、仮説を立てます。

こうした定量的な分析をする時に使用するのがFORCASです。数千、場合によっては10,000件以上のリードを全て手動で精査するのは現実的ではありません。FORCASにはデータクレンジングから、新しい発見を促すシナリオ分析など、ターゲティングに必要な機能が全て揃っています。手前味噌ではありますが、戦略の策定には欠かせないツールです。

また定性的な意見も重要なので、その後は各部署のリーダーにターゲットごとに「追加」「維持」「削除」の観点でヒアリングを行い、これまで実行してきたターゲティング戦略の成果や改善点などを洗い出します。

各部署からのフィードバックシート

各部署からのフィードバックシート(一部加工しています)

その後新しい切り口のターゲティングを探すため、過去のターゲティングからは外れているけども受注をした顧客を1社ずつ細かく見ていきます。

  • 商談メモからどういったニーズが読み取れるか?

  • 中期経営計画では何を書いているのか?

  • 直近のM&Aはどんな事があったのか?

  • 社長のインタビューでは何を言っているのか?

  • 業界全体のトレンドはどのようになっているのか?

など、さまざまな切り口で見ていき、新しい切り口のターゲットとなりうる共通項を見つけていきます。

共通項を見つけられたら、過去のリードや商談に情報を付与してみて定量的に優位差が出るかを確認します。優位差が出なかったら、また別の共通項を見つけに行き、分析と発見を高速で回していきます。このプロセスは今後の事業成長の大きな種となるので、非常に重要です。

こういったプロセスを経て事業全体に確認後ターゲットを正式に決定します。ただ、ここで終わりではありません。

たとえば積極的に拡大を提案するべきターゲット、継続的に使っていただくようサポートするターゲットなど、ターゲットに応じてやるべきアクションが変わります。そのため、ターゲットに応じた組織の組み換えと行うと同時にメンバーへの評価基準も変更していきます。これにより、方針・戦術・組織・評価の一貫性を保つことができ、全員が同じ方向で行動できるようになります。

さらに、ターゲットに合わせたマーケティング戦略やインサイドセールスのアプローチとも連動させます。SPEEDAでは、毎月3〜4件のセミナー開催や、さまざまなコンテンツ配信を行っていますが、これらのテーマ設定をターゲティングと合わせていきます。

ここまでのプロセスを経て、初めてターゲティングに沿った戦略実行が完結します。

ターゲティング策定〜戦略実行までの流れ

最後に

事業部全体がプロダクトの成長を信じて取り組むことができ、最大の成果が得られる戦略を検討することや、正しく実行されるまで戦略を浸透させることはそう簡単ではありません。ターゲティング戦略の策定から実行まで、かなり大変なプロセスであることは事実です。

しかし、その大変さを乗り越えた結果、大きな成果を得ることができました。今後もターゲティング戦略を地道に実行し、日々ブラッシュアップを続けることで、SPEEDAをさらに成長させていきたいと思います。

SPEEDA 海野悠樹

編集後記

ターゲティング戦略の成功から「しくじり」までを、レベニュー責任者が赤裸々に語った本記事。実は本人から「ターゲティング戦略をテーマに記事を書いてもらえませんか?」と頼まれたものでした。自らの経験を余すことなくシェアすることで、SPEEDAのターゲティング戦略について少しでも知ってほしい──そんな海野の強い思いが、記事から少しでも伝わっていれば幸いです。

実はここに書ききれない話として、「ターゲティング戦略とプロダクト戦略の共存について」や「周囲から納得されるトップダウンの方法」など、深〜いテーマが取材中にいくつも飛び出してきました。記事が何本でも書けてしまいそうな深淵なる世界、ターゲティング戦略。正しいPDCAを回した分だけ事業が成長していくことを知り、今後のSPEEDAがどんな展開を描くのか、とても楽しみになりました。

執筆:髙田 綾佳 / 編集・撮影:筒井 智子 / デザイン:犬丸 イレナ

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