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配慮「しすぎ」は相手を枠に閉じ込めるのと同じ。個性を認めて”普通に”接することが大事──SPEEDA Localisation Team Viktor Makhnutin

配慮「しすぎ」は相手を枠に閉じ込めるのと同じ。個性を認めて”普通に”接することが大事──SPEEDA Localisation Team Viktor Makhnutin

ユーザベースの多様なリーダーに光を当てる企画、「Diversity Empowermentシリーズ」、第16弾は、SPEEDA Localisation TeamのViktor Makhnutin(ヴィクトル・マフヌーチン/以下「Viktor」)です。

D&Iについて「いろいろな個性や価値観があると知ることが大切」と語るViktorは、一方で配慮「しすぎる」ことで、意図しない枠のようなものをつくってしまう可能性があると指摘します。

Viktorが仕事や人生において大切にしていることや、D&Iに取り組む意義 、マネジメント論、異なる意見を持つ相手と話す際に気をつけていることなど、さまざまな角度から話を聞きました。

ヴィクトル・マフヌーチン

ヴィクトル・マフヌーチンVIKTOR MAKHNUTINSPEEDA Localisation Team Leader

大学を卒業後、フリーランスの翻訳者としてロシア語・英語・日本語の翻訳・校正を担当。次いでブリヂストンで製造現場での通訳...

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目次

1. はじめてリーダーを打診されたとき、どう思った?

はじめてリーダーを任されたのは前職のブリヂストン時代で、まだロシアにいた頃です。通訳チーム10人のリーダーとして、メンバーのアサインやプロジェクト推進を担当していました。

当時、私は25歳。リーダーの経験はありませんでしたが、上司からいきなり「できるでしょ!」みたいなノリで任されて(笑)。不安もあったし、正直気乗りはしなかったんですが、チームとしての目標を達成するために必要なことなんだと解釈し、引き受けました。メンバーの全員がマネジメントに興味がなかったというのもあります。やってみたら意外に楽しかったですよ。

2. ユーザベースで実際にリーダーをやってみてどう?

まず入社直後の私の仕事についてお話しすると、日本語から英語への翻訳自体は経験があったんですが、フルタイムの仕事として翻訳するのははじめてだったので、結構苦戦しました……。

まず量を求められますし、品質へのこだわりも強い。この環境に慣れるには時間が必要でした。それから、いわゆる「UB用語(ユーザベース用語)」を覚えるのも大変でしたね(笑)。今は「UB略語集」というまとまったシートがあるけれど、当時は知っている人は知っている、知らない人は知らないっていう暗黙知がいっぱいでした。毎週全社で行われているTHM(Town Hall Meeting/全社会議)の資料を翻訳するときに、文脈を理解するのに苦労した覚えがあります。なので、はじめはとにかく仕事に慣れて、ユーザベースやSPEEDAに慣れて、実績を蓄積することにフォーカスしていました。

徐々に業務に慣れてきてユニットリーダーを任されるようになり、2021年1月から現在のチームリーダーというポジションに就いています。はじめはやっぱり不安でした。というのも、私は自分のことを今でも「一(いち)翻訳者」だと思っているからです。

感覚としては、チームのビジョンを達成するために私の能力が必要ならば、リーダーの役割を果たします、という感じ。私にとってマネジメントは「面白いコンテンツを世の中に届けるため」の手段のひとつです。「マネジメントをしたいからここにいるわけじゃない」という意識は、いつも心のどこかにありますね。

ちなみに、チームでは「Go "Glocal" to Deliver Wow!」というビジョンを掲げています。これはグローバルなインサイトを、ローカルのユーザーに届けていきたいという意味です。だから私はTranslationよりも、Localisationにこだわっています。ローカライゼーションには、いろいろな解釈があります。こだわるポイントも人それぞれ。言葉そのものも大切ですが、最も重要なのは言葉の裏にある意図や気持ちを、言語の壁を超えて伝えていくことです。

ローカライゼーションというのは自分自身で執筆するわけではなく、執筆者の言葉を別の言語で表現する仕事。その線引きがすごく難しい。執筆者の意図を尊重しながら、自分の個性をどう発揮するか。日々そんなことを考えながら、そのプロセスに取り組んでいます。

3. 何を大事にしているの? 仕事だけでなく、人生でも。

映画や本、ゲームといったコンテンツ全般が大好きです。 面白いコンテンツをできるだけ多くの人に届けたいというのが、私の人生におけるミッションだと思っています。無償なので副業とはちょっと違うのですが、社外で映画の字幕や書籍などいろんなコンテンツの翻訳も時々しているんですよ。

4. ワークライフバランスについて、どう考え、実践している?

大事なことであると同時に、難しいテーマだと思いますね。会社にはいろんな人がいます。プライベートを大切にしたい人もいれば、「仕事が趣味」みたいにオフのときも仕事のことばかり考えている人だっています。

どちらもありだと思いますが、大事なのは本人と周りの人が、その人がどのような価値観なのかを相互理解することではないでしょうか。私自身は仕事を全力でがんばりたいし、みんなにもそれを期待したい。だけどあくまでも仕事だから。無理するようなことはせずに、つらいときや大変なときは相談してほしいと思っています。

実際、私のチームで業務量が多くて困っているメンバーがいたときは、そのメンバーと話し合いながら業務やタスクの内容を分析し、私にできることは私と分担し、優先の低いものは再検討することで、メンバーにかかる負担を減らすようにしました。

メンバーそれぞれで事情や価値観は異なりますが、アウトプットの期待値はチームみんなで合わせるようにしています。期待以上の分量をこなした方はもちろん評価しますが、それを残業することで実現しているのだったら話し合いが必要です。

まずは定時の範囲内で現実的に終えられる業務を、定量化・言語化することが大事だと思います。チーム自体は成長したり変化したりするので、定期的に「あれ、この業務の進め方でいいんだっけ?」という振り返りを行うことも大切ですね。もちろん私自身、完全にできているわけではないのですが……。

5. うまくいかなかったとき、どうした?

私はあまりコンフリクトが好きなタイプじゃないんですよ。でも入社したばかりの頃に、チームのコミュニケーションがうまくいかなかったことがあって。そのときは個別に1対1で話してしまったんですが、本当はチームみんなで課題や解決策を吐き出せばよかったなと思っています。

大事にしたいのは、意図せず相手を傷つけてしまったときも、その相手とコミュニケーションを続けることです。自分の責任を認めて、ちゃんと謝って。でも、相手と会話することを諦めない。未来につなげていくためにコミュニケーションを続けるようにしています。

何よりもまずは自分で反省することが大切です。あらためて振り返って、そのときどういう行動をとるべきだったのか。それを今後の学びにつなげていくしかないんじゃないかな。

6. メンバーと話すときに意識していること

最近はそのメンバーが何をしたいのか、将来どうなりたいかを意識するようにしています。「こうなってほしい」ということを伝えることも重要だと思いますが、その人が何をしたいのか(will)が何よりも重要です。全体的に、その人の成長につながるような話をしていることが多いですね。

あとリーダーになってからは、今まで以上に言葉を意識するようになりました。言い方とか影響力の強さとか、相手がどう聞いてどう解釈するとか。これは周りのメンバーから指摘をもらって気づいたことです。

コミュニケーションについては私なりにいろいろ改善しようと思っているのですが、まだまだですね。例えばメンバーから相談を受けると、どうしてもすぐに「解決策を提示しなきゃ!」と思ってしまいがちです。でも相手は必ずしも解決策を求めてるわけじゃないこともある。ただ聞いてほしいだけのときも、一緒に考えながらその人が自分なりの解決策を見つけたいときもありますよね。

だからできるだけ相手に話をしてもらうことに気をつけています。というか、普段から話してもらえるような関係性をつくっておくことが大事ですね。

7. 1on1のときに気をつけていることは?

できるだけその人のための時間にしようとしています。「今日トピックスはありますか?」「何かあったら事前に準備してくださいね!」と声かけをして、その人が描いている目標に近づくための時間にしたいなと思っています。

もちろん私のほうにトピックがあって、それについて話すこともありますよ。

8. メンバーと意見が対立したとき、どうしているか?

コミュニケーションを諦めないことが大事ですね。対立するということは、お互いの景色が合っていないということ。なのでまずはお互いの景色を交換することに集中します。

たとえば1つのグループがAと考えていて、もう1つのグループがBと考えていて対立している、そんなケースでは、お互いが思っていることを全て吐き出すところからはじめます。

どれだけ意見が対立しても、お互いを尊敬していたいですよね。こういう言い方は変ですが、しょせん仕事上のことですから。その人自身が嫌いとか、相手をやりこめたいっていう話じゃない。あくまでも仕事上のやり方についての意見が合わなかっただけなので、話し合えばきっと解決できるはずです。

もちろん、ときにはどうしても意見が合わないこともあります。そういうときこそ、信頼関係が重要。最終的に責任を持つ人が「ここは私を信頼して任せてください」と言って決めればいい。仮に後になってよくなかったと思うことがあれば、「ごめんなさい」と心から謝ればいいと思います。

議論の際についつい感情的になってしまうケースもありますが、そういうときって、たいてい相手が何らかに不安を抱いているときだと思うんですよね。そういうときは、感情的になっているメンバーに丁寧に向き合ってヒアリングします。その人はいったいどこに引っかかっているのか、どんなリスクがあると感じているのかなどを深堀るようにしています。もしかするとその人しか気づいていないリスクがあるかもしれないし、そのリスクを踏まえたらやり方を変える必要があるかもしれません。

じっくり向き合うことで、その人にしか気づいていないリスクを見つけられたら、それはありがたいことですよね。

9. ユーザベースのD&Iについてどう思う? ViktorにとってのD&Iは?

意識的にやっていることがすばらしいですよね。D&Iは意識からはじめるものだと思っているので、こういう課題感を意識・認識していくことが重要だと感じています。

ユーザベース特有の状況としては、海外メンバーがけっこういますが実際にどれだけいるのかすら把握していない人もいるという点です。そこをどう配慮していくかも課題かもしれません。日本にいるメンバーには通用する話でも、スリランカにいるメンバーには遠い話で疎外感を生んでしまう、ということもあると思うんですよね。

社内にどんな人がいるのか、もっと意識してみてもいいのにと思います。

個人的にD&Iで大事なことは、「意識・認識すること」。どういう人が会社にいるか、まず知ることですね。でも特別なグループをつくったり特別扱いしたりすることは、違うと思うんです。「海外メンバー」という呼び方自体、壁をつくっているような気がします。

たとえばうちのチームにはLGBTQのメンバーがいます。それは、その人の個性だと思うし、個性をもちろん尊重します。でも、その人も周りの人も同じ一人の人間。だから同じアプローチをしています。

Equity(公平性)の観点でいうと、配慮すべき「差」がある場合は、配慮した方がいい。その人が強みや個性を発揮するために、サポートが必要な部分はしっかりサポートすべきです。

でも配慮しすぎると、逆にその人が「他の人とは違うのだ」という枠組みを意図的につくってしまうことになると思うんですよね。私だったらそれは嫌ですし、うちのローラ(Laura Wakefield/SPEEDA Localisation Team 翻訳者)と話しても「そういうのは好きじゃない」って言われます。だから普通に話すし、普通にコミュニケーションをしています。

10. D&Iに取り組むメリットは?

いろいろな個性の人がいる組織をつくれること。いろんな個性があるからこそ、面白いコンテンツやプロダクトが生まれるんだと思います。

既存メンバーの視点ではわかっていなかった部分が見えてくるから、新たにジョインしたメンバーからいろんな示唆をもらうことが多いですね。チームでは当たり前のことでも、はじめて見た人からすると「あれ?」って思うことがたくさんあるはずです。慣れ過ぎてしまうと改善すべきだということすら気づかないことも、やっぱりあるんだなと。

異なる経験、異なる個性を持つ人が増えれば増えるほど、組織も活性化されていくと思います。

<私にとってのD&I>

Netflixのインクルージョン宣言です。とくにこの部分が心に響きます。「we need employees from different backgrounds and a culture that celebrates those differences」。さまざまなバックグラウンドを持つ従業員を「Netflixが必要としているのだ」、と書いてあります。

 それからまだ読み始めたばかりですが、Stefanie K. Johnsonの『Inclusify: The Power of Uniqueness and Belonging to Build Innovative Teams』という本。いろんなリーダーのタイプを分析して、D&Iの観点で課題について解説しているので、「あ、自分はこういうのがしがちかもしれない……」と気づかされますね。

執筆:見廣 健太郎 / インタビュー・編集:石川 香苗子、筒井 智子

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