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エンタープライズセールスに求められる2つの変革【ナレッジシェア #01】

エンタープライズセールスに求められる2つの変革【ナレッジシェア #01】

ユーザベースの創業事業、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」。国内だけでなく、中国や東南アジア、北米などにも展開し、R&Dの分野にも事業の幅を広げるSPEEDAは、さらにグループ会社であり「経験知に価値を与える」をミッションに掲げるMIMIRとともに「SPEEDA EXPERT RESEARCH」というエキスパートプラットフォーム事業も展開しています。

今回から新たに始めるナレッジシェアシリーズの第一弾として、SPEEDAのエンタープライズセールスについて、Account Exective Unitでリーダーを務める木部に、戦略や具体的な成果、顧客からの反応などについて語ってもらいました。

木部 心紀

木部 心紀MOTONORI KIBE SPEEDA Japan Division Strategic Partner Team

大学卒業後、日本電気株式会社(NEC)に入社。自治体・大手リテール業向けの法人営業に従事してきました。2018年退社後...

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目次

ターゲットユーザーの定義

エンタープライズセールス──いわゆる大手企業向け深耕営業の難しさは、さまざまありますが、よく言われるのは「インバウンドでの有効リード獲得の難しさ」や「検討・稟議プロセスの長さ」です。

ユーザベースグループのB2B SaaS事業では、これまで主にThe Model型のセールスを展開してきました。しかし、認知を拡大し、見込み顧客を選定、商談獲得と、徐々に数を絞っていくThe Model型のセールスでは、インバウンドでの有効リード数がそもそも少ないエンタープライズセールスには対応しきれません。そこでまず必要となるのが「提案する法人グループを特定する」ことです。

これまでの担当法人グループ数は22でしたが、2022年4月以降に担当領域を拡大し、現在は31の法人グループを担当しています。業種領域としては、金融、商社、SIer、通信、製造業、広告代理店などです。

私がリーダーを務めるAccount Executive Unitは、SPEEDA Japanの中でも、日本を代表する大手企業を担当するStrategic Partner Team(以下「SPT」)に所属しているユニットです。SPTは企業活動の上流工程から下流工程まで、徹底的に顧客理解を深めることで、新たな価値をお客様に提供し続け、かつ顧客とベストプラクティスを共創する組織です。

各業界における、あるべき戦略モデルや、横展開できる営業モデルを創出することに重きを置いているため、各業界のリーディングカンパニーの皆さまとのやり取りが多いのが特徴です。お客様自身の変革の道筋を共につくっていくことも役割の1つ。

横展開について、現在はSPEEDAの他チームや弊社の別サービスであるMIMIRをメインの対象と考えていますが、FORCASやINITIALなど他事業への展開もあり得ると考えています。ユーザベースグループのメリットは、顧客の多種多様な部門に対応できるソリューションがあることです。

エンタープライズセールスの新たな営業手法

特定の31法人グループを担当させていただいているため、いわゆるインバウンドに基づいたマーケティング活動には限界があります。

従来のインバウンドマーケティングでは、広告流入やセミナーの実施が一般的ですが、これはお客様を特定しないマス向けの施策です。マス向けの施策は、それまで接点のないお客様との接点を持ちたい初期のフェーズでは有効と言えるでしょう。

一方、私たちは特定のお客様を担当しているため、インバウンドマーケティングによるリードの自然流入にも限界がある。特定のお客様向けの営業戦略としては不十分。そこで私たちは新たな営業手法を考えました。

以下の図に示したのが、The Modelの営業手法と、私たちが行っているエンタープライズ向けの深耕営業の手法です。

The Modelとの違い

The Modelがマーケティング(リード流入)から受注まで、徐々に絞り込んでいくのに対し、深耕営業では1つの接点から戦略的に顧客内の接点を広げ、受注活動を拡張していきます。

SPEEDAの場合、契約形態が企業単位ではなく、部門単位です。そのため、導入部門が増えれば増えるほど、新たに導入いただく余地(=部門)は少なくなってしまう──SAM/SOMの縮小が起こるわけです。

この課題を解決するには、私たちの関係構築の在り方自体を変え、市場を創出していくアグレッシブな戦略構築が必要になります。

SAM=Serviceable Available Market/TAM(Total Addressable Market/実現可能な最大の市場規模)の中で、実際に顧客としてアプローチできるターゲット層

SOM=Serviceable Obtainable Market/自社が実際に獲得できる顧客層や市場

具体的な戦略 / 戦術

エンタープライズ向け3つの変革

具体戦略① エンタープライズ向けマーケティング戦略の変革

特に新型コロナの状況下では、お客様との対面での商談やオフラインで開催されている展示会など、従来の営業活動が制限されることで、それまで構築できていた顧客接点がガラッと変化し、私たち自身も変わっていく必要性が出てきました。従来の顧客接点がなくなりつつあるからこそ、新たな顧客接点を検討・構築していく必要があったのです。

営業という職種が顧客接点を考え、戦略を構築していくというのは、ある種マーケティング的な考え方にもつながります。営業職がマーケティングの視座まで必要になってきたというのは、私自身にとっても面白い変化でした。

そこで生み出した新たなマーケティング施策が「個社内マーケティング」という取り組みです。従来までの弊社のイベントマーケティングは、いわゆるマス向けに実施していたため、不特定多数の方々に対する施策でした。しかしマーケティング戦略でもエンタープライズ向けならではのモデルを創出・適用し、個社向けに絞った形でマーケティング活動を行うことがポイントになります。その企業に特化した施策によって、「個社内のマス」に向けてマーケティングを行うといったものです。

通常セミナーと個社セミナーの違い

個社内セミナーの開催例として、私たちのお客様には社内外でデジタル・トランスフォーメーション(以下「DX」)に取り組んでいる方々が多くいらっしゃいます。

DXの実現には、

  1. 社員スキル向上
  2. 企業風土の醸成
  3. 戦略基盤・事業検討インフラの実装

が不可欠となります。

SPEEDAは戦略策定に必要な情報(企業活動/業界・投資・技術動向/最新ニュースなど)を効率的に収集できるプラットフォームなので、(3)のため採用いただくことが多く、私たちも従来までは(3)に集中した提案活動を行っていました。

一方、多くのお客様と会話する中で、そもそも、情報を元に戦略を組み上げることができる社員スキルの底上げ(1)や、企業風土自体の変革(2)として業務のあり方を変えていきたい──たとえば、ソリューションセールスを推進したいが、企業としてそもそも何が必要か整理したいといった、企業が抱える根本的な課題のご相談をいただく機会が増えてきました。

そこで、そういった課題に伴走できるよう、個社向けにカスタマイズしたセミナーの企画・展開を考えました。社員スキル向上に必要なセミナーや、企業風土醸成に必要なDX有識者によるセミナーを、個社向けにいわゆる「研修」として提供し、(1)(2)にも貢献できる座組みを構築しています。

また、これはSPEEDAのご契約有無を問わず、個社の社内全体に向けてお客様と共創・企画する形にしています。それによってお客様の社内ポータルサイトや社内報などに取り上げていただけるため、全社の意識改革を同時に実現することができます。全社変革のアセットの1つとして、私たちの取り組みをご活用いただいている形です。

今までも、各販売パートナー様に向けて製品説明などのセミナーを展開するケースや、カスタマーサクセスとして全社利用いただいているツールの使用方法を解説するレクチャー会を実施している企業もあります。しかし、あくまで製品説明が軸になっているのがこれまでの潮流だったと捉えています。

一方でSPEEDAの場合、「全員が集まる場」の創出というモデルに着目し、本質的な社内文化の醸成や課題解決に対するセミナー開催に振り切っているため、ありそうでなかったアプローチを実現できています。

これにより(1)社員スキル向上と(2)企業風土の醸成を実現しつつ、私たちとしては「ユーザベース/SPEEDAの認知」をいただくという座組みを構築できています。

併せて、従来のマーケティングはマス向けでしたが、私たちが実施している「個社内マーケティング」は営業が主体となり、個社向けのマーケティング戦略を企画・実行する点がポイントです。最前線でお客様と向き合っている組織だからこそ、お客様の本質的な課題やキーワードと接することができ、お客様視点のニーズに向き合える。この点は大きいと思います。

この施策の結果としては、通常のオンラインセミナーでは、私のチームが担当している法人グループの参加者は、1法人グループあたり平均0〜5名程度に対し、個社内向けのセミナーは開催規模にもよりますが、平均100名ほど(MAX約450名)もの方々にご参加いただいています。従来のマス向けセミナーに比べ、約20倍のご参加者様との接点を持たせていただくことができています。

私たちのチームでは、セールス自らが創造した商談数をSGL(Sales Generated Lead)という指標で計測していますが、今年の第1四半期(2022年1〜3月)では、セールス自身の企画した個社セミナーにより、約10倍ほどの商談機会をいただくことができました。

通常セミナー・個社セミナー比較表

具体戦略② 提供価値の変革

これは私たち自身の変革についてですが、「提供価値の変革」とは、SPEEDAの提案時にエキスパートリサーチサービス「SPEEDA EXPERT RESEARCH」を組み入れた点です。これはDXの実現に必要な3要素のうち、(3)戦略基盤・事業検討インフラの実装を支援するため、私たち自身の提供価値を改善したという観点です。

SPEEDAはプラットフォームという性質上、お客様が知りたい・整理したい情報を「PULL」で取得する必要がありました。基本的なSPEEDAの価値は、企業・業界・ニュース・統計・特許動向など、オープンになっている情報を体系化し、SPEEDAを通じて効率的に収集・整理・分析することです。

一方、お客様の現場に目を向けると、オープンな情報のみでは戦略の全てを描くことは難しいと考えられます。

たとえば、
【事業開発現場】
実証実験では現場の具体的なフィードバックをいただき、改善につないでPDCAを回し事業化を目指す

【営業現場】
現場経験で培った経験なども盛り込んだ形で初回提案を行い、フィードバックをいただきつつ、提案を更にブラッシュアップしていく

というように、データやデータに基づいた仮説だけでなく、「現場の肌感」や「経験」から発掘される情報を掛け合わせることで、実際の業務は成り立っているからです。

この「お客様の業務フロー」と、SPEEDAで得ることができる「必要な情報」を整理したモデルが、以下の二輪のモデルです。

ファクトと経験値の二輪モデル

私たちが考えるソリューション開発/提案モデルでは、この両輪の活動が必要となります。

しかしお客様の置かれている環境に目を向けると、オフィス勤務からテレワーク勤務が主流となる環境変化によって、お客様やさらにその先にいるお客様の顧客の働き方が大きく変わってきている実情があります。

提案シナリオを構築するにも、事業開発をするにも、現場に出向き、現場の課題を確認することは重要なプロセスです。しかしコロナ下の今、それも難しくなりつつあります。提案活動や事業開発において、できる限りデータやファクトに基づいた仮説を構築し、毎回の提案精度を高めていく必要がありますが、それもできにくくなっているのです。

この状況に対して、私たちはSPEEDAという「プラットフォーム(=ファクト)」と、オープンにされていないデータや知見にアクセス可能なエキスパートリサーチという「知見情報」を一体としてソリューション化し、SPEEDA上で完結する座組みを構築。一気通貫でお客様の業務を支援できるトータルソリューションを実現しました。

具体戦略③ エンタープライズ向け戦略/戦術を担う体制の構築

お客様の変革に寄与できる価値を考え抜き、お客様と一緒に創出していくことを重視しています。

  1. お客様のニーズに応える
  2. 私たち自身が変わり、提供価値を変えて、市場の期待に応え続ける
  3. お客様・弊社間の双方のWin-Winを描く


最先端の課題は常に現場にあると考えていますし、お客様と一緒に課題を整理し、それに対する解決策を提案し、解決していく──この地道な一歩一歩が、世界を変えていくという道筋になるはずです。

今まではSalesとCSが分離した組織でしたが、ソリューションの導入から活用サポートまで支援できるよう、SalesとCSを兼任する組織体制に順次移行しています。一般的にSalesとCSは分離している組織が多いと思いますが、私たちはその逆をいくチャレンジをしています。これは顧客とのより深いお付き合いが必要となる、エンタープライズの組織構造の特性を加味したチャレンジです。

Salesの場面では意思決定層の皆さまとお話することが多く、経営課題に接する機会も多くあります。一方、CSは実際にSPEEDAを活用される現場のご担当者の皆さまとの会話が多いため、現場課題と接する機会が多い。SalesとCSを兼任することで、経営課題から現場の課題まで一気通貫に接することができるからこそ、お客様の業務内容を学ばせていただきつつ、ご提案もできる体制になります。

企業変革の実現を支援するには、経営課題と現場課題を第三者としての立ち位置から明確化しつつ、解決策を提示することが求められると考えているので、今後もこの両面からのアプローチを大切にしていきます。

実際の効果 / 今後の展開

顧客の反応・声

先行して4〜5社で前述の「個社セミナー」の施策を展開しました。大変ありがたいことに多くの反響をいただき、そのうち2社からは年間を通したプログラム設計のご相談をいただき、稼働しはじめています。また、組織課題のディスカッションを通す事で、個社セミナーだけでなく、全社変革をどのように行っていくのか? という踏み込んだ議論まで参加させていただくケースも増えてきました。今後も、真の企業変革パートナーとなれるよう邁進できればと思います。

今後の課題と展望

組織構造を含め2021年から一気に戦略を変化させているため、人材リソースにも限りがあり、4〜5社先行での取り組みに留まっていますが、1to1の密なコミュニケーションを取りたいお客様はまだまだ数多くいらっしゃいます。まずは私たちのチームが担当している31法人グループの全てに、このソリューションを拡げていきます。

私たち自身が変革し続けることで、本質的な経営課題や組織課題に対して提供するソリューションの幅を広げることはもちろん、先行で提供しているお客様からのフィードバックをはじめとして、お客様との共創を通じて世界を変えていきたいと考えています。

SPT木部
執筆・編集・撮影:筒井 智子
Uzabase Connect