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エンジニアに管理職以外の選択肢を──「Fellow」が語るエンジニアの多様なキャリアパス

エンジニアに管理職以外の選択肢を──「Fellow」が語るエンジニアの多様なキャリアパス

2020年10月、ユーザベースが提供するB2B SaaS事業(SPEEDA、INITIAL、FORCAS)では、技術的戦略及び開発力強化のため、エンジニア組織内に「Fellow(フェロー)」という新たな役職をつくりました。エンジニアに多様なキャリアパス──管理職でもプレイヤーでもない第3の役職として生まれたFellow制度について、今回就任した矢野勉と小玉祐輝に話を聞きました。

矢野 勉

矢野 勉TSUTOMU YANO ユーザベース B2B SaaS事業 Fellow

自営業の開発者として金融・保険・ゲーム配信などの多様なシステム開発に携わり、同時にオープンソースのプログラミング活動へ...

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小玉 祐輝

小玉 祐輝YUKI KODAMA ユーザベース B2B SaaS事業 Fellow / INITIAL CTO(Chief Technology Officer)

芝浦工業大学大学院理工学研究科卒。在学中からフリーランスとして活動し、2009年にオープンソースソフトウェアTorto...

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目次

管理職以外にも、エンジニアには多様なキャリアパスがある

Fellowに打診されたときの率直な想いを教えてください。

矢野 勉(以下「矢野」):
エンジニアにはさまざまなキャリアが準備されていると思います。私のように、エンジニアとして長くプログラミングを続ける道があれば、管理職に進む道もある。ただ「管理職にならないと、エンジニアとしてのキャリアは上がらない」という雰囲気が世の中にはまだあるのも事実です。

ユーザベースとして対外的にも対内的にも、エンジニアとしてキャリアが上がっていくと、最終的に管理職だけではなく、別の役職もあると社会に提示することが非常に重要だと考えています。そこから生まれたのが今回の「Fellow制度」です。

プレイヤーとして第一線で走り続けながら、役員でもメンバーでもない新しい役職を得る。若手メンバーに新しいキャリアパスを提示できる非常に良い機会だと思いました。

エンジニアとして役員などの管理職に転身することに、矢野さん自身はあまり興味がなかったんですか?

矢野:
役員に興味がないのではなく、プログラミングを続けていきたい想いが強かったんです。役員になると、実務とは別に管理職としての業務が発生し、どうしてもそこに時間が費やされることになります。私はエンジニア、プログラマーとして実力をつけていきたい、その道でキャリアを重ねていきたいと常に考えているので、それに該当しない役割については、基本的にお断りしてきました。

小玉 祐輝(以下「小玉」):
私は矢野さんとは逆のパターンで、Fellow就任前から執行役員としてINITIALの技術組織を見ていました。役員からFellowになったパターンですね。

プレイヤーだけでなく、役員でもFellowに就任するケースがあるということですね。

小玉:
はい。私は2018年に「INITIALをより大きくしたい」との想いで、自ら希望して管理職に就きました。一方で、やはり技術組織全体を見るようになった分、技術面でのスキルが鈍くなっていると感じた時期もあり、モヤモヤするものを抱えていて……。

2020年10月からINITIALの技術組織が変わり、メンバーが増えました。層が厚くなってきたからこそ、私自身もう一度技術的な部分に力を入れていきたい──そう思っていた矢先の打診だったので、私にとってもチームにとっても、非常に良い話だと思いました。今後はFellowとして、技術面でもチームをサポートできたらと思っています。

ユーザベースには、もともと「専門役員」という役職がありますよね。今回のFellowは、専門役員とどう違うんですか?

小玉:
そこに近いような形ではありますね。ただ「専門役員」は全業種に用意された役職の一方、Fellowは技術組織、特にエンジニアに特化した役職なんです。

エンジニアが「専門役員」と聞いて、その道に進みたいと思うか?と、チーム内で話したとき、「うーん、何かピンとこないよね」となりまして……(笑)。彼らが進みたいと思うようなキャリアパスを準備することに意味がある。だったら、エンジニアらしい役職名を準備するのがいいよねとなって、専門役員とは別の「Fellow」が誕生したんです。

「Fellow」というタイトルに決まるまでに、他にどんな候補があったんですか?

矢野:
「シニア・エンジニア」とか「プリンシパル・エンジニア」とか、いろいろな案が上がりました。「Fellow」も「その名前じゃないほうがいいんじゃない?」など、いろいろ意見はありましたね。

小玉:
「Fellow」は、一般的に研究員っぽい意味合いなんですよね。要は現場にはいない。しかも外部のアドバイザー的な立場の方につく役職であって、あまり社内にはいないイメージ。そんなこともあり、誤解を与えるのではないかという議論がありました。

「Fellow」は、エンジニアの中で定着している役職や意味合いではまだないので、それなら自分たちや会社として、その意味を定義していけばいいと考えて、最終的に「Fellow」という名前に決まったんです。

Fellowに就任して何か変化はありましたか?

矢野:
業務的な変化は正直言ってありません。もともとCTO林さんからFellowに打診された際「Fellowに就任したから、新たにこういう仕事をしてほしいという話ではない」とはっきり言われているんです。「現段階でそれに値すると思っているから、担ってほしいだけであって、就任して何か仕事が増えるとか、そういうことをやりたいわけではない」と聞いています。

小玉:
私も矢野さんと同じく、基本的に業務に変化はありません。ただ今後は、OSS(オープンソースソフトウェア)活動に深く貢献したり、技術記事を書いたりして、社内外への情報発信をさらに積極的に行っていきたいと思っています。

会社員と会社経営。二足の草鞋は「技術の輸出」

「エンジニアの多様なキャリアパス」という観点では、矢野さんは現在京都で自身の会社の経営しながら、ユーザベースで働いていますよね。

矢野:
6年前にコンピューターシステムを構築する会社を設立しました。そのタイミングで京都へ拠点を移しました。それまで長く業務委託として、ユーザベースに関わっていたんですが、京都へ引っ越すタイミングで上司に「東京を離れるから辞めます」と伝えたんです。そうしたら「京都から手伝ってくれたらいいじゃない」って。会社設立のときもそうでしたね。「自身の会社を立ち上げたいので、辞めさせてください」って言ったら、「両方やればいいじゃない」って(笑)。

会社員と会社経営、相乗効果はありますか?

矢野:
私にはプログラマーとして、さまざまな技術的なアイデアがあり、「こんな風につくってみたい」と常に考えています。でも一般的な企業はプログラムを安定してつくっていきたいので、「まだ考え抜いていないアイデアを、とりあえずやってみたい」だけではつくれないことがほとんど。

自分の会社なら、とりあえず実験して組み上げていくことができます。その中で「こういうやり方はやっぱりうまくいかないな」とか、「でもこっちはうまくいくな」とかプログラミング的に学ぶことがたくさんあるんです。こうして身に付けてきたものをユーザベース内で「それは前にやったけど、こうしたほうがうまくいくよ」と還元していく。

もちろん社内でも実験できるチャンスはあります。でも中にはかなり無茶な実験もあるので、自らリスクを負う自分の会社でやるほうが安心なんですよ。自社で学んだことを、ユーザベースの開発に活かす。これを私は「技術の輸出」と呼んでいます。

プレイヤーとして走り続けたいとのことでしたが、結果的に「経営」の仕事が増えてしまうのでは?

矢野:
自分の会社でも、すべて私がプログラムを組んでいます。経営で忙しくてプログラムに手が回らないような状況には陥らないようにしていますね。

自分で法人をもつことで、「財務」に目が向くようにはなりました。技術のみならず、財務についての知識があると、優先順位がつけやすくなるんです。たとえば、自分の給料がそこから出ているサービスがあって、技術者としてはここまできっちりやりたいけれど、それだと半年ぐらいかかってしまう。

そんなときに財務知識があると、「技術的な目標も当然達成するけれど、やり方をちょっと変えてみよう」とか「いったんリリースしてから、段階的にやろう」など、何に妥協して何を優先すべきなのか自然と考えられるようになってきます。その感覚を身につけられたのは、技術者として非常に良かったと思っています。

小玉さんはユーザベースに入社する前に、スタートアップを立ち上げた経験がありますよね。

小玉:
私は学生時代にフリーランスのエンジニアとして活動していて、それでお金を稼ぐことができていたので、就職活動をしなかったんですよ。卒業後もフリーランスとして、さまざまな企業のWEB開発などのプログラミングに携わっていました。その流れで、友人3名とスタートアップを立ち上げた経験があります。

でも全然思い通りにいかなかったんです。スタートアップの多くは、アクセラレーションプログラムに参加して、シード(資金)を得て事業を始めます。200万くらいだったので、何とか自分たちで捻出することもできたんですが、当時は日本でスタートアップを始めるには、そのエコシステムに入らないと何もできない。でも最後の最後でそのシードを獲得できず、空中分解気味になってしまったんですよ……。

やりたかったことはほとんどできなかったんですけど、ちょうどそのタイミングで大学時代の大先輩から連絡があり、INITIALの前身の会社に入って今に至ります。

長くフリーランスで働いていて、入社当初に何かギャップはありましたか?

小玉:
逆にユーザベースに入って「チームで働く楽しさ」を実感していますね。ユーザベースにジョインする前は2~3人のチームで動いていました。チームといっても個人プレイが多く、技術的な話をしてもあまり広がりがないんですよ。それに物足りなさや危機感もあって、積極的に勉強会に参加して発表をするなどしていました。

今は当時ほど外部に出ていかなくても、社内に面白い人がいっぱいいる。その人たちに話を聞きにいけばいいので、そういった意味でのポジティブなギャップはありますね。

OSS活動を通じて、みんながハッピーになる

これまでさまざまなキャリアを経ている2人の、エンジニアとしてのキャリアの原点には共通点があると聞きました。

矢野:
それが「オープンソースソフトウェア(以下OSS)活動」ですね。私が学生の時にインターネットが普及し始め、世界中の人たちがそこに集まってプログラムを組んでいました。それが文字として目に見えて、とにかくワクワクしたんです。面白そうだと思ったのが1番の大きなきっかけで、実際にやってみたら本当に面白かった。

今のような形のプログラマのあり方が職業として成立しはじめたのも、ちょうどその頃だと思っています。インターネットを趣味で楽しんでいた人たちが原点となり、そこから広がって今のエンジニアやプログラマーが誕生していったイメージが私の中であります。

小玉:
私は高校生のときに、使っていたツールを日本語化したのが最初のきっかけです。そのソフトウェアはオープンソースではなく、各言語の翻訳ファイルが配られていて、それを読み込ませることでメニューが日本語で表示される仕組みでした。

日本で比較的よく使われているツールだったので、日本語になっていないことで使いづらさを感じるユーザーが確実にいると思い、自ら編集して作者に送りつけたのが始まりです。

そのあと大学時代にオープンソースソフトウェアの世界に出会います。研究室で使おうとした開発者向けツールを、他のメンバーが使いやすいように日本語化をしたのがきっかけでした。ただ日本語化に限りませんが、本格的な翻訳にはソフトウェア自体の設計がキモとなるので、徐々に翻訳者としての貢献からソフトウェアのコア部分の開発に移っていきました。

実はそのソフトウェアがユーザベースで使われていたので、CTOの林さんにびっくりされたんですよ。

矢野:
少し前までは、ユーザベースにもOSSを遠いと感じているエンジニアが意外と多かったですね。「不具合があったら開発者に連絡をしたり、改善案を提案したりしていいんだよ」と伝えると、「そんな風に関わっていいんだ!」と、びっくりしていたのを覚えています。私にとっては普通のことですが、OSS活動をしていない人にとってはイレギュラーな動きだったようです。

多くの人は、自分たちはあくまで「使う側」であって、「つくる側」ではないと思っているところがあって。でも実際には、自分たちと同じような人たちがバグを報告して、いわばその集合体によって、より良いOSSにアップデートされていくので、「自分は使う側」という考えは捨ててほしいなと思うんです。

OSS活動が業務につながることはありますか?

小玉:
プロジェクトを推進する中で壁にぶつかって、それをクリアする仕組みがなければ必要なものを開発し、それをOSSとして外部公開する。これは自然とやっていますね。

結局それが1番の近道なんですよ。自分で切り開き、つくって、外部公開してしまえば、それをみんなが使うことができる。結果的に、会社としては技術的な面で先端を走っていることになるわけです。プログラムを理想的な形で組めるし、好きなことなので自分もちゃんとそこにコミットできるし、エコシステムにも貢献できて、結果みんながハッピーなんですよね。

矢野:
「仕事上で必要になったからつくりました」ってものすごく強いんです。たぶんどこかの職場で必要になったものって、他の職場も必要なんですよ。困っている部分はみんな同じなので。

困っていることの解決策として何かをつくり、それをオープンソースとして公開してしまえば、その分野ではトップランナーです。仕事の中で必要になったものをライブラリとしてつくり、せっかくつくったから出しておこうかと気軽にアップロードしていく。そんな感じでいいと思っているんですよね。

エンジニアには、管理職になる道も、プレイヤーで居続ける道も、まったく違う道も、さまざまなキャリアパスがあります。今回のFellow制度をきっかけに、若手エンジニアがOSS活動も含め、さまざまなことに気軽にチャレンジする土壌ができたらいいなと思います。

編集:筒井 智子
Uzabase Connect