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【新野良介×宇田川元一】「いつも」じゃない。「渦中」に必ず助け合うのが僕たちだった

【新野良介×宇田川元一】「いつも」じゃない。「渦中」に必ず助け合うのが僕たちだった

「組織と文化」をテーマに、経営学者の宇田川元一さんとユーザベースの共同創業者である新野良介が対談しました。

新野は2008年に、共同創業者の梅田・稲垣とユーザベースを設立。ミッション・バリューに基づいた経営スタイルや、「The 7 Values」を作った立役者のひと人として知られます。一方、NewsPicksパブリッシングで『他者と働く』を上梓し、経営戦略論・組織論が専門である宇田川さん。企業組織が成長をする上で、大切な文化とはなんなのでしょうか。

前半は、「The 7 Values」の誕生秘話から始まり、「文化なんて作るものじゃない」「自由は苦しい」「愛の意味」など、白熱した議論をお届けします。

 新野 良介

新野 良介RYOSUKE NIINOUzabase Co-Founder

ユーザベース共同創業者。大学卒業後、三井物産生活産業セグメントを経て、UBS証券投資銀行本部にて消費財・リテールセクタ...

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宇田川 元一

宇田川 元一MOTOKAZU UDAGAWA組織論・経営戦略論研究者

埼玉大学経済経営系大学院准教授。1977年東京都生まれ。 2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年...

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目次

「当事者であれ」というメッセージ

宇田川さんから見て、NewsPicksの親会社であるユーザベースってどんな会社に見えますか。

宇田川 元一氏(以下「宇田川」):
成長を続けるベンチャー企業であるユーザベースには、経営学者として率直に興味がありますね。

一方で最初、『他者と働く』の担当編集になる中島さんと初めてお会いした時には、「NewsPicksって分断を煽ってませんか」なんて率直にお伝えしたんですよね。

「さよなら、おっさん」「ニューエリートの創り方」とか、アップデートできる側とできない側に分けるようなところとか、「これさえやれば生き延びられる」みたいな即物的なノウハウコンテンツも多かったですし、僕の興味や専門とは距離を感じていたので。まさか自分が本を出すことになるとは思いませんでした。

でも、中の人たちと密に連携を取っていくと、むしろ意識高い系と呼ばれるたぐいの人は全然いなくて、組織自体は違う文化なんだなと感じました。

宇田川元一氏

新野:
そうですね。意識が高いというより、いい人が多い組織だなとは思いますね。あと、いろいろな変な人がいる(笑)。

新野さんは、『他者と働く』いかがでしたか。いま5刷りで3万部と好調です。

新野 良介(以下「新野」):
しっかり読みました。今この本が人気が出るということは、「わかりあえなさ」への課題意識を持っているビジネスパーソンは多いんですね。

宇田川さんにはユーザベースのカルチャーブック「31の約束」をお送りしましたけど、いかがでしたか。

宇田川:
読みました。僕がこれ(31の約束)を熟読して受け取ったのは、一貫して「当事者であれ」というメッセージですね。

つまり、「自分で自分なりに仕事の主人公になる」と読み取りました。

新野:
まさにそうですね。自分の運命を自分でコントロールする、つまり「自立」についてのメッセージでもあります。

誰かの真似をして、無理をするのはやめた

宇田川:
The 7 Values」や、「31の約束」はどうやって作ったんですか?

新野:
「The 7 Values」は「自分たちがなりたい姿」ではなくて、当時まだ30人ぐらいの社員でしたが、「当時のユーザベースが既に持っていたチームとしての個性」を言語化するかたちで作っていきました。

宇田川:
「こうあるべき」を押しつけるのではなく、「僕らはこうある」を言葉にしたんですね。プロフェッショナルとしての「べき論」をルールに定めたわけではなく。

新野:
そうなんです。確かに当初は、「プロフェッショナルであれ」とか、「誠実であれ」とか、立派なことを入れたいとも考えたんですよね。

たとえば、ユニクロの柳井さんの真似をして「毎日1%でも改善しよう」と掲げたりしてみたんですが、「自分たちは全然できていない、だからウソになっちゃうし、ウソは絶対にやだな」と気づいてしまって、やめました(笑)。誰かの真似をして、できないことを無理やり入れるのはやめたんです。

極端な話、みんなで仲良く飲んだ次の日、全然仕事できないのに、プロフェッショナリズムという誰が決めたかよくわからない言葉で無理やり会社に来たくないよね、とか。

ユーザベース創業者 新野良介

宇田川:
なるほど(笑)。

新野:
共同創業者の梅田、稲垣(梅田 優祐、稲垣 裕介)と話しながら、自分たちらしいエピソードを思い出していったんです。

ユーザベースっていいやつ多いよね、っていうことを、「俺が1人でプログラミングしている時に、あいつ休みなのに来てくれてさ」「でも、いつも休みを返上して来てくれる? いや、そこまでではないけど、大変な時に助けようとしてくれるんだ」「じゃあ、言い換えるなら“渦中”かな」「よし、渦中の友を助ける」みたいに実体験を掘り起こして言ったという感じです。

宇田川:
1つひとつの言葉は、そうした具体的な実体験に基づいて考え出されたものだったのですね。経営者の理想を現実の体験に即していないのにもかかわらず、並べ立てることも可能だと思うのです。

でも、そうすると、この理想と現実のギャップをどうやって埋められるか、ということを考えてしまう。言葉には追いつけませんからね。そうしてどこかで嘘や乖離が生まれて、何か白々しいことになる。

そうではなくて、現実に自分たちがやっていることを棚卸しする中で、大事なものが何かを考え直す作業として、バリューが生まれたというのは興味深いことだと思います。

というのも、実体験を言語に託す、というのは、実はある意味で結構大変なことをやっていると思うんです。プライベートな経験や実感を、社会的な道具である言語にするわけですから、どうしてもズレが生じる。このズレがあることはある意味で承知の上でやっているとは思うのですが、あえてこれをやった意味はなんだったんでしょうか。

新野:
「完璧な組織じゃないけど、ここいいよね」という特徴を、できるだけ正確に、外からも魅力に思ってもらえるように言葉にしようとしたのが始まりでした。

自分たちの中にある要素で、他人から尊敬される部分があれば、自分たちを愛せる要素になると思ったんです。

宇田川:
では、メンバーが変わり組織の性格が変わればこのルールも変わる、ということもあり得るんですよね。

新野:
もちろん、ありえます。組織はそもそも個人の生き方を叶えるための手段のはずだから、構成員の夢や目標が変われば、もちろん変わるべきだと思うんです。
「僕は今のが好きだから、変えないでいようよ」っていうかもしれないけど(笑)。

対談風景

新野:
ルールが変わる可能性も含めて、「The 7 Values」がみんなの中で生きた言葉として使われたり、重要な意思決定の場面で、「それはThe 7 Valuesからすると、どちらが正しいだろうか」なんて対話がされている状態が健全だと思います。

お互いが「The 7 Values」を自分の言葉として受け止めて、他者と対話する

新野:
このミッションとかバリューって明文化された、書き言葉であるということが重要なんです。つまり、「自由主義で行こう」と書かれている。この書き言葉の表面だけ見て単純に捉えるのはあまり意味がなくて、それではただの規則になってしまう。そうではなく、「好き勝手するのが、“自由”ってことなんですか?」とか、「自由主義って放任主義なんですか?」といった感じで、共通言語をもとに当事者同士が対話すること自体が大事だと思うんです。

そもそも自分が見ている像は完璧じゃない、という前提に立つ。では、君からはどう見えるんだ、と。

たとえば、パートナーに向かって「愛してる」と言ったら、「急に何よ、全然私のことなんて大事にしてくれてないのに、これのなにが愛なのよ」と言われる。でも「僕のこの気持ちは、言葉にするなら愛しかない」みたいな(笑)。

つまり、人によって、「愛」の中身が違うんですよ。その違いがちゃんと話されることが宇田川さんの本でもあった「対話」だと思うんですよね。

宇田川:
まさに、お互いの違いを確かめ合うことによって、「わかりあえなさ」から始めるという対話ですね。つまり、他者と自分は違う存在であると知ることですね。「自分と他人が一致していない」ことについて一致しているというか。

逆説的かもしれませんが、実はズレ自体を認められれば、他者と向き合えるということじゃないかと思っています。

だから、先の例で言うならば、「自由主義」って「好き勝手にできる」だと思っていたら、そうではないと考える人もいる。「あれ、違うんだな」という溝を知れば、「自由主義」の意味が新たに発見される。「愛」の話もそうですね。

つまり、今の自分や自分たちとは違う「当たり前」を持った人と出会うことによってナラティヴが相対化された時に、我々は新しい意味を発見することができるということではないでしょうか。

対談風景

自分で選択し、信じることで、組織と個人の目的が一致する

入社してきたばかりの人は、一緒に仕事をしていく中で、どうやってミッションやルールに対して、当事者意識を身に着けていけばよいと思いますか。

新野:
なにかを本気で大事にする、つまり、信じるということは感染するから、ユーザベースの「自由主義」というひとつの価値を信じて先に入った人たちが上手くいっていて、楽しそうであれば、素直に「いいかもな」と思えるんじゃないでしょうか。もちろん共感できない人もいるけど、それがわかったら他の組織を試すこともできますよね。組織の出入りも、個人を軸に自由にやって欲しい。

最終的には、1人ひとりの意思決定がすべてです。「僕はユーザベースのミッションや価値観(The 7 Values)に共感している。だからユーザベースと仕事しよう」という意思決定が軸にないと、組織のルールが自分を縛るようになって「やらされ仕事」になっちゃいますよね、

ユーザベースは「経済情報で、世界を変える」というミッションと「The 7 Values」を明示して、ストーリーに共感するステークホルダーに参画を呼びかけています。

「世界を変える」わけですから、大事(おおごと)です。世界を変えようとして、楽できるはずありませんから(笑)。

だから、ミッションやバリューへの共感からはじまり、仕事を通じて自分のためのストーリーを紡ぎ出さなければ、どこかでその苦労が、自分のためではない「やらされ仕事」になってしまうはずです。

対談風景

新野:
ユーザベースのカルチャーやミッションを選んで入社したのはあなた自身。自分で、世界を変えるために苦労する船に乗ろうと決めたはずですから。「自由主義」であれ「The 7 Values」であれ、組織の最小の約束をして、自分のストーリーを大事にするメンバーがたくさんいれば、人数が増えようとユーザベースらしさは失われないのではないかと思います。

自由は苦しい。でも、苦しいからこそ自由

宇田川:
僕のゼミって、方針をあまり決めないんです。学生からはいつも、「一体どうしたらいいんですか」「何を研究したらいいんですか」と聞かれます。決定を自分に任せられると、ものすごく考えなきゃいけないから自由ってけっこう苦しいんですよね。

新野:
そうなんです。自由というのは、ここまでは大丈夫かな、ここからは危ないかなとか自分で考えて、自分で試さなきゃいけない。その試行錯誤のなかで、自分自身についても思い知らされる。学生さんも、宇田川先生のゼミで自由に慣れたら、たくましくなりそうですね。

宇田川:
本当にその通りで、「あの先生、何も決めないぞ」とわかると、学生が自走し始めるんですよね。2年生の最初の頃と1年を経ると全然変わっていく人が何人も出てきます。もちろん、タイミングも人それぞれ違ったりします。人間ってたくましいと言うか、とてもおもしろい動物で、可変性があるというか、状況によって機能する方向が変わるんだなと感じました。

なので、状況をどう用意するかが凄く大事になります。企業で言えば、「うちはこういう文化でいくぞ」なんて言ってワンマン経営者がトップダウンで企業を引っ張れるのか。

結局のところ、メンバー1人ひとりの日々の行いや日常的な実践のなかで、お互いにフィードバックし合いながら、ある一定の秩序を持ってシステムが生まれていくと思うんです。

最初はカオスでもだんだんと秩序が生まれてくる。この自発的な組織の起こりを「自己組織化」といいます。でも自発的に生まれた自由な組織にもだいたい枠組みができてくると、それに合わせた人たちが入り、だんだんノーム(既成概念)が生まれてくる。それを打ち破り続けるのが、「進化する組織」なんだと思います。

対談風景

既成概念を打ち破るには、「それぞれがやる」しかない

宇田川:
組織のノームをどうやって打ち破り続けるのか。そんな風に自律的に進化する組織ってあり得るんだろうかと最近ずっと悩んでいました。今日のお話にも通じますが、僕なりの結論は、色々な道はある、けれど、それぞれ自分たちらしくやるしかない、ということです。

新野:
その通りだと思います。組織として拡大し進化するためには、1人ひとりが変わらざるを得ない。

それぞれがまるで個人事業主のように自立して、1人ひとりが変わるのを善とするためにこそ、最小の約束として「この共同体ではこれを大事にしよう」と緩やかな指針(バリュー)を立ててるんです。

1人ひとりが自己決定し自己変革する環境として組織があり、ひいてはユーザベースがその選択肢のひとつになれていればいいな、と思ってます。

取材・編集:中島 洋一 / 構成:安西 ちまり / 撮影:吉田 和生
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