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当事者と景色の交換をしながらフェアネスを追及——海外版 産休・育休ハンドブック誕生の背景

当事者と景色の交換をしながらフェアネスを追及——海外版 産休・育休ハンドブック誕生の背景

さまざまなライフイベントがある中で、いかに自分らしくビジネスを楽しむか──「経済情報の力で、 誰もがビジネスを楽しめる 世界をつくる」というユーザベースのパーパスの「誰もが」には、もちろんユーザベースのメンバーも含まれます。メンバーにはライフイベントに必要以上に左右されず、長く働き続けてほしい。そんな想いとともに2021年に生まれたのが、「産休・育休ハンドブック」です。

この産休・育休ハンドブックの海外版の作成に携わったのが、SPEEDA SEAシンガポールオフィス所属の伊野紗紀と、People Experience所属の島内千鶴。海外版産休・育休ハンドブックが生まれた背景や、制度の公平性を担保するための取り組みについて聞きました。

目次

課題は「フェアネスとエクイティの担保」

海外版の産休・育休ハンドブックが生まれた背景について聞かせてください。

伊野 紗紀(以下「伊野」):
産休・育休ハンドブックの日本版が作られた当初から、海外版もつくろうという話がありました。

海外にはシンガポールだけでなく、スリランカやチャイナ、アメリカなど大きな拠点がいくつかあります。今回はシンガポールと中国、スリランカと3拠点分を同時につくるプロジェクトとしてスタートしました。

私は国内版の作成にプロジェクトメンバーとして関わったあと、産休・育休を経て復帰したタイミングだったので、自分の経験を形にできそうだと思い、シンガポール版の作成に携わりました。

島内 千鶴(以下「島内」):
伊野さんがシンガポール版をつくり始めたタイミングで、私も中国版の作成にジョインしました。

私自身は産休・育休の経験がないので、ハンドブックを利用する人はどんな情報がほしいのか、日本版ハンドブックからいろいろ学びました。日本版をアップデートするような形でつくったのが中国版です。

英語版の全社ミーティングで周知した際の資料

英語版の全社ミーティングで周知した際の資料

制度を設けるにあたっては、国によって法律が異なるなど難しさがあったかと思います。そんな中、ユーザベースが大切にしている「フェアネス」をどう追及したのでしょうか。

伊野:
制度のフェアネス、エクイティについて議論する場が何度か設けられました。

「フェアネスを〜」と言葉でいうのは簡単です。それをどういう思考・プロセスで、どう検討すればフェアであると言えるのか。さらに、エクイティに個々の状況にあわせて施策をカスタマイズする中で、フェアネスをどう担保するか。

そうした議論や思考プロセスからは非常に学びがありました。

たとえばシンガポールでは、子どもがシンガポール国籍かそうでないかで産休・育休の期間が異なります。そこは子どもの国籍にかかわらず、シンガポール国籍の場合と同じ期間で産休・育休を付与することにしました。シンガポールの制度の中でのフェアネスを図ったんです。

日本の制度ではなく、シンガポールの制度の中でフェアネスを図ったのはなぜですか?

島内:
国によって法律や制度が異なるのは、その国の方針です。そこは私たちの力では変えられません。一方で、その国の中でのフェアネスであれば変えることができます。

シンガポールの場合は、自国民に対して優遇している部分をユーザベースとして是正することで、フェアネスを図りました。

伊野:
ただ、スリランカには国の制度として男性の育休がないので、ここはユーザベースならではのベネフィットとして、男性社員も産休・育休を取得できるようにしました。

シンガポールは、国籍によって休暇日数などが変わります

シンガポールは、国籍によって休暇日数などが変わります

フェアネスを担保するために、現場のリクエストに合わせすぎるのもよくないという見方もあります。その辺りのバランスはどう考えていますか?

伊野:
個別の事情にカスタマイズすればするほど、フェアネスが保てなくなるのではないかという視点ですね。ハンドブックを作成するうえでは、たしかにどうしても現場の要望に引きずられがちでした。

そこは島内さんが、「フェアネスはどう担保できるのか」「何をどう検討したらそれはフェアであるると言えるのか」と言ってくれて、学びになりましたね。

大切なのはフェアネスの観点から行き過ぎた補助になってしまっているのではないか、本当にフェアかどうかを、当事者本人がいる前で議論することだと思っています。

一方的に「これはフェアじゃないので減らします」と伝えると、困っている側からしたら助けてもらえないような気持ちになりかねないですよね。ですから、本人にフェアネスの観点を知ってもらって、景色の交換をすることが大切なんです。

島内:
もちろん制度を利用する人にとっては、たとえばベビーシッター制度が使い放題ならそのほうがありがたいわけです。ただ、そうするとほかのメンバーに対してフェアではなくなってしまいます。

自由な働き方を阻害しないことを前提に、ベビーシッターの補助が必要なクリティカルな場面はどこなのか。その部分をカバーするような制度にして、制度の利用者とそれ以外のフェアネスを担保したらどうかと提案しました。

伊野:
当事者とのディスカッションには、聞くべき事項を決めて臨みました。

いま直面している課題は何か。その中でどうしてもシッターがいなければ回らない部分はどこか。それはどれぐらいの頻度で発生するか。当事者から具体的なシーンを話してもらえると納得感を得られますよね。

パートナーも働いている中で、交代で子どものお世話をするなど工夫し合ったり、ご両親がシンガポールにいるスタッフはご両親の力も借りながら、それでもシッターが必要な部分があったり。

ディスカッションではシッターが必要な状況を明確に共有してもらえて、議論がスムーズに進みました。

「つくって終わり」ではなくブラッシュアップし続ける

海外版育休・産休ハンドブックの作成にあたって、現在取り組んでいる課題はありますか?

伊野:
シンガポールで採用された日本人の女性で、2人お子さんがいて、上の子が小学校に上がるタイミングで時短を希望された方がいました。ただ、シンガポールのビザの関係で時短制度を適用することができないという壁に直面しました。

島内:
シンガポールでは政府に提出した給与の金額を、必ず支給しなければならないというルールがあるんです。時短で稼働を50%に減らしたからといって、給与を50%減らすというわけにはいかなくて……。

伊野:
そうなんです。給与を減らすわけにはいかないので、時短にはできない。なので、お子さんがいるメンバーには、ベビーシッター制度を付与することになりました。どのシッター会社に依頼するかのフレキシビリティは最大限確保している点がポイントです。

たとえば、日本語が話せるシッターさんがよければ日系の会社に依頼をしますし、前出のカスタマーサクセスチームの男性はムスリムなので、生活スタイルや文化的な要素も考えながら、自分の家族に合うシッターさんを探していました。

その後、とても良いシッターさんに巡り合えたとのことで、定期的に補助制度を活用してくれるようになりました。本人によると、毎度ランダムに不特定のシッターさんが派遣されてくる会社ではなく、固定で個別契約ができるシッターさんを見つけることができたそうです。

そういった契約形態でも、正式なライセンスと領収書があれば、補助の対象として認めてくれるユーザベースの柔軟性に感謝していると話してくれました。一般的に日本では、会社と契約しているシッター会社を使うことになりがちですが、多民族国家であるシンガポールでは、より幅広いニーズがあり、より柔軟性を持たせています。

実際に育休・産休を活用する人たちと二人三脚で制度をつくっているような感覚ですね。

島内:
まさにそうですね。国の制度上、自由な働き方を実現するのは難しいケースもあります。現時点で明確な課題があるというより、都度出てくる課題に向き合い続けていこうと考えています。

大切なのは、ディスカッションしてつくった制度を実際に使ってみてどうだったか、お互いの景色を交換する、フィードバックすることだと思っています。そこにフェアネスやエクイティの観点を取り入れながら、よりよい施策にブラッシュアップしていく。

妊娠や出産に限らず、人生にはさまざまなライフイベントがありますよね。ただ制度をつくって終わりではなく、都度話し合える環境をつくって、お互いの状況を認識したうえで、よりよいものをつくっていきたいですね。

スリランカ版のインタビューページ

スリランカ版のインタビューページ

今後はどういった展開を予定していますか?

島内:
現在、産休・育休ハンドブックはアメリカを除く全拠点で提供しています。ベビーシッター制度はシンガポールのみで、順次他の拠点にも展開していくことを考えています。

伊野:
上海オフィス向けには、中国語に翻訳したものをリリースする予定です。

島内:
英語ではなく、敢えて中国語に翻訳するというのがほかの拠点との大きな違いですね。

伊野:
想いは言葉で伝わっていくものなので、現地の言葉でお祝いをし、必要な情報を、必要とするメンバーに届けようと発想しました。中国人女性の体験者インタビューも掲載しているので、中国のメンバーがそれを読んだときに、彼女の想いが母国語で伝わるようにという思いがあります。

いずれにしても、ハンドブックはまだまだ「完成」ではありません。必要な情報を見やすくまとめ、最新の情報を反映しておくことも大事ですが、何よりも、一緒に働くメンバーが何か不安や困難な状況に直面したときに、相談しにきてくれるキッカケになることを期待しています。

制度や働き方の仕組みは、フェアネスの観点を意識しつつ、一緒に議論しながら、自分たちの手でつくっていく。そんなメッセージが、このハンドブックを通して伝わるといいなと思っています。

今回つくったシンガポール版、スリランカ版もどんどんブラッシュアップして、ユーザベースグループのメンバーみんなが安心して働ける環境をつくり続けていきます!

編集後記

国によって異なる制度がある中、ユーザベースグループとして、どこまでフェアネスを担保するのか──とても難しい挑戦だったはずなのに、2人とも楽しそうに振り返って話していたのが印象的なインタビューでした。今後リリース予定の上海版の話の中で、伊野さんの「想いは言葉で伝わっていくもの」という言葉に深く共感しました。中国語はわからないですが、リリースがとても楽しみです!

執筆:宮原 智子 / 編集:筒井 智子

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