「誰もがビジネスを楽しめる世界」を探索するコーポレートマガジン
NewsPicksはアンコンシャス・バイアスにどう向き合うべきか?

NewsPicksはアンコンシャス・バイアスにどう向き合うべきか?

企業の成長を阻む要因のひとつとして「アンコンシャスバイアス(無意識バイアス/無意識の思い込み、偏見を指す)」が注目され、グローバル企業ではアンコンシャスバイアス研修を必修化する動きも見られます。NewsPicksでも2022年3月の国際女性月間に2日連続で取り上げています

一般的にメディアはアンコンシャス・バイアスを生む一因になりやすいと言われています。ソーシャル経済メディアとして、NewsPicksはアンコンシャス・バイアスにどう向き合うべきか。アンコンシャス・バイアスを学び行動変容を促すeラーニングツール「ANGLE」を開発・提供している株式会社ChangeWAVE 代表取締役社長の佐々木 裕子氏と日本アイ・ビー ・エム株式会社 パートナー/株式会社ニューズピックス Executive Adviserの大塚 泰子氏、株式会社ニューズピックス コミュニティマネージャー 佐藤 裕美が語りあいました。

佐々木 裕子

佐々木 裕子HIROKO SASAKI株式会社チェンジウェーブ 代表取締役社長/株式会社 リクシス 代表取締役社長

東京大学 法学部卒業後、日本銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイトパートナーを経て、2009年に 株式会...

MORE +
大塚 泰子

大塚 泰子TAIKO OTSUKA日本アイ・ビー ・エム株式会社 パートナー/株式会社ニューズピックス Executive Adviser

日系コンサルティングファーム、総合系グローバルコンサルティングファームを経て、日本アイ・ビー・エム株式会社に戦略コンサ...

MORE +
佐藤 裕美

佐藤 裕美YUMI SATO株式会社ニューズピックス コミュニティマネージャー/Vertical Community Team リーダー

大手メーカー、ITスタートアップのPRを経てNewsPicksに入社。ITスタートアップPR時代には、創業期から上場を...

MORE +
目次

心理的安全を担保しなければ、多様なコメントが増えることはない

NewsPicksの特徴のひとつに、コメント欄が挙げられます。

佐藤 裕美(以下「佐藤」):
News is not always black and white. (ひとつのニュースでも人によって多様な捉え方がある)。NewsPicksのロゴであるシマウマにはそんな意味が込められています。コメント欄は、まさにそれを具現化する空間だと思います。ひとつの事象に対して複数の側面から、さまざまな方がコメントするのを見ることで、その事象を立体的に理解できる点が特徴です。そうすることで、自分自身の意思決定の確度を高めたり、選択肢を拡げたりできるのではと。

自分ひとりで考えるのではなく、外付けハードディスクにさまざまな情報があって、それらをもとに意思決定するイメージですね。そうした意味で、ひとつの事象に対して多様なコメントが生まれるようなコメント欄を目指しています。

佐々木 裕子(以下「佐々木」):
多様なコメントを投稿してもらうための一番の課題は、心理的安全性の有無だと思っています。

NewsPicksのコメント欄は、どちらかというと有識者による解説系のコメントが多いですよね。それも大切なんですが、一般の人たちからすると「すごいことを言わなければいけないのではないか」と感じてしまい、コメントしづらくなります。

そうなると、コメント欄は腕に覚えのある人たち同士の斬り合いみたいになってしまう。世の中の8割ほどは「言いたいことがあるのに言えない層」だと言われていますが、そうした人たちの声は届かなくなる可能性がありますね。

大塚 泰子(以下「大塚」):
私も女性のプロピッカーの方々(公式コメンテーターとして活動する専門家)とお話しする機会があって、「NewsPicksのコメント欄は殺伐としていてコメントしづらい」との声もありました。プロピッカーがそう思っているなら、一般の女性ユーザーはもっとコメントしにくいでしょうね。

女性のポテンシャルユーザーにインタビューしたときも、コメントするのは勇気がいるし、マウントを取られたり絡まれたりしたらイヤだと。まさに今、佐々木さんがおっしゃった「心理的安全がない状態」ですね。

Executive Adviser 大塚泰子氏

佐藤:
そうした状態を解消し、多様性を高める施策のひとつとして、NewsPicksでは学生の視点からコメントをしていただく「Student Picker」や、地域のキーパーソンコミュニティ「Re:gionピッカー」など、テーマやイシューに合わせたプロジェクトを走らせています。

これらの施策とは別に、みなさんはどうしたらコメントがしやすくなると思いますか?

佐々木:
場のルールを設けて、ファシリテーションをする必要があると感じます。コメントに対して「ありがとう」と言ってもらえたり、「そうだよね」という共感があったり。問題提起に対しても「空気を読んでいない」と切り捨てられない感を醸成する工夫がほしいですね。

現状は、ユーザーから支持を得ているコメントがランキング上位に上がっているように見えます。上位者は発言しやすいと思いますが、そうでない人たちは及び腰になってしまう。意見の多様性が失われているように思います。

佐藤:
「ニュースに対する識者の解説」だけではない楽しみ方や関わり方があっていいですよね。

大塚:
経済の専門的な知識やニュースの裏側がわかるようなコメント欄にするのか、もっと多様でインクルーシブな世界観を作っていくのか。リブランディングの時期にきているのかもしれないですね。

多様性を欠くことは、組織にとってリスクである

プロダクトを提供する組織にも多様性が求められると思いますが、組織に多様性が生まれにくい原因はなんでしょうか。

佐々木:
多様性は「面倒くさい」からではないでしょうか。

「面倒くささ」にはふたつあって、ひとつは「情報量の差」です。相手に対して、自分の意見を根拠も含めて説明しなければならない。お互いが持つ情報量が違うので、まずそこをすり合わせる必要があります。

もうひとつは「異質の人だと反対される可能性がある」ためです。同質の人は賛成してくれても、異質の人だと反対されるかもしれない。否定されると回り道になってしまうので、議論や物事を効率よく進めるなら、同質な人たちだけでやりたいという心理が生まれやすいんです。

ChangeWave佐々木裕子氏

佐々木:
実際にそうした実験をした大学があります。殺人事件の容疑者を特定する推理ゲームで、同質の3人でチームを組む。そこに4人目として異質な人を入れると、同質な人を入れたチームより正解率は高くなるんです。

なぜなら異質の4人目にロジックに沿った説明をするために、しっかりファクトを確認するから。面倒であってもファクトチェックをすることで、3人で話し合っていたときに見落としていたこと、矛盾などに気づくことができるため、正解率は上がります。でも本人たちは、自分たちの回答に「自信がない」と感じる。

反対に、4人目も同質の人が入ったチームは、正解率が下がります。でも、あうんの呼吸なのでスピード感を持って意思決定できるし、満場一致で物事が決まるし、みんなが自分のチームに自信を持てるんです。

人間の防衛本能は、異質なものを危険だと思うようにできています。群れの中にいたほうが安全だから、同質を好む。まさにアンコンシャス・バイアスですね。似ているもの、共通のものが好きだから拡大生産したくなる。

佐々木さんは大企業でもアンコンシャス・バイアスに関する研修をされていますが、実際に変わってうまくいった例はありますか?

佐々木:
みなさんまだこれから、というステージだと思います。今は生みの苦しみの中にいると感じています。ですが、現在は「アンコンシャス・バイアス」や「多様性」という言葉がブームになっていて、本気で取り組まなければという会社が増えていることは事実です。これはいい傾向ですね。

ただ、中途採用を増やしたりボードメンバーを変えたりしても、その多様性が事業成長や企業価値向上につながる道筋を見つけなければ、本質的な動きにはつながりにくい。

短期的には同質のチームで進めたほうがスピード感が出ますし、それが成功モデルでもある。そう思うと、なかなか不確実性の高い「多様性」への一歩が踏み出せない。

大塚:
多様性はイノベーションを起こすと言われていましたが、私はむしろ多様性がないことはリスクなのだと思います。

意思決定の際、どこまで多様性を意識できるか

昨年(2021年)秋、ユーザベースグループは、品川駅のデジタルサイネージ広告に対する批判や厳しいご意見をたくさんいただきました。これはなぜ防げなかったと思いますか?

大塚:
「この広告を見て傷つく人がいるのではないか」と気づけなかった、もしくは気づいても声を挙げられなかったのであれば、典型的なグループ・シンク(※)があったのではないかと思います。

グループ・シンク:集団で合意形成をするにあたり、多様な視点からの評価が欠落すること。

佐々木:
自分ひとりの感覚には決まって「盲点」があるんです。だからこそ、多様性を意識して、自分たちの「盲点」を可能な限り小さくすることが重要です。でも、一定のセグメントに属した一定の価値観を持つ人だけで意思決定すると、自分たちの「盲点」を見逃してしまう。今回のような問題が起きやすいと言えますね。

大塚:
キリンさん(キリンビバレッジ株式会社)でも「午後ティー女子」の件で炎上したことがありましたが、あのあと意思決定プロセスを大きく変えています。広報担当者、コンプライアンス担当者を必ず入れたり、お客様相談室の声を分析したりと、多様な声を入れる仕組みにしたそうです。

そこで問題となってくるのが、「ブランドとしてのエッジを立てること」と、「誰も傷つけない表現」の両立です。品川駅の炎上事件では、「新規事業をリードしている(仕事を楽しんでいる)層」と「仕事を辛いと感じている人たちの層」の二項対立になっていました。

佐々木:
そういった二項対立は、インクルージョンの意識を強くもたないとなかなか解消できないですよね。ブランドとしてのエッジを立てることと、誰かを傷つけない表現をすること。両者を尊重して両立させなければいけないのに、「どちらが勝つか」のマウンティングの構図になってしまう。

NewsPicks佐藤裕美

佐藤:
そこをファシリテートする必要があると思うんですが、組織の中でうまく場をつくるためには、どうすればいいのでしょうか。

大塚:
私は、「社外取締役女性ラボ」という一般社団法人も設立しているのですが、そのイベントで、会議の際に取締役などの経営層が全員に話を振るという話を聞きました。強いリーダーやよくしゃべる人しか発言しないときに、たとえばあまり話さない女性がいたら、その人に話を振ってみる。そういう仕組みにしてしまうという手段があります。

また別の会社では取締役会の前に、必ず社外取締役の方にブリーフィングをする時間を設けているそうです。アジェンダに対して、情報の非対称をなくすための取り組みですね。

佐々木:
会議で座る席を毎回シャッフルするのもいいですね。物理的な距離は脳にも影響を与えます。近いほうが話しやすいし、遠いと疎外感を感じてしまう。いろんな人が隣になることで、多様性を感じられると思います。

「男性」は「ブリリアント(賢い)」でなければならないというバイアスが世界中に存在する

NewsPicksにはどんなバイアスがあると思いますか? また、メディアとしてそのバイアスとどう向き合えばいいと思いますか?

大塚:
私はNewsPicks上でのシームレスな連携ができているか、が気になっているんです。現状、トピックス(NewsPicks内で自由にテーマを定め発信し、コミュニティを形成できるサービス)はトピックス、コミュニティはコミュニティ、編集部は編集部というふうにセクションで明確に分かれている気がします。

たとえばニュースを読んで「もっと深掘りしたい」「ここがわからない」と思ったときに、誰かがそのニュースについてトピックを立てているかもしれません。

ニュース記事からトピックスまでがUIでシームレスにつながっていれば、「わからない」と思ったときにコメントを見るだけでなく、トピックスを見ることでその「わからない」が解消する可能性があります。ユーザー体験として「わからないこと」がシームレスに解決できるんです。それができないのは、NewsPicksのセクショナリズムが影響している気がしますね。

初めてNewsPicksの経営会議に出たときに驚いたのが、編集は編集、プロダクトはプロダクトというように、みなさん自分の事業の話をすることがメインで。相互のやりとりがもっとあればいいのにな、と思いました。

私が考える経営会議は、組織に横串を通して事業部間のシナジーを生みだすものです。全社の最適なポートフォリオやサービスを話す場だと考えていたので、他セクションの発言には口を出さないという雰囲気に「なぜ?」という思いでした。

ただ、その点は経営メンバーも課題感を持っていて、先ほどのセクショナリズム問題と合わせて、より一貫した世界観を、協力して創り上げていけるように検討を進めているので、変わっていくと思います。

「この人が責任をもって預かっている課題だから、あれこれ言うのは野暮だ」というように、責任に対する思いが強すぎるために分断が生まれやすくなるのかもしれません。

大塚:
とはいえ、Aでいくのか、Bでいくのか、議論は必要ですよね?「責任の所在である自分がAと言ったからAだろう」 では独裁になってしまいます。私自身が過去にそのようなスタイルだったから反省も込めて思うんですが、そのスタイルでは、その意思決定者の思考範囲から出ない、それ以上のものが生まれないんですよ。

冒頭で佐藤さんが言った「外付けハードディスク」と同じで、その意思決定者の考えにプラスして他者の意見を聞くことで、より思考が深まっていいものが出てくる可能性もあります。

佐々木:
最近行われたアンコンシャス・バイアスの研究でわかったことなんですが、「男性」は「ブリリアント(賢い)」でなければならないというバイアスが世界中に存在するんだそうです。

女性はブリリアントであることを証明しなくていいから、他人に対してマウントを取りにいかない。一方で男性はブリリアントでなければならない、リーダーでなければならない。だから弱みを見せてはいけないと、無意識にマウントを取りにいく。そんな統計が出ています。

インタビュー風景

佐々木:
あるとき、いろいろな業界の有識者が集まる会議で、ジェンダーの話題について1泊2日で議論したことがありました。その中で、女性は女性であるがゆえにキャリアに悩んだことがあるという話が出たんです。同じことを男性に聞いたところ、男性であるがゆえにキャリアに悩んだことはないと。

だけど唯一、「自分の弱みを見せられない」という悩みがあると言うんです。「男性は弱みを見せないものだ」という無意識のバイアスがかかっている典型例だと感じました。

大塚:
心理的安全はマイノリティの側にだけないように思っていましたが、そう聞くと、マジョリティー側である男性にも心理的安全は担保されていないんですね。

「こうあるべきだ」といったアンコンシャス・バイアスが生まれる背景には、メディアの責任もあると思っています。メディアがどうしてもバイアスを生み出してしまうなら、NewsPicksではこれからのビジネスパーソンに、世の中を進化させる「バイアス」を提供したいですね。

大塚:
アメリカ留学している夫がこんなことを言っていて。「アメリカのヒーローは、スーパーマンやスパイダーマンのように、ひとりで戦うけど、日本では昔からゴレンジャーのようにチームで戦うよね」って。

赤が情熱を持ったリーダー、青が頭脳明晰、黒がクール、ピンクは調和だとかやさしさ──「男・女」ではなく、それこそスキルマップの世界で、みんな異なる能力を持っているわけです。

そう思うと、最近はアメリカでも、アベンジャーズのようにチームで戦うようになってきた。みんなが変わり始めたということかもしれないですね。

D&I推進のカギは「経営戦略」としての推進にあり

D&Iを実現するにはどうしたらいいのでしょうか。

佐々木:
多様性を実践するのは大変です。自然に培われてきた無意識のバイアスを変えるのは難しい。バイアスに沿って発信したほうが楽だし、受け入れられる。マーケティングの観点からも、一定の同質セグメントに訴求するほうが分かりやすいし、成功もする。だから、このサイクルを変えるにはパワーがいりますね。

佐藤:
「男子校」と揶揄されたこともありますが、現状プロダクトとしてのNewsPicksはまだまだマッチョなイメージがあると思います。ですが組織は案外フラットです。また大塚さんが社外取締役(現在はExecutive Adviser)として入っていただいたことで、経営陣や他のメンバーも、改めて自分たちの同質性に気づけた部分が多いのではと思います。

ソーシャル経済メディアを標榜しているNewsPicksが、組織のダイバーシティを加速させながら、事業でも結果を出して、経営戦略としての多様性の大切さを実証できるといいなと思いますね。

NewsPicks佐藤裕美

大塚:
私の役割は、NewsPicksの経営会議のメンバーを半分女性にすることだと思っています。意思決定層に女性がいることはとても大切だと思っているので、数年以内には実現したいですね。これはボード会議の議事録で公開されていましたが、経営メンバーも前向きに推進してくれていて、私が社外取締役(当時)として参画した10ヶ月前から、この短期間で大きく変わったな!と感じている点で素晴らしいと思っています。

佐々木:
女性活躍推進の裏側にある本質的な問題は、誰にでもある脳のオートパイロット機能=アンコンシャス・バイアスなのですが、その話と、いわゆる女性活躍の話が分断されて、違う類いのものとして議論されることがあります。これはもったいないですよね。

大塚:
そうですね。あくまで仮に、ですが、NewsPicksの現状の主なユーザー層を、平均年収以上を稼ぐ、大企業に勤めている管理職だとすると、たとえばコンサルティングファームに勤めている女性マネージャーはど真ん中になるわけです。

そのような拡大余地のある層向けの施策を考えていきましょうと提案すると、「また大塚さんのD&I的な話が始まった」みたいな空気になってしまうこともあるんですよね、私の思い過ごしかもしれませんが……。そこはD&Iは関係ない、あくまでコンサルタントとしての提案なんですが。

佐々木:
ユーザベースには「異能は才能」というバリューがあるので、すでに多様な人たちが集まってフラットに実力勝負をしている、と考えているのかもしれませんね。

女性活躍推進の文脈で、よく「男性より能力の低い女性に下駄を履かせる」みたいな話を耳にしますが、女性に限らず、ある一定のセグメントだけ能力が低いということはありえない

ではなぜ結果的に能力が低いように「見えている」かといえば、無意識のバイアスによって、機会提供がされていなかったり、コミュニケーションの量と質に無意識の「差」が生まれてしまったりしていて、それが長年累積してしまっているだけだと思います。

この問題を「これが実力なんだから仕方ない」で済ませるのか、その根本の構造から変えていこうと思うのか、意思の問題ですね。

競争戦略から共創する世界観への変化

大塚:
私は、NewsPicksが扱っている記事も前近代的なものが多いように感じるんです。以前は限られた市場の中でいかにパイを奪うかという競争戦略が採られていましたが、今はその前提が変わってきています。

市場をどう拡大していくか、新しい市場をつくるのか、もしくは競合と共創することで市場をつくっていくのか。奪い合うのではなく、共創するという世界観に変わりつつあるんですが、NewsPicksでは奪い合いの競争戦略を主張する、前近代的な記事がまだまだ多いように思います。

世の中は今、サステナビリティやウェルビーイングに関心が向いています。ダボス会議で「グレートリセット」が宣言されたように、幸福を軸にした経済に考え直すべきだと。NewsPicksでも、次の世界に一歩を踏み出すべきだと思うんです。実際、最近そういった内容の記事も増えてきているので、既に変化は起こっていると思います。

恐らく既存のユーザーの中には、違和感を覚える人もいるでしょう。それを受け入れて、勇気を持って決断できるかどうかですね。

Executive Adviser 大塚泰子氏

佐藤:
個人として考えてみると、これまでの状況に違和感がありながら、今のルールの中で戦わなければと思ってしまう自分がいました。自分がどこかしら劣っているのではないか? というバイアスに縛られていたように思います。大塚さんの話を聞いて、みんなそうした違和感を抱いているように思えてきました。でも、みんな今さらこの奪い合いのレースから、降りられないという感じがしますね。

「学習する組織」の実現には、D&Iを事業に結びつけていくことが必須

佐々木:
多様性を力に変えるためには、高い目標を掲げるだけでなく、心理的安全も担保しなければいけません。

勘違いされやすいのは、心理的安全という概念を持ち込むと、ゆるい組織になるのではないか? という点です。そうでなく、高い目標を掲げ、そこに到達するために心理的安全を土台にしてみんなで知恵を絞ることで、学習する組織になるんです。

目標が高いだけで心理的安全のない組織は、単なる「キツい組織」です。これを変えるには、実験してみればいいんですよ。小さく実験してみて、「案外いけるぞ」という結果を出さなければ組織は動かないでしょう。また、ダイバーシティの浸透には時間がかかるので、経営者がコミットしなければ実現は難しいという現実があります。

大塚:
そういう意味では佐久間さん(佐久間 衡/ユーザベース Co-CEO)は、客観的な視点も取り入れて、経営戦略として取り組んでくれるんじゃないかと思っています。

ユーザベースグループが掲げる「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」というパーパスの「誰もが」には、当然女性も入っていなければおかしい。「なぜ女性が対象に入っていないように見えてしまうのか、それを解消するために何をするべきか。意思決定層に女性を増やすのも、ひとつの手段かもしれない」。そんなふうに客観的な経営判断をしてもらえるといいですね。

これは経営戦略であり実証実験だと考えれば、極めてまともな経営の意思判断だと思います。私自身も経営戦略の一環であるというメッセージを届けているつもりなんですが、それが受け入れられないのは、D&Iに拒否反応を起こしているのかもしれません。

佐々木:
プロパガンダに見えているのかもしれませんね。キツい成長をしなければならないときは、よくわからないものに手を出したくないものです。確実に成長できるルートを歩みたくなる。

D&Iは、本気で継続的にやり続けないと、その成果の手ごたえを感じづらい。一方で正直面倒くさい、効率の悪いものに見えるから、そこに手を出すのは危ういと感じるのかも。だからこそ、D&Iを事業に結びつけていく必要があります。
今までのチームではなし得なかったようなアウトプットが得られて、ブルーオーシャンが広がってきてはじめて、D&Iの価値が認識されるのではないでしょうか。

対談風景

編集後記

今回の記事を企画するにあたって、どこまで踏み込んで話してもらえるか、公開できるか、実はかなりドキドキしながら編集していました。ここまでオープンに話していただける、公開OKと言っていただけるのは、まさにユーザベースが大切にしている「オープンコミュニケーション」の一環だなと感じました。

アンコンシャス・バイアスは、アンコンシャス=無意識がゆえに気づけない、見落としてしまいがちです。でもこのUzabase Journalもメディアとして公開されているものなので、読み手にユーザベースのことがオープンかつフラットに伝わる内容を目指していきます。

本記事に登場するメンバーの中には、すでに退職・退任しているメンバーも含まれます(役職・所属組織名は当時)

執筆:宮原 智子 / 撮影:井上 秀兵 / 編集:筒井 智子
Uzabase Connect