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世の中に共感されるものづくりを支援する——NewsPicks Creationsが手がける、企業体質を変革する共創コミュニティの本質

世の中に共感されるものづくりを支援する——NewsPicks Creationsが手がける、企業体質を変革する共創コミュニティの本質

NewsPicksユーザーと企業とが新たな価値創造を目指す共創コミュニティ「NewsPicks Creations」。2020年7月に青山商事と開設した共創コミュニティ「シン・シゴト服ラボ」では、「ビジネスウェア3.0を定義する」というミッションのもと、複数のプロジェクトを立ち上げています。共創コミュニティがどんなプロセスで行われ、企業にどんな付加価値を生み出しているか、青山商事の平松葉月氏と、NewsPicks Creationsの纓田和隆に話を聞きました。

平松 葉月

平松 葉月HAZUKI HIRAMATSU 青山商事株式会社 リブランディング推進室・副室長

1996年甲南大学文学部卒 2002年創造社デザイン専門学校視覚デザイン科卒 グラフィックデザイナーとしてキャリアスタ...

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纓田 和隆

纓田 和隆KAZUTAKA ODA NewsPicks Creations 事業責任者

2007年、米テック系ニュースメディアCNET、ZDNetの日本展開をするシーネットネットワークスジャパン(現:朝日イ...

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目次

「共感されるものづくり」×「ビジネスパーソンに向き合いたい」思いが合致してプロジェクトがスタート

そもそも、なぜ「NewsPicks Creations」の事業を始めようと思ったんですか?

纓田 和隆(以下「纓田」):
以前から広告を通じて事業会社のマーケティング担当者を支援してきましたが、広告によって事業会社の広報やマーケティングの方々を支援することに限界を感じていたんです。

事業を成長させるためにはPRという切り口だけでなく、エンドユーザーの方々に共感されるプロダクトやサービスを生み出すことのほうが、重要になってきているのではないか──広告の仕事を通じてそんな風に思うようになりました。

では、ものづくりの意思決定をどう支援すればいいのか。そう考えたときに、NewsPicksユーザーのみなさんと、事業会社でものづくりの意思決定をされている方々(CMO)の橋渡しをして、「共創」という構造をつくれないかと思ったんです。

平松さんは、どのようなキッカケでNewsPicks Creationsの存在をお知りになったのでしょうか。

平松 葉月氏(以下「平松」):
2020年2月に宮崎県で開催された「ダイレクトアジェンダ」というカンファレンスで、当社のデジタル部門を統括している人物が、纓田さんと出会ったことがキッカケです。

私は青山商事に入社して2年ほどになりますが、当時いろいろな人にヒアリングした結果、当社の課題が見えてきました。BtoCでお客様に製品を売っている業態にもかかわらず、お客様の声に向き合いきれていないというのがその1つです。

青山商事が見ているのは競合他社。それはものづくりにも反映されていて、「他社がこういうものをつくったから、うちもつくろう」となるんです。お客様へ良い製品を届けたいという思いはあるものの、その製品が本当に世の中に求められているのかを考えきれずにやってきた歴史が長かったんですね。

お客様のほうを向いて製品をつくるために、NewsPicksさんの共創コミュニティは使えるんじゃないかと。これからPoCを始めようとしていたタイミングでもあったので、このプロジェクトを活用して手を入れさせてもらおうという気持ちもありました。

青山商事 平松葉月氏
NewsPicksとプロジェクトに取り組むことについて、社内ではどのように意思決定をされていったのでしょうか。

平松:
さまざまなニュースメディアがある中で、NewsPicksは記事にコメントを付けることができ、そのコメントを通してビジネスパーソンがどう考えているかがわかります。そうしたコミュニティが立ち上がっている点が、私たちにとって魅力でした。

洋服の青山は、本来20代から40代のビジネスパーソンのボリュームゾーンをお客様層とするべきなのですが、実際はそこが「谷」になっています。一番の「山」はフレッシャーズと言われる、18〜24歳の初めてスーツを買う層。その次は50代以上なんです。

フレッシャーズの時期は親御さんにスーツを買ってもらうことが多いんですが、いざ働き出して自分でビジネスウェアを買うとなったとき、「青山では買わない」という状態になってしまっている方が少なくないんですね。
50代以上の方々は、「スーツを着るのが当たり前」という時代に20代を過ごしてきて、ビジネスウェアは紳士服専門店で買うものだと思ってくださっている。だから18〜24歳がピークでそこから下降し、50代に向けて上昇していくという「谷」状になっているんです。

ですから、逆に20〜40代がメインのユーザー層──「山」になっているNewsPicksさんと協働することは、青山商事にとってすごく意義があることだと考えました。でも、社内ではそもそも「NewsPicksとはどんなものなのか?」を誰もわかっていなかったので、それを説明するところから始めたんですよ。社内のいろんな部署に何度も説明して、ようやく認めてもらえました。

コロナ下でWork from Homeが当たり前になったことで、どんな影響がありましたか?

平松:
青山商事という会社は、百貨店でスーツを買うと20万円くらいするような時代に、大衆の人たちもスーツが着られるようにと事業を始めて大きくなった会社です。

働くときにはスーツを着用するのが一般的だった時代から、温暖化の影響でクールビズ、ウォームビズが国の政策として言われるようになって、ビジネスウェアはややカジュアル化しました。

スーツの販売数がいっきに下り調子になったのは東日本大震災です。電気をあまり使わないようにしようとますますクールビズが進んで、ここ10年で右肩下がりになっています。

ウェアリングが変わってきていることは、青山商事のみんなもわかっていたんです。何とかしなければということで2019年にブランディング推進室を立ち上げたのですが、その矢先にコロナ下になってしまいました。言ってみれば、10年かけてじわじわと死に向かっていたところに薬を与えて回復させようとしていたのに、突然余命宣告されたような気分でしたね。

青山商事が広めてきた「仕事といえばスーツ」がビジネスウェア1.0、ビジネスウェア2.0は「クールビズなどのようにカジュアル化したビジネスウェア」。これらはどちらも、ビジネスパーソンが自分たちで決めてきた服装ではありません。

コロナ下、自宅などいろいろな場所で、いろいろな服装で仕事ができる状態になったとき、そこで着るビジネスウェアはどんなものなのか──それをビジネスパーソンと一緒に青山商事が提案していくことには、すごく意義があると思いました。

こうした青山商事さんの課題感を受けて、NewsPicksとしてはどう感じていたんですか?

纓田:
青山商事さんの中期経営計画やIRを読み込んでみて、先ほど平松さんが言われていたような課題が垣間見えました。ものづくりの本質である「世の中に共感されるものをつくれるか」という部分にお困りになっているんだろうという印象を持ちましたね。

実際に私たち自身もスーツを着なくなってきているからこそ、業態を変革していかなければいけない。青山商事さん自身そういう意識を強くお持ちだったので、今回やろうとしている共創コミュニティのビジネスで課題が解決できるのではないかと思ったんです。

NewsPicks Creations 纓田和隆

課題感を持った当事者が集まり、「自分たちがほしいものをつくる」という視座に変わったことが成功につながった

今回の共創プロジェクトは、具体的にどんなふうに進行していったのでしょうか?

平松:
まずは「シン・シゴト服ラボ」という共創コミュニティを立ち上げようということで、社内からコミュニティマネージャーを立てました。

NewsPicksさんからはボードメンバー(※)を2人アサインしてもらって、「ビジネスウェア3.0を定義する」というミッションのもと、どんなアクションをしていけばいいのか議論を展開。そこから2つのプロジェクトが生まれました。

1つは外勤ワーカーに対して、青山の店舗を活用して何かできないか。もう1つはテレワーカーの課題を解決する商品企画のプロジェクトです。その中で生まれたのが、青山商事初のMakuake応援販売商品としての出品となった画面越しの見映えを表現する商品「WAGAMAMA JACKET」でした。

ボードメンバー:コミュニティの世界観や設計を共に考え具体的なプロジェクトを立案・実行していく初期メンバー

ジャケットが誕生するまでの具体的なプロセスを教えてください。

平松:
2020年7月にコミュニティが立ち上がって、メンバーを募集し、10月にワークショップをして。ジャケットをつくろうと決まったのは2021年の2月でした。

洋服の青山と共創するということで、当初みなさんは「服」についてものすごく考えてくださったんですよ。ですが、テレワークといえば服だけではありません。スリッパであったり、照明やカメラであったり、さまざまなアイデアが生まれました。

そんな中、自宅で仕事をしているとはいえ、WEB会議のときはジャケットを着用しなければならない人もいるという話になったんです。そうした人にターゲットを絞ると、やっぱりジャケットが必要なのではないかと。そこでジャケットについて議論が始まりました。

WAGAMAMAジャケット

纓田:
2021年の1月からNewSchoolの卒業生を始めとする新しい方が加入して、一気に火がつきましたね。

平松:
そうですね。実は当初のプロジェクトメンバーの中に、課題感を持った当事者がいなかったんです。「みんなこう思っているだろうね」「周りの人に聞いたらこうだった」みたいな感じで、その課題を持つ本人ではなかった。

1月から加入した人の中には、まさにターゲットとなる課題感をもっている当事者となるような方もいたので、実際のペインがさらに言語化され、議論がさらに深まりました。多様なメンバーが増えたことで、プロジェクトで実現したい世界観がさらに明確になった感覚があります。その結果、メンバーたちが「自分たちがほしいものをつくる」という視座に変わったことが大きな変化でした。

纓田:
今回コミュニティミッションを掲げるにあたって「誰の、何を解決するか」という軸でコンセプトメイクしたのですが、「誰の」は大企業で働かれている20〜30代の若い社員で、その人たちの悩みを解決したいんだという話がありました。

そこから逆算して、どういったペインを持った人たちを集めたらいいのかと考えた結果、「大企業に勤めている」「一定の身だしなみをしなければならない」「身だしなみについて暗黙のルールがある」といった仕事のやりづらさを感じている人ではないかと。そこで、課題感を持っている当事者となりうるような方にも、お集まりいただいたという経緯です。

プロジェクトの風景

「世の中に共感されるプロダクト」を生み出せる企業体質に変わることが、プロジェクトのゴール地点

プロジェクトはまだ進行中ですが、現時点で青山商事さんの社内での反応はいかがですか?

平松:
当初はほとんどの人が懐疑的でしたが、いろいろな人が関わったり、社内外で発信を積み上げたりした結果、共創コミュニティがどれだけ大事なことなのか、社内に伝わってきている感覚があります。

現在は、社内で「シン・シゴト服ラボ」の編集部を立ち上げて、取り組みを社外に発信する役割を持たせようとしています。社内の広報部の若手メンバーをアサインして、社内にも「シン・シゴト服ラボ」がどんなことをしているか、周知させていく取り組みを行っていく予定です。

この取り組みについて役員に説明するときに、単なる販促のスポット施策ではないことを伝えていました。これは青山商事の社会への向き合い方を変えていく話であって、人材育成という側面もあると。

社外のさまざまな知見をもった人たちと会話をしたり、いろんな考え方を学んだりして、ほかの競合他社よりも社員がレベルアップしていく。それによってお客様が本当に求めている商品を生み出し、届けていける人材を社内に増やせるんですという話をしたんです。

纓田:
この事業を立ち上げ提供価値を模索してきた中で、私もだんだんと「ジャケット開発をする」だけではない価値を模索する必要を感じたんですね。

平松さん率いるリブランディング推進室は各本部を横断する横ぐし組織だと聞いていたんですが、どうもいろいろな部門に説明責任を果たさなくては前に進めなさそうだなと。つまりそこに大企業における組織風土課題や人材育成課題が点在しそこをも打破しなければ最終的に形にならないと思うようになりました。

これまでは人・組織・事業の3つの中で、事業開発にコミットしてきましたが、そのうちどれか1つがうまくいけばいい話ではなくて。組織変革や人材育成もセットで考えなければ前に進めないと気がついて、少しずつ支援策も幅広になっていきました。

ただジャケット開発の共創コミュニティだけをやっていればいいだけではないと学ばせていただいて、事業をブラッシュアップするきっかけになりましたね。

青山商事 平松葉月氏
今回の共創コミュニティはどこをゴールとして目指しているのでしょうか。

平松:
いまはNewsPicksさんありきでの運営ですが、いつかは青山商事の中だけでも運営できるようにしたいです。トップから店舗の販売員まで全ての社員が、青山商事がよい方向に向かうためにこの取り組みが必要なんだと理解して、全員で協力体制を築けることがゴールです。

纓田:
平松さんの思うゴールが完全に私たちと一致している点も、いい関係性を築ける要因ですね。この事業の構想段階からこだわって言っていたのは、私たちのような外部の人間が伴走せずとも自走できる体質へ転換していく、ということ。ここに強い想いがあったんです。

半永続的に顧客と向き合い、共創構造をつくり続け、世の中に対して共感されるプロダクトを届け続ける。そんなふうに企業体質が変わるところまでをコミットしたいと思っています。

執筆:宮原 智子/ 撮影・編集:筒井 智子
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