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クィア・アイ in Japan! のKanさんがゲスト! 「自分らしさ」について語り合ってみた

2020/09/24

クィア・アイ in Japan! のKanさんがゲスト! 「自分らしさ」について語り合ってみた

ユーザベースでは、私たちが大切にしている「The 7 Values」の1つ、「異能は才能(We Need What You Bring)」を体現すべく企画した「BU event week」を開催しました。今回は前回のGAME DAYに引き続き、第2弾のトークイベントをご紹介します!

目次

社外からのゲストは、Netflixで大人気の「クィア・アイ in Japan!」エピソード2に主人公として出演されたKanさん! さらに社内からはB2B SaaS CompanyのLocalization teamで翻訳を担当している、ローラ・ウェイクフィールドが登壇してくれました。

登壇者紹介

今回のテーマは「Exploring who you areー自分と仲良くなる方法」。「普通」や「当たり前」とは何なのか? 自分らしく輝くために最も大切なのは、世間の「当たり前」に縛られず、自分の心に従うことです。どうすれば自分の心の声に耳を傾け、従うことができるのか、ゲストスピーカー2人の原体験をもとに紐解いていきました。

Kanさん:どこにいても自分らしい自分に!

Kanさん

Kanさんパートでは、幼少期からの心の状態をシェアしつつ、それぞれの時期にどんな思いを抱えていたのか、赤裸々に語ってくれました。

男性が好きであると気づきはじめたのは中学3年生の頃。思春期で心が勘違いしているのかもしれない、治すべきものだと考えていたそう。周りにロールモデルはおろか、当事者もおらず、得られる情報はTVからのみ。でも当時TVでは「オネエ」と笑いものにされていました。

高校時代のKanさんは、セクシュアルマイノリティである自分を受け入れられず、「プラスマイナスゼロにするには、良い大学に行って成功しなければ」と思っていたそうです。大学入学とともに上京したKanさんは、初めてセクシュアルマイノリティの知り合いができますが、彼らも自分と同じように苦しそうに見え、将来に希望が持てなかったと言います。

Kanさんグラフ

そんなKanさんの1つ目のターニングポイントは、カナダ留学でした。人生で初めて、自分らしく幸せそうに生きるセクシュアルマイノリティに出会ったことで、「生きづらい原因は僕じゃなくて、社会だったんだ!」と気づいたKanさん。帰国後、日本ってやっぱり生きづらい、みんなにカナダの経験を伝えたい・共有したいと考え、大学でLGBT+サークルを設立します。さらにアカデミックなインプットが欲しいと思い、大学院へ進学を決意しました。

イギリスの大学院に進学したKanさんは、今度は人種差別の壁にぶつかります。LGBTコミュニティで「アジア人お断り」「アジア人は嫌い」と面と向かって言われたこともあったそう。イギリスでの経験を通じて、LGBTに関して日本=遅れている、欧米=進んでいるわけではないと気づき、世界がより立体的に見えるようになったと語ります。

帰国後、日本で就職したものの、日常生活で受けるヘテロノーマティブなマイクロアグレッション(本人に差別する意図のない、分かりづらい差別/「彼女いるの?」「恋愛では男役?」「渋谷区に行けば結婚できるよ」など)が苦しかったそう。

やっぱり日本は生きづらい。でもイギリスでも生きづらかった。どうすればいいんだろう?──そんなときに起きたのが、2つ目のターニングポイントであるクィア・アイへの出演でした。ファブ5(Fab 5/クィア・アイの5人のメインキャスト)との出会いによって、「どこにいても自分らしい自分でいられるようになった」とKanさんは目を輝かせながら話してくれました。

クィア・アイ出演

現在はさまざまなメディアからのインタビューや、instagram、YouTubeなどのSNSを通じて自分らしさを発信することで、他者の自分らしさを後押しすることをミッションに活動しているとのことです。

ローラ:自分を知りたくて心理学を勉強

ローラ

ローラも幼少期から「具体的には分からなかったけど、何か他の人と違うのではと感じていた」と言います。10代の頃は自分はゲイなのか、アセクシャルなのか、ストレートなのか? と混乱していたそうです。大学時代も周りにカミングアウトできず、女性と付き合うことで周囲から「ストレート」に見えると考えていたローラ。

ローラグラフ

大学を卒業してすぐ来日したローラは、日本企業に就職し毎日スーツを着ていましたが、それがすごく嫌だったそう。「もうこのまま普通のおっさんになっちゃうのか……」と性別に対する違和感が一気に膨らんだと語ります。女性は恋愛対象ですが、自分の中にある憧れ・なりたいという気持ちに気づいたのもこの頃。当時はトランスジェンダーの定義も分からず、どうしようもないと思っていたそうです。

29歳になり、大学時代から付き合っていた女性と結婚したローラ。結婚式では「これでもう、ちゃんと男性らしくするしかない」と思ったものの、自分の中にある違和感が抱えきれないほど大きくなっていきます。

ある日トランスジェンダーの定義を知ったローラは、自分はトランスジェンダーなのだとピンときたそう。でも結婚しちゃったし、パートナーとの将来が不安。もう女性として生きるしかないと感じたローラは、パートナーと話し合って乗り越えます。そして32歳の誕生日からホルモン治療をスタート。同時にLGBTフレンドリーな企業を探し始めました。現在パートナーとは、カップルではなく家族のような関係とのこと。

33歳になったローラは、LGBTフレンドリーな企業に転職し、数ヶ月後に初めて女性として出勤。このときは恐怖でいっぱいでしたが、職場では全く問題なかったそうです。でも通勤時の周囲からの目が気になり、かなりストレスを感じたローラは心理学に興味を持つように。その結果、もっと自由に自分を表現できるようになり、自分を隠さず生きられるようになり、気持ちがすごく楽になったと語ります。

さらに他の人も応援したいと考えたローラは、現在セラピストの勉強をスタート。将来的には戸籍上の性別を変える手続きをしたい、手術もして、いつかまた温泉に入りたいと笑って教えてくれました。

パネルディスカッション:自分らしさの見つけ方

パネルディスカッションの様子
2人が「自分らしくありたい」と思うようになったキッカケは?

Kan:
カナダ留学時代に身近なロールモデルに会えたこと。それまで「自分らしくありたい」と思ったことがなくて、自分以外の誰かになりたかったんです。自分らしくあるままで幸せになれるなんて、思ってもみなくて。

ローラ:
私の場合は、いろいろなことを抑えつけられていると感じるようになったのがキッカケかな。その気持が自分という器に収まりきらなくなって、もう全部出しちゃおうと思ったんです。外に出す怖さより、キャパオーバーしちゃって全部出すしかないって気持ちのほうが強くなった。自分の中で限界だったんですね。

「自分らしくありたい」に対して、一番壁になったのは?

Kan:
日本とカナダでの経験を比較して、壁を作っていたのは自分ではなく社会だったんだと気づきました。子どもの頃、自分のセクシュアリティに気づいてはいたけど、ロールモデルはいないし情報もなくて、どうしたら良いか分からなかったんですね。

でもその状態って、よく考えたら僕のせいじゃない。世の中がそれだけセクシュアルマイノリティの人たちを抑圧して、可視化できないようにしちゃっているからだなって。この壁があるのは、自分が原因じゃないと思えるだけでも、すごく心が軽くなったのを覚えています。

ローラ:
私の場合は、自分らしさに向き合うキッカケが少なかったですね。マジョリティの生き方しか表現できなかったというか。男性の役割、女性の役割、みたいなものが決まっていることが当たり前の世の中で、そこから外れるとすごく目立つんですよ。その「当たり前」から離れてもいいんだって思えるようになると、すごく解放感があるはずなのに。

同時に自分の中で壁を作っていた部分も大きいかな。本当は周りがどんな反応をしても、嫌われても、自分の心にOKを出せれば自分を自由に表現できるはず。「誰かに嫌われるのは、自分が自由に生きている証拠だ」みたいに思えたら、もう無敵ですよね。

2人とも海外に住んだ経験もあるのに、なぜジェンダーマインド後進国である日本に住もうと思ったの?

Kan:
大好きな家族も友だちも、みんな日本に住んでいるから。あとは、おいしいご飯! 日本育ちなので、やっぱり日本食が大好きなんです。好きなものがたくさんあるから日本を選んでる感じかな。

ローラ:
私も日本のご飯がすごくおいしいから(笑)。イギリス料理もたまに食べるけど、「昔よくコレを食べていたな……」って思っちゃうくらい。

あと、日本でLGBTへの理解はあまり進んでいないかもしれないけど、逆にその分あまり何かを強く言われることも少ないんですよ。あとUBのようなLGBTに理解ある会社で働けていることは大きいですね。居場所があれば、どこの国でもいいと思っています。ご飯がおいしいのは大事だけど(笑)。

自分の生まれた国以外で暮らすことで、どんな気づきがありましたか?

Kan:
同じ自分でも、場所によって扱われ方や周りの反応が全然違うんだなと思いました。それによって自分の良さに気づけた部分もあるし、自己理解が進むというか。例えば大学に入ったばかりの頃、金髪にしていたんですよ。でも海外に行って初めて「あ、自分の黒髪ってカッコいいんだ」と気づけた。日本にいたら気づけなかったと思います。

ローラ:
特に日本では、とにかく外国人は目立つんですよ。誰と会っても「大丈夫、日本語喋れますよ」って会話から始まります。トランスジェンダーじゃなくても、最初から目立っているので、自分がトランスジェンダーであることは大したことないって思えるんですよね。

私は自分の鼻が高いことや、肌の色が白すぎて病気っぽく見えるのがコンプレックスだったんですが、日本に来たらそれを「ステキだね」って言ってもらえて、コンプレックスを受け容れやすくなったんですね。Kanさんの黒髪がステキなのと同じで、お互いさまなんですよね。そのことに気づくと楽になるかもしれません。

ご家族の理解を得るのは大変でしたか?

Kan:
両親にカミングアウトしたのは高校生の頃。当事者あるあるなのかなと思いますが、本人は自分のセクシュアリティについて悩み抜いたうえで、「この人になら」とカミングアウトするので、受け入れてもらえると思いがちなんですね。

でも受け取る側からすると、カミングアウトされたのがスタート地点になるので、ビックリされることも当然あります。そのとき相手にちょっとした戸惑いが見えると、カミングアウトした側としてはすごく不安になるんです。

僕が両親にカミングアウトしたときは、まさにそんな感じでした。でも時間が経つにつれ、両親もセクシュアリティに関する本を読んでくれて、コミュニケーションを重ねていく中で理解してくれて。

今は自分のパートナーと一緒に実家に帰るし、オープンに話せます。母と弟がクィア・アイに出演してくれたのも、理解してくれているからこそ。すごくステキな関係が築けていると感じています。

ローラ:
パートナーとの話し合いは大変でしたね。彼女からしたら、男性と結婚したつもりだったのに、いきなり旦那が「女性でいたい」って言い出したわけですから。話し合いを重ねて、最終的には「ただ一緒にいるから楽しい」という結論に。そこから3年以上一緒に暮らしています。

私自身がありのままの自分でいることを選んだので、今後もしパートナーが「やっぱり子どもが欲しい」と思ったら、それを止める権利はないと思っています。そういう自由な関係ですね。

逆に親へのカミングアウトはアッサリしていたんですよ。周囲からは大変だと聞いていたんですが、母にメールで伝えたら「知らなかった。いいんじゃない? むしろ知らなくてごめんね」みたいな返信が来て、ちょっと拍子抜けしたくらい。その後もずっと応援してくれています。すごくラッキーだし、レアケースですよね。

パネルディスカッションの様子
自分らしくいることで、気持ちが楽になる、自由になる以外に、何かポジティブな変化はありましたか?

Kan:
何だろう……毎日すごく幸せな気持ちで過ごせているんですよ。自分らしくなかったときは、自分じゃない何かになろうとしていたんですね。今の自分を受け入れられないから、毎日苦しい。何か目標を立てるときも、自分を受け入れたうえでならいいけど、そうじゃないまま立てた目標は全て自己否定になっていて。

でも今は自分を丸ごと受け入れて、自分らしく生きているので、毎日すごく幸せ。幸せな気持ちで過ごすことで、周りの人たちにも幸せが伝染していくといいなって思っています。

ローラ:
自分がオープンになることで、相手も最初からオープンになってくれるので、より深い関係を築きやすいんじゃないかなって思います。トランスジェンダーでいることで、自分らしさをオープンにしている人だと思われやすいんですね。だから自分もオープンになりたい人や、どんな人か知りたいって人たちが寄ってきてくれます。

最近思うんですが、むしろストレートの人こそ、「こうあるべき」みたいな制限が強い気がします。彼らにも「ストレートでも自由に自分を表現していいんだよ」「世の中の価値に自分を当てはめる必要なんてないよ」って伝えたい。

今は今回のようなイベントに呼ばれるなど、トランスジェンダーであることで特別扱いされている部分があるけど、ジェンダーに関わらず、みんながオープンに自由に自分を表現できるようになれば、もっとステキになるはず。こういうメッセージをオープンに伝えていくことは大事だなって思います。

中には理解ない、心無い言葉を投げかける人もいますよね。そういう人にはどう対応しているんですか?

Kan:
その人と今後も付き合っていきたいか? によります。あとは自分の心の余裕にもよるかな。その人が大切な人で、その考え方の部分だけ違うのになって思ったら説明します。でも、この人とまた会うことは無いだろうなって思ったら、自分の幸せを優先して「じゃあいいや」って何も言わないこともあります。自分の幸せを最優先にして判断している感じですね。

ローラ:
セラピストの勉強をする中で知ったんんですが、人間って基本的にいろいろな勘違いをしているんですよ。自分と相手の捉え方の違いによってミスコミュニケーションは起きて当然。そこからコミュニケーションを取って、理解し合うプロセスが必要なんだけど、相手がそういうコミュニケーションを取れない人なら、無理に私の存在を承認してもらう必要はないかなと思っています。

最後に参加してくれたみんなに、勇気づけるようなメッセージを!

ローラ:
人が10人いたら、2人はあなたが何をやっても褒めてくれて、好きでいてくれる。別の2人は、あなたが何をやっても嫌う。残りの6人は特に何も思わない人たち、という話があります。

自分を嫌いになる2人に目を向けるのではなく、自分を好きでいてくれる人だけに目を向けるほうが、行動しやすくなるはずです。その人は何をやっても褒めてくれるし認めてくれる。だから自分を自由に表現できる。嫌いになる人は2割しかいないんだし、大丈夫。この話を聞いたとき、すごくいいなと思ったので、皆さんへのメッセージとしてお伝えします。

Kan:
僕は「自分らしさ」をカナダやイギリスまで探しに行ったけど、結局自分の中にあったんですよね。どこかから持ってくるものではなく、自分を掘り下げ、理解を深めていく中で見つけられたんです。

自分らしさは自分の中にあって、本当はみんな自分の「自分らしさ」がどういうものなのか知っているはず。何か経験したときに、「コレ良いな」「コレは好きじゃないな」って思うことで、自分らしさは磨いていけると思います。

自分が感じることを大切にしてあげて、自分らしさを見つけ、磨いていけばいいんじゃないかな。今の時点で本当はみんな最高だし、すごくステキで、誰でも幸せになれるはずだって僕は思っています。

今日はたくさん質問やコメントしてくれて嬉しかったです。ありがとうございました!

執筆:筒井 智子
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