インサイドセールスの役割を決める「3つの特性」
水嶋 玲以仁氏(以下「水嶋氏」):
半年前に本を出して以降、インサイドセールスに関する相談が本当に多くなりました。いろんな企業にコンサルティングしていますが、ユーザベースやSPEEDAは他企業とは一味違いますね。
西川 翔陽(以下「西川」):
どんなところがですか?
水嶋氏:
多くの企業は「インサイドセールスは営業効率を上げる機能のひとつ」という考えに留まってしまっているんですね。「KPIをどうする」とか「マーケティング部門と営業部門のどちらに置くのか」といった形式論で思考がストップしてしまう。
その説明は拙著に任せますが(笑)、本来インサイドセールスが果たす役割はもっと幅広いもの。組織にインサイドセールスを新たに導入する場合、「顧客コミュニケーションの構造全体を変える」という発想で進めていく必要があります。SPEEDAは導入当初の設計がきちんとできているな、と。
西川:
確かに我々には、SPEEDA事業の成長よりも、お客様にSPEEDAが最適なソリューションだと実感いただくことが先、という大前提があります。そのプロセスを最適化する中で、インサイドセールス導入がベストな選択だと考え、組織づくりをしてきました。
水嶋氏:
僕がコンサルティングに入っていた頃から半年以上経ちましたが、その後どんな変化がありましたか?
西川:
まず顧客層の変化について、当時見えなかった新しいニーズが顕在化してきました。事業フェーズが変わりつつあるので、インサイドセールスチームの役割も柔軟に変えていく必要があると考えています。自分たちの「サービスの特性」、「お客様の特性」、「組織の特性」の3つの観点で、バランスを図りながら施策や”やるべきこと”を取捨選択していくのが大事だと感じています。
SPEEDAはこれまで、経済情報のプラットフォーム・SaaSとして多くの企業からご支持いただいてきました。その中で市場におけるアプローチの対象は少しずつ変化しています。
2009年のリリースからしばらくは金融機関やコンサルティングファームなどの業界特化型でしたが、業種・職種特化型、エンタープライズ及びSMB(Small and Medium Business/大企業を除く規模の企業)へとターゲットの変化・拡大を経て、現在は経営企画はもちろん、それ以外の部門での採用も増えてきています。アカウントセールスや営業企画などの業務に携わるセールス部門、また研究開発(R&D)部門の方々からのニーズも目立つようになってきました。

セールスは顧客に「未来の気づき」を促す存在に
水嶋氏:
R&D部門とは珍しい印象です。どのようにSPEEDAが使われるんですか?
西川:
研究開発は企業にとって大きな投資です。しかし最近の市況は芳しいとはいえないし、中国が莫大な資金力と高い技術力をもって台頭してきています。日本企業の多くはこれに真正面から対抗するのはなかなか難しい。ニッチトップを目指す必要があるため、今まで以上に選択眼が問われ、意思決定も難しくなっているんですね。
昨今では、経営とR&D、あるいは知財管理が一緒になって事業判断するケースが増えてきています。「IPランドスケープ」と呼ばれる、知財や市場にまつわるデータ分析を主体とした経営戦略です。
その時に役立つのがSPEEDAで、経営や経済の専門家ではないR&D部門や知財管理部門の人でも、市場の動きや競合の把握、M&Aの検討に必要な情報をクイックに取得できる点を評価いただいています。
水嶋氏:
SPEEDAは課題解決型ソリューションという位置づけから、価値創造型に移行しつつあるということですよね。セールス活動も、これまで以上に複雑なストーリーを紡ぐことになりますね。
西川:
おっしゃる通りです。ストーリーの肝は、お客様に未来に対する「気づき」を与えるところにあります。マーケティングからインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスまで一貫性を持たせることが重要です。
これを踏まえると、インサイドセールスが顧客のフィルタリングやナーチャリングの役割で終わるのではなく、インサイドセールス以降の顧客体験に関わる人のリソースを最適になるよう投資判断し、顧客体験をデザインするという感覚を持つことが大事になってきます。現にインサイドセールスチームがお客様の“気づきの種”を得て、フィールドセールスがその種を発芽させる、というスタイルができつつあります。
水嶋氏:
SMBのような規模の企業からすれば、SPEEDA導入にかかる金額は大きな投資になりますよね。その分、ユーザーからの期待も大きくなるので「これを入れれば成功するんだ」と思えるだけの説得力が大事になってきます。
西川:
はい。お客様の事業成長により、誰にどのようなバリューが届くか? という「未来」のビジョンを明確に理解することと、SPEEDAを導入することで、より未来に近づけるという価値の訴求がポイントになるのではと考えています。

リードとのコミュニケーションが生みだすマーケティングとの共創
水嶋氏:
冒頭の3つのバランスにあった「組織の特性」についても、もう少し聞きたいです。先ほど西川さんは「インサイドセールスチームが、ほかのチームのリソースを投資する感覚を持つことが大事だ」と話していました。これはフィールドセールスやカスタマーサクセスなど、セールスの後工程に限らず、サービス開発にも関わるという意味ですよね。実際に動きはあるんですか?
西川:
SPEEDA事業部全体で、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスのメンバーがサービス開発に関わるプロジェクトが始まっています。最近ニーズの伸びているお客様に向けて、価値提供できるよう検討していくものです。
ただインサイドセールスチームに関しては、まだそこまでサービス開発に関われていません。一方でマーケティング戦略に関わる場面は増えていて、メンバーはすごく楽しそうにやっていますね。
水嶋氏:
私が去年関わっていた頃は、マーケティングとの連携は課題のひとつだったと記憶しています。マーケティングから入ってきたリードの質にバラつきがあることに、インサイドセールスチームは一定の不満がある状態でした。それが今では、協力関係を築いて、施策そのものに関わるようになったんですね。
西川:
インサイドセールスはリードと直接コミュニケーションを図る分、どのような媒体やホワイトペーパーから来たリードが、その後のやり取りでホットになるのかを実感しています。その感覚を踏まえて、マーケティングチームに対し「このゾーンのリードを増やしてほしい」というようなコミュニケーションができるようになってきました。
最近は積極的に展示会にも出展しているんですが、来場者に配るグッズのアイデアもインサイドセールスチームから出たもの。オリジナル包装のチョコレートで、包装紙の裏側に、SPEEDAの業界レポートを元にしたお菓子業界のバリューチェーンを載せているんです。
チョコレートを手にした人は「SPEEDAってこんなことができるんだ」と直感的に分かる。こうしたファーストエクスペリエンスを提案できるのは、やはりリードと近い距離にいるインサイドセールスならではの視点だと思います。

ロジックを組み立てながらツールを活用する
水嶋氏:
これだけ変化があると、コンバージョンレート(成約率)も気になるところです。新領域にチャレンジしていると当たり外れが大きいだろうし、逆に同じことをやり続けていると徐々に下がってくるものですよね。
西川:
コンバージョンの濃淡を調整できているのは大きいですね。顧客層によって、上げている場合と下げている場合があるんですよ。
SMB層については以前より下がっています。これまでお話ししてきたように、ご相談いただく内容も多様化していますし、こちらの経験もまだ浅いので数を意識し、質にはまだ注力していない段階です。
より早く質に触れられるように、最近では社内勉強会を実施しています。社内にはHR系、アカウントセールス、経営企画など、さまざまな職種の出身者が揃っているので、そのバックグラウンドを活かし、業種・業界ごとの特徴や、SPEEDAの利用価値について、メンバーが交代で解説しているんです。業界特性を把握し、SPEEDAが刺さるリードを読めるようになるのが狙いです。
水嶋氏:
では“上げている”というのは?
西川:
厳密には、「下げない」工夫ができているという状態ですね。エンタープライズなどある程度ノウハウが蓄積されているお客様には、訴求価値が比較的クリアになっています。逆の見方をすると、失注ケースから「価値提供につながりにくい」、「将来性を見込めない」お客様の傾向が分かってきました。
そこでMQL(Marketing Qualified Lead/マーケティング段階でホットな状態だと判断されたリード)の水準を徐々に上げています。基準を項目化してジャッジする方法で、成約確度の高いリードをインサイドセールスチームにパスするようにしています。リードの質をコントロールできると、セールスがスキルを磨くスピードも上がり、受注率向上につながると思っています。
水嶋氏:
リードを選べるなんて贅沢ですね(笑)。MA(Marketing Automation)などのツール類も、以前よりコントローラブルに扱えている感じなんですか。
西川:
最近グっと力がついてきた気がします。特にリード数管理は、一度失注しても数年後にご契約に至るケースも一定数あるので、複利的に考える必要があります。ただ、MAなどの活用は重要ですが、リードに重みづけするためのスコアリングについては、自らロジックを考え、状況を見て変えられるようにすることがポイントです。さまざまなツールの自動スコアリングには期待していますが、AIの精度もまだこれからという段階ですから。
現時点では、ツールを活用してリード情報を付与しながら、その中で価値ある情報は何か、自分たちのロジックで判断することが大事。取りこぼしを防ぐという意味でも、複眼的に見ることが大切だと考えています。
水嶋氏:
事業サイドの進化に伴って、人や組織も以前よりバージョンアップされてるんですね。ぜひもっと詳しく聞かせてください。
西川:
はい、もちろんです!