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SalesforceとNewsPicksが考える、これからのビジネスに必要なコミュニティ運営とは

SalesforceとNewsPicksが考える、これからのビジネスに必要なコミュニティ運営とは

昨今、サブスクリプション型のビジネスモデルが増え、BtoB領域でもユーザーコミュニティの有用性が話題に上ることが増えてきました。しかし、いきなりコミュニティをつくれと言われても困ってしまうのも確かです。

そこで今回は、BtoB領域で日本最大規模のユーザーコミュニティを運営している株式会社セールスフォース・ドットコムでユーザーコミュニティを牽引されている坂内明子さんに、NewsPicksコミュニティ・マネージャーの小野晶子がお話を聞いてきました。

目次

SalesforceとNewsPicksがコミュニティを重視する理由

小野 晶子(以下「小野」):
今日はよろしくお願いします。Salesforceでは創業期からカスタマーサクセスを重視され、たくさんのユーザーコミュニティが存在すると聞いています。まず、なぜコミュニティを重視されているのか教えてください。

坂内 明子氏(以下「坂内」):
コンセプトは「カスタマーサクセス」です。1999年の設立当初から、契約しているお客様に成功していただくことを非常に重視しています。

現在、日本では42グループのユーザーコミュニティがあります。いずれもお客様の成功を実現することを目的に、Salesforceによってどのようにビジネスが改善したかを、お客様同士でコミュニケーションできる場になっています。そのような場をより多く提供することが、カスタマーサクセスを実現するための大きな要素になると考え、重要なミッションとしています。

小野:
NewsPicksもかなり近い部分があります。

ユーザベースという親会社の下に、NewsPicksのほかにSPEEDAやFORCASなど子会社がいくつかあります。それら全てを束ねているのが、「経済情報で、世界を変える」というミッションです。

B2BやB2Cなど領域は異なっていても、ビジネスパーソンの悩みに応えたり、意思決定する際の支えになったりするようなサービスを、ユーザベースグループで提供したいと考えています。

坂内:
日本のSalesforceコミュニティについてお話すると、北海道から沖縄まで全国各地にあり、数千名の方に参加いただいています。

一般的なITベンダーのコミュニティは開発者のみということが多いですが、弊社のコミュニティには、システム管理者の方を中心に、マーケターやセールスマネージャーなどビジネス寄りの方々にも参加いただいているのが特徴です。

開発者とエンドユーザーが同じ場で議論し、開発者もエンドユーザーが成功するにはどうすればいいのかをコミュニティ内で学び、自身のノウハウ蓄積や自社の成功につなげています。

Salesforce 坂内明子氏

Salesforce 坂内明子氏

コミュニティの声で、イノベーションのサイクルを回す

小野:
Salesforceの場合、そもそも会社の目的自体が「お客様の成功」であり、それを実現するためのコミュニティという形であることがポイントになっていますよね。

坂内:
弊社のエグゼクティブも含め、メンバーがイベントに登壇する際は、必ず最初の5分間でお客様に対する謝辞を述べるところから始めています。

一般的にコミュニティをつくる際、どのようにビジネスバリューを出すか、コミットにつなげるか、という議論で止まってしまうケースが多いように思います。弊社は「カスタマーサクセス」という軸の中で、手段としてコミュニティを捉えているので、ブレないのかもしれません。

小野:
Salesforceでは経営者の方から直接コミュニティに触れ合っている方まで、一貫して「顧客への感謝」を表していて、すごくステキです。

NewsPicks 小野晶子

NewsPicks 小野晶子

坂内:
サブスクリプションモデルが増えている中、どうやってコミュニティを活性化すればいいのかという質問をいただくことが増えてきました。

既存顧客のエンゲージメントを高めることや、Salesforceのようにお客様が使いこめば使い込むほど長く継続して使ってもらえるサービスを提供している会社であれば、コミュニティ運営は非常に良いメソッドではないかと思います。

小野:
Salesforceコミュニティ内で上がってきた機能などの要望も、かなりの割合で採用されています。

企業側だけの視点では出てこなかったはずの機能や改善点を、実際に使っているユーザーと一緒につくっている点にはコミュニティの力を感じます。

顧客からのアイデアは、どのような形で投稿を促しているんですか?

坂内:
「IdeaExchange」というコミュニティサイトがあって、そこから多くのお客様の声を集約しています。それが実際に製品のイノベーションにつながって、お客様のビジネスの成功につなげてもらう。さらに新たな要望・アイデアをいただくサイクルをつくることが、製品のイノベーションにつながっていきます。

小野:
このサイクルづくりが徹底されていて、NewsPicksでもすごく見習いたいと思っている部分です。今「サンクスポイント」という新機能のβテストを、有志のピッカーさんたちにご協力いただきながらやっています。頂戴するご意見をもとに、一緒にイノベーションを起していく流れを、NewsPicksでももっとつくっていきたいと考えています。

Salesforceコミュニティの歴史

小野:
1999年の創業時からコミュニティを重視されてきたとのことですが、日本におけるSalesforceのユーザーコミュニティの歴史を教えてください。

坂内:
Salesforceのコミュニティには2種類あります。まずは導入してくださっている大手企業4社が、Salesforce側にユーザーの声を届けるために集まったのがきっかけです。誰でも入れるわけではなく、事務局をつくって会則をつくったり、フィルタリングをかけたりと、コミュニティを促進して盛り上げていくというより、どちらかというと体制を安定させる目的でトップダウン型かつクローズの形で運営していました。

一方、Salesforceは企業規模・業種問わず多くの企業にご利用いただいており、中小企業の方々もたくさんいらっしゃいます。トップダウン型コミュニティだけでは、どうしても中小企業のお客様の声を反映しにくい体制だったんですね。

Salesforce 坂内明子氏

坂内:
私たちのコンセプトは、「カスタマーサクセスを実現する」こと。リソースの豊富な大手企業だけでなく、中小企業のお客様にも合わせたコミュニティが必要だと考え、2014年ごろにボトムアップ型コミュニティをスタートしました。

それまではユーザーグループを個人が立ち上げられる制度がなかったので、「やりたい」という方の受け皿となるようなルールをまず整備しました。これをきっかけにたくさんの方が参加してくださるようになったのですが、典型的な例を一つご紹介します。ある日突然Salesforceの管理者を任された事務の方が、Salesforceを学ぶためにコミュニティに参画し、それをきっかけにSalesforceの資格を取り、彼女自身の社内からの評価、キャリアも格段に上がったというです。これは心から嬉しかったですね。

そういった体験をされた方はコミュニティで自分が還元したいと思うようになり、実際にコミュニティリーダーとなっているので、やはりコミュニティは大事だなと思います。

小野:
ユーザーコミュニティを構築するうえで、コミュニティリーダーや運営メンバーを選ぶのは非常に重要かつ難しいと思います。どんな点を重視していますか?

坂内:
やはりSalesforceのコンセプトに沿った思いを持っている人ですね。Salesforceが好きで、他のお客様にもそれを伝えたいと本気で思っている人。

実際お話してみて、Salesforceの機能をよく知っている方、なぜSalesforceが良いのかを語れる方かどうか見極めています。リーダーとしての資質も十分で、自社内でも責任ある立場におられ、ある程度自由に動ける方が多いので、彼らにリーダーになってもらうようお声がけしていきました。

Salesforce 坂内明子氏

コミュニティから得られるもの、ベースにあるもの

小野:
ユーザーがコミュニティに入ると得られるものは何だと思いますか?

坂内:
Salesforceの管理者はすごく孤独で、現場とのコミュニケーションに悩んでいる方が多いんです。

特に中小企業では専任でSalesforce関連の仕事をアサインされていることはほとんどありません。多くの場合は営業アシスタントの方が片手間でやっていたり、情報システム部門の方が一緒に管理したりしています。

だからコミュニティで同じように悩んでいる方が集まると、仲間意識が芽生え、コミュニティとしての楽しみが増えるんです。使い方やエンドユーザーとのコミュニケーションなど、悩んでいることが似ているので、他社の事例を聞いてどんどん学んでいただいています。

管理者としての孤独を埋めるためにコミュニティに帰属していただき、成功事例をどんどんアウトプットすることで、本人の自信になったり、キャリアアップにつなげてもらったりする。つまり、コミュニティに参加している方のサクセスも支援しています。

小野:
コミュニティと会社の目的って、どのようにつながっていくのでしょう。

坂内:
Salesforceには「Ohana(オハナ)」という考え方がベースにあります。ハワイ語で「家族」という意味で、お客様もパートナー企業も、地域社会の方も社員も、家族と同じように考えようというコンセプト。

コミュニティも同じで、やっぱり家族にはより幸せになってほしいですし、Ohanaの気持ちを持っている人に、エヴァンジェリストとしてコミュニティに影響を与えてほしいと思っています。

小野:
とても共感します。ユーザベースにも大事にしている「7つのルール」があり、そのうちの1つに「異能は才能」というものがあります。お互いを尊重し合い、認め合って良いところを引き出していこうというものです。

NewsPicksも同じ思想でつくっています。

異能をうまく発揮してもらうためには、ベースに「自分はここに参加していい・発言していいんだ」という安心感が必要です。たとえ少数意見であっても「発言しても大丈夫」という安心感をつくることが、サービスとして大事だと考えているんです。

こうした考えに基づき、NewsPicksはコメント欄でほかの人の意見に返信ができない仕様にしています。人の発言に対してコメントするのではなく、ニュースに向けて意見を述べる場にしたいからです。

坂内:
会社のコンセプトは大きいですね。そういう魅力的な会社だと思うからこそ、私も自信を持ってコミュニティを活性化していきたいと思えるんです。

小野:
ピッカーさんから質問されたり、何らか指摘を受けたりする際、会社のミッションとサービスが全然違う方向を向いていると、間に挟まれて揺らいでしまう気がします。

NewsPicksは2つの方向が同じだからこそ自信を持って返答できるので、すごくありがたいですね。

対談風景

コミュニティマネージャーに必要な資質は?

小野:
今日はとても刺激的で参考になりました。最後に、坂内さんが考えるコミュニティマネージャーに必要な資質はどのようなものか聞かせてください。

坂内:
重要なのは「軸」があるかどうか。Salesforceの場合、携わっている人を幸せにしたいというのが軸です。

私自身、コミュニティマネジメントの「方法」を考えたことはあまりなくて、Salesforceに携わっている人をさらにHappyにするにはどうすればいいだろう? という思考ですね。

1人ではできないので、同じような考えの人がたくさんほしい。社員よりお客様の声のほうが何倍も価値があるので、彼らがどんどん声を上げられる場をつくろう。自分が前に出るより、彼らが前に出られる場をつくろう、という考えです。

小野:
いろいろなコミュニティマネージャーの方にお会いして思ったんですが、「自分がやっているサービスが本当に世の中のためになる」という信念が重要なんだと思います。

NewsPicksは日々の経済ニュースを読んだり、Pick・コメントしたり、いろんな価値観や多様な考えの人たちのコメントが読める場です。

世の中が動いている渦中で、傍観者としてではなく自分も一つひとつ一生懸命考えていく──それこそがニュースを読んでコメントするという行為であり、社会とのつながりを考え直すキッカケになります。

それがさらに人としての成長につながって、世の中をより良くすることにつながるんだと信じているんです。

だからNewsPicksは意義のあるサービスだと心から思っていて、すごくニッチな課題解決について、人数は多くなくてもディープな意見交換が起きているコメント欄を見つけたら、ブックマークしています。ときどき読み返すと元気が出るんですよね(笑)。

坂内:
私もTwitterなどソーシャルメディアで「Salesforce大好き」みたいな投稿を見かけると、とにかく集めて拡散しています(笑)。やっぱり大事なのは「愛」ですね!

この記事に登場する小野はすでに退職しています。ユーザベースグループで挑戦していたメンバーの記録を伝えるために、当時の記事をそのまま読めるように残しています。

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