「らしさ」をどれだけ持っているか
櫻田 潤(以下「櫻田」):
スマイルズさんでは、デザイナーやクリエイターの採用はどのようにされていますか? 僕が採用時に大事にしているのは、「らしさ」を持っているか? という1点です。
NewsPicksのクリエイティブチームには、自分が携わるものに、「らしさ」を必ず注入してくれと言い続けています。それがなかったら、他の人に頼んでも一緒なので。

野崎 亙(以下「野崎」):
僕が面接するときは、スマイルズへの理解とかはそれほど重視してないです(笑)。それは入社したら十分わかっていくじゃないですか。そんなことよりも、その人自身が魅力的だったら、うちに来てほしいという意思表示をすればいい。向こうだって選ぶ立場なわけですから。
うちのチームにすごく優秀な韓国人のデザイナーの女の子がいるんですが、その子を採用した理由はたった1点です。「何で日本に来たの?」って聞いたら、「たこ焼きを食べたくて」って。意味が全然わからないけど、わからないということは、可能性があると思ったんです。 で、もう採用! と。
櫻田:
それはすごいエピソードですね(笑)。
野崎:
あとは櫻田さんに通じるところですが、僕はスタッフに「自分は何者か?」ってすごく問いますね。アイデンティティというか。
「やりたいこととやるべきこと、得意なこと。この3つで何を一番大事にする?」って話をするんです。僕が一番大事にするのは「得意なこと」。得意なことって譲れないこと、アイデンティティなんですよね。やりたいことは極論、諦めることができる。やるべきことは、やっぱり会社が押し付けたタスクでしかない。
得意なことって、絶対に負けたくないからめちゃくちゃ頑張るじゃないですか。それは絶対に信じられるから、それをすごく大事にしてほしい。得意を見極めることって、実はやりたいことに近づく第一歩だし、やるべきことをより価値ある形として発揮するための第一歩だと思うんですよね。結果、それが事業をやるとか、その人に個性として何かを生み出すときのきっかけになる気がしています。

「コンフォートゾーンを超える」を誤解してはいけない
櫻田:
ユーザベースで去年、「コンフォートゾーン」という言葉が流行ったんです。非連続的な成長のためには、安心できるゾーンを超えていかないといけないと。
僕はそれを割と真に受けてしまって(笑)。ちょうどクリエイティブのメンバーも増えてきたタイミングで、ちゃんとマネジメントとかやらなきゃいけない、それがコンフォートゾーンを超えることだ! と思って動いちゃったんですね。でも大失敗でした。
コンフォートゾーンを超えるっていうのは、短距離走の選手が長距離走を目指すことではなくて、短距離走の中で何秒削っていくとか、得意を突き詰めていくのが、自分にとってのコンフォートゾーンを超えることだと気づきました。
野崎:
僕も2年くらい前に、仕事がつまらなくなったことがあります。それは組織が大きくなってきて、櫻田さんと同じで、マネジメントしなきゃってなったタイミングでした。
枠組みを決めようとか、マネージャーはこういう業務定義だ、とかやり出したら、チームメンバーがすごくつまらなそうで(笑)。
その顔を見た瞬間に、「あ、マネジメントを止めよう」と思ったんです。自分がつまらないと思っていることは、部下もつまらないと思うに決まっていて、ということは全員つまらない、このままでは全然ダメだなと。今では「それぞれ勝手にやってくださーい!」としました。逆に、自分で決めたことは他人のせいにできないから、覚悟と意思の強さが問われるチームになってきましたね。

ひたすら思考して実行してほしい
櫻田:
デザイン×組織でいうと、僕は評価やKPIの話が苦手です。デザインのKPIって定性でしかありえない。なので、その人「らしい」ことをいくつやったとか、ちゃんと自分らしく振る舞えたかとかを評価できるようになりたいと考えています。
スマイルズさんではそのあたりどうやっているんですか?
野崎:
僕のチームも基本的に、「どれだけ成果が出たか」ではなく「実行したかどうか」でしか評価しません。
実行さえすれば何かが起きるけど、「すごく考えた結果、やりませんでした」では何もしていないのと同じ。実行するから思考がついてくるんです。
あとは実行したことによって、より高い視座を持てるようになったか? 思考と実行を繰り返しているかどうか? 本質的な課題に向き合おうとしたか? を問います。
櫻田:
思考と実行、具象化と抽象化をどれだけ行き来するかを評価するということですね。
野崎:
僕のチーム(クリエイティブ本部)は、あえて事業部から離れています。事業部にいるとどうしても売れる・売れないとか、クリック数とか、そういう評価になってしまう。でも、ただ絵を描くだけのデザインだったら、別にスマイルズのデザイナーじゃなくてもいいじゃん、と。
フリーランスじゃなくて組織の中にいるからこそ、思考する時間の余裕が持てる。ただの作業者じゃなくて、議論して思考しながら手を動かせる。これは外に出るとなかなかできないので、うちのメンバーには、組織の中にいる間はひたすら思考して実行してほしいですね。

「自由」と「覚悟」はセット
野崎:
スマイルズの事業計画書ってあるんですけど、1枚の絵なんです。「以上。あとはそれぞれが自分で感じて」みたいな。
同じように、「100本のスプーン」っていうファミレスをリブランディングするときに、ひと言と1枚の絵だけで方向性を示しました。お父さんがヒゲ剃りをしている隣で、子どもがヒゲ剃りのモノマネをしているっていう写真。それに、「子は親を映す鏡である。はじめてのレストランへようこそ」っていう1文を添えました。

野崎:
遠山をはじめスマイルズのメンバーは、新しい事業をやるときにたいてい思いつきの要素が大きい。あまり考えすぎずに、とにかく動き始めてみる。
たぶん思いついた本人も最初は見えていなくて、やっていくうちに、話していくうちに、だんだん「こういうことかも」と気づくんです。自分にも見えていなかったけど、確かに正しいと思えるロジックが見えてくることがあって、それがすごくおもしろい。ロジックや枠組みから積み上げていくと、絶対に出てこない。一般的な概念を持っている人には真似しづらいでしょうね。
櫻田:
ユーザベースの経営者も、梅田(梅田 優祐/ユーザベース共同代表)や佐々木(佐々木 紀彦/NewsPicks取締役CCO)など、似たタイプが多いです。でも直感的に「あそこに山がある!行こう!」って言っても、「?」を浮かべる人も結構いるので、それをつなぐのが僕らクリエイティブの役目かなと最近は思うようになりました。
野崎:
それは別に創業者だから経営者だからとか、レイヤーの話ではないと思います。いちスタッフでも、意味がわからないと思いながらも、何か具現化していく中でつながってくることはある。
スマイルズでは、勝手にやったから評価を下げるとか、そういうことは一切ありません。たぶん確信があったり、何か思いがあったりしてやっていると思うので、温かく見守りたい。その中で彼・彼女自身が何か気づくかもしれないし、僕や遠山、事業部長たちが見えていなかったものを見せてくれるかもしれない。
でも自由にやるからには、本気と本気の戦いだと思うんですよね。何か言い訳をしていたら、「それは本気で思っていないんじゃない?だったら、こっちのほうが本気だよ」って伝えます。
櫻田:
自由には覚悟がセットであるということですよね。
野崎:
そうですね。でも、会社は絶対に守ってくれますから。怒られたから左遷だとか降格だってことは絶対にしない。とにかく手を動かしてぶつかってみてほしいですね。
櫻田:
そこはインハウスデザイナーの醍醐味ですよね。デザイナーに限らず、クリエイティブ組織の。

