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きれいごとじゃない、リアルを伝えたかった──ユーザベース「サステナビリティレポート」制作の舞台裏

2023/12/10

きれいごとじゃない、リアルを伝えたかった──ユーザベース「サステナビリティレポート」制作の舞台裏

2023年8月、ユーザベースは「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」というパーパスの実現に向けた、サステナビリティへの取り組みと進捗を紹介する「サステナビリティレポート2023」を公開しました。当初、統合報告書として制作されるはずだったこのレポートが「サステナビリティレポート」に形を変えた背景や、コンセプト設計、クリエイティブにおけるこだわりについて、このプロジェクトの中心となったIR担当(現PR Team)でプロジェクトリーダーのモルチャノワ・リリヤ、クリエイティブディレクター犬丸イレナ、アートディレクター片山亜弥の3名にじっくり話を聞きました。

目次

TOBを機にターゲットと目的を変更し、「サステナビリティレポート」に転換

サステナビリティレポートを制作することになった背景について教えてください。

モルチャノワ・リリヤ(以下「リリヤ」):
もともとはサステナビリティレポートではなく、統合報告書を制作するプロジェクトとして2022年9月から動いていました。2021年に統合報告書を出したから今年も出そうということで、統合報告書の2年目のプロジェクトがスタートしていたんです。

そこから目的やフォーマットが大きく変わったのは、2022年11月にカーライル・グループによるTOBの件が明確になったためです。
 
この段階でユーザベースが未上場会社になる可能性が高かったので、だったら統合報告書にリソースを割く必要もないということで、発行しない選択肢も浮上しました。でも実際12月末にTOBが正式に成立して、取締役会も含めてあらためて議論をした結果、今後再上場を目指すのであれば、やはり発行しようということになりました。それが2023年2月のことです。
 
そこから、ターゲットや目的をどうするかという議論が生まれました。上場会社の統合報告書が投資家をメインターゲットにしているのに対して、未上場会社となったユーザベースにはカーライルしか投資家がいない。だから、ターゲットを大きく変える必要があったんですね。
 
ターゲットとなるのは、ビジネスパートナー、個人・法人含むお客様、採用候補者、ユーザベースメンバー、あとは他社のIR・広報やデザイナーさん。ほかに、上場廃止前に株を保有していた投資家の方々の中には、引き続きユーザベースに関心を持ち、再上場を待ってくださっている方もいます。
 
そこで、3~4年後にユーザベースの新しい投資家になろうと考えてくれた人が、ユーザベースの過去をさかのぼれるように、未来の目線に立って発行しようという目的に変わりました。

プロジェクトリーダー:モルチャノワ・リリヤ

プロジェクトリーダー:モルチャノワ・リリヤ

2023年2月に上場廃止になったので、財務情報の掲載はなしに、代わりに非財務情報を充実させて、新しいユーザベースの世界観を伝えようと骨子が決まりました。公開自体に、ユーザベースの経営陣も、新オーナーのカーライルもとてもポジティブだったのが印象的でした。

ユーザベースは「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」というパーパスを掲げていますが、その「誰もがビジネスを楽しめる世界」はサステナブルに発展する世界そのものです。なので、今年のレポートも「サステナビリティレポート」になりました。

リアリティのある報告書でありのままのユーザベースを伝えたかった

サステナビリティレポートに盛り込むコンテンツはどのように決めていったんですか?

リリヤ:
まずはそもそも報告書を出すのか、出すとしたらなぜ出すのか、数週間をかけて議論しました。千葉さん(千葉 大輔/ユーザベースCFO)や松井さん(松井 しのぶ/ユーザベースCHRO)との定例ミーティングでも2〜3回案をぶつけて、コンテンツ自体は前年の統合報告書をベースにして、継続性を見据えたものにすることになりました。
 
ただ、財務情報は出せないので、その部分はカットする必要があります。代わりにサステナビリティ関連の情報をどう充実させるか、どんなふうに企業概要を載せるか、ガバナンスのパートを残すのか残さないのか、などを最後まで議論しました。
 
最終的に、未上場企業として出せない情報を省き、その分コンセプトを伝えるための情報を加えることになりました。
 
議論するなかでは、国内外の他社の報告書を調べたり、そのプロジェクトに携わっている他社の人たちにヒアリングさせてもらったりもしましたね。サイバーエージェントやSansan、メルカリのような気になる会社を見つけて、社内のネットワークを活かして担当者を紹介してもらいました。
 
あとは投資家の方にもヒアリングをしました。投資家が企業の報告書を読むときに、どこを気にしているのか、どんな情報があったらいいかをリサーチしたんです。

クリエイティブディレクター:犬丸イレナ

クリエイティブディレクター:犬丸イレナ

犬丸 イレナ(以下「犬丸」):
私たちクリエイティブメンバーも、データだけじゃなくて、直感的に感じられるユーザベースらしさだとか、「いま」の雰囲気を伝えたいということで、コンセプトのキーワードを探っていきました。結局、コンセプトが決まるまでは約4ヶ月かかったんですが、そのあいだ状況は常に変化していましたね。

他社事例や投資家へのヒアリングを参考にコンセプトをつくったとのことですが、デザインはどう決めていったんですか?

片山 亜弥(以下「片山」):
デザインは、コンセプトを考えるときに一緒にブレストしながら進めていきました。当初、統合報告書としてつくろうとしていたときは、前年のデザインから大きく変える想定でいました。もっとパワーアップして、ユーザベースが掲げている「Play Business」を押し出そうとしていたんです。
 
でもTOB成立直後だったため、社内外にユーザベースの将来に対する不安な気持ちが見え隠れしていたこともあり、「Play Business」よりも、自分たちのオープンな社風や、再スタートを切ろうとしている「いま」を伝えられるものにしたほうがいいんじゃないかということで、コンセプトを修正していきました。
 
犬丸:
具体的な手順としては、レポートのターゲットとなる人たちに何を感じてほしいかをまとめて、そのなかからキーワードを出していきました。これを千葉さんや松井さんと確認しながら進化させていって、最終的に「信頼性」「希望」がメインコンセプトになりました。

ターゲットの整理とメインコンセプトのブリーフ

ターゲットの整理とメインコンセプトのブリーフ

片山:
ユーザベースはパーパスやバリューが社内にめちゃくちゃ浸透している会社なのに、これまでのレポートではいまいちそこを伝え切れていなかったんですが、それをありのままに見せようということで信頼性の中でも「透明性」を選んだんですよね。
 
リリヤ:
企画段階で複数の知人に、「自分の会社の統合報告書、見たことある?」というヒアリングも同時に行ったんです。答えとして多かったのが、「きれいごとだらけで自分ごとに感じられない」という意見でした。
 
オープン・コミュニケーションを大切にしているユーザベースだからこそ、つくろうとしているサステナビリティレポートは、きれいごとの羅列ではないリアリティのあるものをつくりたい。そうした背景もあって、裏コンセプトとして「透明性」を重視した部分もあります。

財務情報など、非上場企業が出せない情報に代わって新たなコンテンツを追加したとのことですが、この辺りはどう選別していったんですか?

リリヤ:
2022年に公開した「統合報告書」もユーザベースの重要課題が軸になっていたので、引き続きそこに焦点を当てることにしました。あと、2022年7月に移転した新しい東京オフィスのサステナブルな取り組みを深掘りして、ジェンダーレストイレや再生可能エネルギー使用などを特集としてまとめて紹介しているんです。

一方、TOBを経てすぐの公開だったため、財務情報以外にも、たとえばまだ議論中だった企業戦略を省略しています。また、あえてリーン体制に切り替わった取締役会のスキルマトリックス(各取締役が保有しているスキルの一覧表)も出さない判断をしました。出せないことはないけど、現段階ではメッセージ性があまりないと判断したんです。
 
片山:
もうひとつ入れようと思ってやめたのが、社員数の推移ですね。統合報告書の場合は会社の成長を表すために売上規模を掲載するんですが、売上はもう出せない。じゃあ社員数を出そうということになって創業時にさかのぼったんですが、その時々のデータ抽出基準(メンバーの定義や時点)がバラバラだったのでやめました。
 
リリヤ:
その代わり、透明性と信頼を感じてもらえるように、経営陣のメッセージや顔写真を増やすことにしました。

特に、Co-CEOのインタビューでは、TOBに至った経緯やその想い、持続可能な成長をする今後のユーザベースをどのようにつくっていくか、フランクに話してもらいました。

また、社外取締役の浅子さんとカーライル小倉さんの対談記事は、TOBに戸惑うユーザベース社員に安心感を与える目的が大きかったんですが、もうひとつ、「TOBをされたら経営陣は親会社の言うことを聞くしかない」と思っている人に、そうではないことをアピールしたい背景もありました。ある意味ネガティブに見られがちのTOBの固定概念を変えるメッセージでしたね。

ユーザベースはひと言で言い表すのが難しい会社だと思うんですが、「会社概要」はどう整理したんですか?

犬丸:
平野さん(平野 友規/執行役員 SaaS事業CDO)が営業資料として、ユーザベースはどんな会社で、誰をターゲットにしているか、どんな価値を届けるか、図をつくっていると聞いたので共有してもらいました。

営業資料より

犬丸:
あとは、価値創造図といって、企業が示す価値を創造するプロセスモデルをひとつの図にしたものがあります。それを見ると企業の資本をどのように事業活動に投入し、その結果、環境や社会・ステークホルダーにどのような価値を提供していくのかがわかるようになっています。

価値創造プロセス図

犬丸:
今回この価値創造図をつくるにあたっては、どうやってユーザベースらしさを表現するか、時間をかけて議論しました。この部分は「ユーザベースとは何か?」につながるページなんじゃないかと思います。
 
リリヤ:
価値創造図は、実は国際統合報告フレームワークという枠組みで、統合報告書に掲載しなければいけないものと決まっているんです。その細かい要素も定まっています。でも前年に統合報告書をつくったときは、その基準をあまり参考にしなかったので、今年はだいぶ改善余地がありましたね。

今回のサステナビリティレポートでは、ユーザベースがどんな会社なのか、だいぶ深掘りしてやり切った感じがあります。

誰にとってもわかりやすい資料にするため、デザインの力でハードルを下げる

クリエイティブでこだわった部分についても教えてください。

片山:
犬丸さんがデザイナーの選択にこだわっていました。というのも、日本企業のレポートの英語版は、日本語のレポートを直訳して終わりになっているものが多いんです。ユーザベースではそれを避けるために、バイリンガルのデザイナーさんにプロジェクトに参画してもらいました。ユーザベースは16カ国に事業展開をしており、海外拠点もあるので、今年こそ日英同時発行を目指したかったんですよね。
 
デザイン面でこだわったのは、難しいことをビジュアルでいかにわかりやすくするか、です。ユーザベースのパーパスは「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」。「誰もが」だから、誰にとってもわかりやすい資料にしたいと思ったんです。
 
たとえば、ESGやDEIBもよく出てくるワードなんですが、一般的にこの表現はあまり馴染みがないですよね。デザインの力でそのハードルを下げて、ビジュアル的にわかりやすい表現を見つけていくことを大切にしていました。
 
もうひとつが、ユーザベース社内の社歴が長い人と最近入った新しい人の情報ギャップをどう埋めるか。両者のあいだでカルチャーの理解度にどうしてもギャップができてしまっているので、新しく入社した人たちに向けて、ユーザベースのカルチャーを直感的にわかるようにしたかったんです。
 
そのために具体的に何をしたかというと、「写真」にこだわりました。たとえば、「The 7 Values」に使われている写真には、1つひとつのバリューが紐づけられています。
 
「自由主義でいこう」だったら、「Be free and own it」と書かれたステッカーをわざわざつくって、それをラップトップに貼ったり、手に持ってるタンブラーに「Thrill the user」と印字してあったり。

なるべくCGを使わず、リアリティにこだわりたいと思ったので、1つひとつ小物をつくって写真の中にちりばめたんです。

In it together. No matter what(渦中の友を助ける)のTシャツ

In it together. No matter what(渦中の友を助ける)のTシャツ

犬丸:
写真のモデルも、各バリューを体現している社員にお願いしたんですよね。
 
片山:
こういうレポートに出てくるのって、一般的には経営層の偉い方が多いんですが、それだと読む人にとって「遠い存在」に感じられて、あまり興味を持ってもらえないんじゃないかなと思って。私たちがこだわったのは、身近なリーダーや同僚。距離の近さを意識して、レポートを「見たい」と思ってもらえるように人選にもこだわりました。
 
同じように、「マテリアリティオーナー」の写真も1枚1枚めちゃくちゃこだわりました。たとえば、「持続的なデータ・コンテンツマネジメント」は、サイネージにデータが流れている瞬間を狙って撮ってみたり。

オフィスにあるサイネージ

マテリアリティオーナーの写真例

片山:
もうひとつ細かいことを言うと、テキストのタイポグラフィはゴシックとセリフ体を組み合わせて、「多様な視点」を表現しています。
 
フォトグラファーとして選んだのは、主にライフスタイル雑誌を得意としている木村文平さんという方。日常の空気感を切りとるのがとても上手なんです。

「ユーザベースのことがすべてわかる」海外の投資家からも反響が届く

実際にサステナビリティレポートをリリースして、社内外からどんな反響がありました?

リリヤ:
今回はフォーマットにこだわっているんですよね。昨年はスライドだったんですが、今年は縦スクロールPDF。たとえば表紙を見てもらえるとわかるんですが、3ページにまたがって同じ写真を載せています。
 
そういう連続性を表すことで、海外の投資家さんからは「100ページ以上あるとは思えないくらい一気に読めた」「いつも会社のレポートは途中で飽きてしまうが、気づいたら読み終わっていた」「情報が充実していてユーザベースのことがすべてわかる資料だった」と評価いただきました。
 
社内からは、「身近な社員が掲載されていて嬉しかった」「誇りに思った」「役員の写真が載っていたので、そのメッセージも分かりやすくて自分事に感じた」といった声が挙がっていますね。
 
ほかにも、「ユーザベースに転職を考えている人に紹介しやすくなった」だったり、HRのメンバーからは「サステナビリティレポートをもとに採用資料をつくりたいから、協力してほしい」とも言われたりしています。
 
他社のIRや広報の担当者からも、個人的に「つくり方を教えてほしい」といったヒアリングをされましたね。

コンテンツとデザインを同時に固めつつ常にお互いに議論しながら進めたので、全体的に一貫性も担保できて、社内外に分かりやすいレポートに仕上げることができたんだと自負しています。

アートディレクター:片山亜弥

アートディレクター:片山亜弥

今後、レポートを作成するにあたって改善していきたいポイントはありますか?

リリヤ:
サスティナビリティレポートなので、次回はESGに関する国際ガイドラインをより参考にしながら進めたいですね。また、グローバルメンバーから「せっかくグローバルな会社なのに、グローバルメンバーが載っていないのが残念だね」とフィードバックをもらったので、そこは次回に向けて改善したいです。

来年はユーザベースの組織も大きく変わるので、その変化が今後の持続可能な成長にどのように貢献していくか、解説したいですね。

最近ではAIがものすごく進化しているので、マテリアリティが変わる可能性もあります。そうした外部環境に合わせた進化も必要だと思っています。
 
犬丸:
コンテンツでいくつか足したい部分はあるんですが、それ以上にプロセスを改善したいですね。
 
タイムラインの引き方とか、確認の方法とか。特に確認の方法は、PDFに書き込んだり修正をスライドで書いてもらったり、方法が統一されていなかったので、情報が落ちてしまいそうだったんです。
 
会社紹介資料としてはすごくいいものができたので、次回以降これを少しずつ進化させていきたいと思います。
 
リリヤ:
私も、犬丸さんと同じくだいぶやり切った感じがあります。次は来年に向けて、どこを改善していくか真剣に考えていきたいですね。
 
自分たちでも満足しちゃうと、次回のハードルが上がってしまいますが、今後も上場・未上場に関わらず、引き続き透明性高くユーザベースのことを発信していけたらと思います。

編集後記

だいぶ手前味噌ですが、完成したサステナビリティレポートを見て、思わず「スゴい!」と声が出ました。レポートの中には私も写真が載っているんですが、メンバーから「◯ページに載っていましたね」「**さんが出ていたよ」といった声が聴こえてきて嬉しかったです。

私はCo-CEOインタビューの最終チェックと、社外取締役対談を担当しましたが、自社に対する解像度が上がる良い機会になりました。来期のサステナビリティレポートでは、コンテンツなどもう少し関わりが増える予定なので、今から楽しみです!

執筆:宮原 智子 / 撮影:木村 文平、プロジェクトメンバー / 編集:筒井 智子
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