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「ユーザベースらしいDEIB」を追求してたどり着いた、バリューの副文アップデートプロジェクト

「ユーザベースらしいDEIB」を追求してたどり着いた、バリューの副文アップデートプロジェクト

ユーザベースが大切にする「The 7 Values」。そのうちのひとつである「異能は才能」をアップデートする取り組みを行いました。

なぜ今のタイミングでバリューをアップデートしたのか。キッカケは、「ユーザベースらしいDEIB(Diversity・Equity・Inclusion・Belonging)」の探索にありました。DEIBを推進する中で見えてきた、DEIBと「異能は才能」との関係性を言語化しよう──そうした想いのもとで立ち上がったプロジェクトチームが何を考え、どのようにバリューのアップデートを行ったのか。

「異能は才能」の副文アップデートプロジェクトに参画した、Cultureチームリーダー渡部佳織、SPEEDA SEA所属の伊野紗紀、SaaS Productチーム野口光太郎、Corporate Designチームリーダーの犬丸イレナ4名が語ります。

目次

DEIBの課題を解決する手段のひとつとしての「異能は才能」アップデート

The 7 Valuesのひとつである「異能は才能」の副文をアップデートするプロジェクトがスタートしたのは、ユーザベースでDEIBを推進するにあたって見えてきた課題を解決しようとしたのが発端でした。

DEIB Committeeでは、2022年の第1四半期のOKRを「ユーザベースらしい DEIBの探索」と定めました。ひと口にダイバーシティ推進と言うけれど、その中にはさまざまなことが含まれています。よく挙げられるのが、女性活躍や障がい者雇用など。では、ユーザベースらしいDEIB とは? みんなが実践したくなるようなDEIBって何だ? これを3ヶ月かけて探索しようと考えました。

その中で、社内のいろいろなところから「『異能は才能』とDEIBは違うの?」「DEIBを推進するということは、『異能は才能』が実現できていないってこと?」といった声がありました。そこで推進担当として、DEIBより先に「異能は才能」ともっと向き合い、言語化していくべきと考えたのです。

そもそも「異能は才能」はDEIBに紐づくバリューなので、DEIBのプロジェクト推進や概念づくりに利用していこうと考えたのですが、バリューがつくられた10年前と比べて市場環境が変化しています。

加えて、「書いてあることをどう解釈していいかわからない」「実践するのが難しい」といった声があったため、みんなの想いが乗るような副文へアップデートしようという結論に至りました。

対談風景(渡部・犬丸)
Culture 渡部

最近ではいろいろなシーンで「多様性」が重要だと言われます。でも、カラフルな人たちが並んでいるだけでは「DEIB」とは言えない。Diversityは「多様性を目指している状態」を指すので、それだけでは人や会社は語れないのではないかと考えていました。

そんな中、「『異能は才能』のバリューが好きになれない」「異能って特別な才能を指すのではないかと思ってプレッシャーを感じる」といったメンバーの声を聞きました。ずっと「異能は才能」をポジティブなイメージで捉えていましたが、負担に感じてしまっている人もいると知ったんです。

だからこそ、アップデートしなければいけないと思いました。「多様性が大事」というメッセージよりも、ユーザベースのメンバーみんなが「自分はここにいていいんだ」と感じて、100%力を発揮できるような状態が大事であって、そこにたどり着くためのツールとして何が必要なのか考えるようになりました。

Corporate Design 犬丸

バリューは何のために、誰のためにあるのか、法律みたいなものなのか。そんなふうにモヤモヤした時期もありました。

だからこそ「異能は才能」をアップデートするプロジェクトには、とてもワクワクしました。いまの私たちに合う副文をつくる機会はすごく貴重に感じましたね。

対談風景(野口・伊野)
SPEEDA SEA 伊野

私は以前「産休育休ハンドブック」の作成に携わっていたんですが、それが終わったタイミングでこのプロジェクトをやらないかと声をかけられました。DEIB Committeeメンバーとして、本業と兼務でこのプロジェクトのプロマネの役割を担いました。

私はユーザベースに10年勤めているんですが、「ユーザベースらしさ」という言葉を使うときに「押し付け感」を持っていたんですよ。ユーザベースらしさは、固定で存在しているものではなく、この会社に集まるメンバーが持ち寄ってつくっていくものだと。なので、パーパスを実現するために集まったメンバーが、「異能は才能」の副文を見て、「自分らしさ」が「ユーザベースらしさ」をつくっていくことを感じてくれたらと思い、プロジェクトに参画しました。

それでいざやるとなったら、副文に込めたい想いがあふれ出てきてしまって……自分でも驚きました。このプロジェクトは、そんな自分に気づくキッカケにもなりました。

SaaS Product 野口

僕が所属するプロダクトチームは、チームで動くことをとても大事にしています。一方で、多様性も大事にしている。チームで動くことと多様性を大事にすること、本来両者は矛盾しないはずなんですが、ときどき「矛盾しているのでは?」と疑問を感じてしまうことがありました。

この「矛盾」に思う部分を深く考えてみたくて、この機会にプロジェクトに参加しました。もともと、「異能は才能」の捉え方に課題感を持っていたこともあり、このプロジェクトに関わって、組織をより良くしたいと思ったのも動機のひとつですね。

アイデアを具体で示すことで議論が広がる

実際にプロジェクトを進めるにあたっては、佐久間さん(佐久間 衡/ユーザベースCo-CEO)から「概念的なことを言うだけではなく、具体的に文章にして見せ合おう」と言われていました。

誰かがつくった副文の文章案に対して、「この表現は曖昧だから、変えたほうがいいのではないか」ではなく、「この表現が曖昧だから、代案を考えました」と文章とセットで提示する。批判やコメントではなく、具体的な案を出すことを徹底しました。

誰かがslack上で案を出すたびに、「異能とは何か」「異能が活かされることと、パーパスはどうつながるのか」「オープンコミュニケーションはなぜ必要?」というふうに、どんどん議論が広がって、それを調整しながら進行していきました。

このプロジェクトには、たくさんのメンバーが意見をくれたり、議論に加わったりしてくれましたし、海外拠点のメンバーも参加してくれました。日本でのTHM(Town Hall Meeting)やランチ会(後述)でのディスカッションと並行して、スリランカや東南アジアのメンバー向けに現地時間に合わせたTHMを開催しました。

THMではプロジェクトメンバーがパネリストになって、これまでの「異能は才能」について説明。それをなぜ改訂するのか、現在どんな案が挙がっているかレクチャーをして、「みなさんはどう思いますか?」と呼びかけたところ、たくさんの意見がSlackに届きました。

海外のNewJoiner(中途入社メンバー)に対しては、日本と同様にバリュー研修が実施されていて、バリューがかなり認知されている印象です。メンバー間でも「バリューの中で『異能は才能』が一番好き」といった声もあり、副文のアップデートについては好意的なコメントが挙がっていました。

こうしたやり取りをすべてまとめるのに、約半年間を費やしました。

SaaS Product 野口

僕の本業はエンジニアなので、本業とのバランスを意識して週1〜2時間をプロジェクトに割いていました。周りのメンバーがとにかく熱量高く、どんどんアイデアを投稿してくるので、主にそれを整理してまとめる役割を務めました。

SPEEDA SEA 伊野

私も本業と兼務でプロジェクトに入っていましたが、やればやるほどのめり込んでいきました。メンバーが出してくれた案に対して、代案と、なぜその代案を提示するかの理由と背景を考えながら書き出していたら、夜も眠れなくなるほどでしたね。 

第三者視点を取り入れることで生まれる安心感

「異能は才能」の副文アップデートプロジェクトには、外部の方にも参画していただきました。約10年前、「7つのルール(現The 7 Values)」を作成する際にサポートしてくれたエンカレッジ株式会社の方々です。

というのも、メンバーが作成した副文を佐久間さんに見てもらったときに、これはスキルを持ったプロのコピーライターに任せたほうが良いのでは? という結論になったためです。

伝えたいことがあっても、うまくアウトプットされなければクオリティ面でうまく伝わりません。私たちにとっても、エンカレッジさんが入ってくれたことで、第三者が伴走・アドバイスしてくれるという安心感につながりました。

副文のアイデアは議論する中でどんどん変わっていきましたが、エンカレッジさんはとにかく伴走に徹してくれました。実際に議論にも加わっていただく中で、「すごい議論が行われていて感動しました」「10年前と変わっていませんね」といったコメントもいただきました。

対談風景

もうひとり、外部とのかかわりで大きな存在となったのが、長年ユーザベースの社外取締役をしてくださっていた琴坂さん(琴坂 将広氏/慶應義塾大学 総合政策学部 准教授/元ユーザベース社外取締役)です。琴坂さんには、経済情報を発信する企業として、ダイバーシティ推進は社会的責任だと言われました。

「7つのルール」ができた10年前と比べて、会社として取る1つひとつのアクションが社会に与えるインパクトは重くなっているはず。そうした立場から「異能は才能」の再考やダイバーシティに対する位置づけを考えるべきだという提言をいただきました。

Culture 渡部

ユーザベースでいかにバリューが大切にされているかを身に染みて感じていたので、このプロジェクトをスタートすると決めたとき、怖かったし慎重になっていました。

THMで全社に説明する際は、バリュー誕生の歴史から過去の文脈を振り返り、今回の意思決定の理由が分かりやすく伝わるよう心がけました。メンバーはみんな同じ気持ちだったと思います。

そうして完成した副文が以下です。

以前:

異能の集まりには、何が飛び出すかわからないパワーがある。私たちは価値観、人種、宗教、性別、性的指向の違いを認め合い、互いに尊重することで、未来を動かす力を生み出していく。そのために、思ったことはダイレクトに伝える。フェアでオープンなコミュニケーションを徹底する。

We communicate openly—expressing ourselves honestly and listening with respect turning our differences into strength. The unique way you see the world makes all of us smarter. The way you express yourself inspires us to be more creative. Speak your mind. Share from the heart. Express your talents and be yourself. We celebrate diversity of experience, thought, ethnicity, gender, religion, sexual orientation, and culture. Whatever your path, we need your point of view. 

アップデート後:

異能を掛け合わせることで、見たこともない力が立ち上がる。
私たちは、価値観、経験、人種、国籍、民族、宗教、性的指向、身体・知的・精神特性、強み・弱みなど、一人ひとりの異なる個性を歓迎する。そして、共に目指す世界をつくるために、思いや考えを直接当事者に伝え、想像力をもって受け止め、互いの景色を交換する。オープンコミュニケーションの可能性を信じ、分かり合うことを諦めない。

We celebrate a diversity of values, race, nationality, ethnicity, religion, sexual orientation, diversability, backgrounds, and more. These differences make us stronger. Our strengths and weaknesses complement each other.
We communicate openly yet with empathy ー speak your mind directly and respectfully, share your thoughts and ideas. We will get there, one conversation at a time.
Diverse but united in our purpose, we build a new world together.

「異能は才能」アップデートから生まれた「34の約束」

「異能は才能」の副文をアップデートするにあたって、そのプロジェクトの延長として「31の約束」の見直しも行いました。プロジェクトで出てきた課題、たとえば「オープンコミュニケーションって難しいね」という課題感に対して、どんな「約束」があればより良い組織になるかを考えました。

メンバーとして、副文を文字通り覚えてもらうだけでは意味がない。そうではなく、どんな行動を取ればいいか悩んだときに「約束」に向き合うことで、「『異能は才能』ってこうやって実現すればいいんだ」と認識してもらう。そのほうが、浸透しやすいと考えました。

バリューだけでは抽象的で難しいので、「約束」の中で具体化をして、「今日はこの約束を守れたかな」と振り返ってもらえるくらいの具体的な指針にしたかったんです。その結果、「異能は才能」に該当する6つの約束を全て改変、必要な要素を追加し、「31の約束」から「34の約束」へと変わりました。

SPEEDA SEA JapanDesk 伊野

「31の約束」を見直すプロジェクトについては、2022年9月のUB DAY(四半期に1回の全社ミーティング)で発表しました。その後、興味のあるメンバーにプロジェクトチャンネルに入ってもらうようにしました。

ただ、副文アップデートはコピーライターさんが入るほど抽象的で、言葉のアートのような世界でしたし、議論に参加してくれていたメンバーはもともとDEIBに関する知見のあったこともあり、正直、UB DAY後にチャンネルに加わってくれたメンバーは、途中から議論に入りにくかったのではないかと思います。

なので、まず解像度の高い人たちが現場に戻って活躍することで、ほかのメンバーも一緒にDEIBについて体感して、解像度の高い人がどんどん増えていく──キャズム理論のように、DEIBの解像度の高いイノベーターたちが溝を超え、メインストリームにアプローチしていくよう展開できればと考えています。

「31の約束」に関しては、全社からメンバーを招待し、「約束」をひとつずつレビューするランチ会を3回ほど開催しました。ランチ会ではわかりやすく具体に落とし込んでレビューをしたので、スポットで参加した人もコメントしやすかったのではないかと思います。

新旧の比較表
Corporate Design 犬丸

途中で議論に加わってくれたメンバーは、プロジェクトの全体を把握してから参加するというよりは、ふだんから自分が抱えていたイシューや価値観について、何かしら意見があるからという理由で参加してくれていました。

新しいメンバーが意見や提案を伝えてくれたときに、「それは以前にプロジェクトで議論されたテーマだよ」とフォローしながら進めていたので、あまり完璧を求めず、自然に議論に参加できたのではないかと思います。

Corporate Design Teamリーダー 犬丸イレナ

バリューは組織に浸透させてこそのもの

バリューはアップデートして終わりではなく、組織に浸透させる必要があります。バリューだけでなく、当初はD&I Committeeとしてスタートした活動もEquityとBelongingの要素を入れたDEIB Committeeにアップデートしました。

ユーザベースが考える「DEIB」

さまざまな企業がD&I研修を行っていますが、ユーザベースらしいダイバーシティ推進という文脈では、今回アップデートした「34の約束」を利用することで、より自分ごと化できて、私たちの文脈に寄り添ったトレーニングをつくれるのではないかと考えています。

また、バリューをアップデートする前提として、コンピテンシーのアップデートも必要ではないかと考えています。アップデートされた「異能は才能」と「34の約束」に基づいた行動が評価につながるよう、人事制度の中に実装させることが次の目標です。

Culture 渡部

私たちは、バリューは常にアップデートし続けるものだと思っています。作成当初に配布していた「31の約束」の冊子の末尾には「If you can’t find a way, make one」── バリューや約束は可変的なものであるから、必要であればみんなに伝えて変えていこうといった、作成者である新野さん(新野 良介/ユーザベース共同創業者)からのメッセージが書かれています。

The 7 Valuesや「31の約束」はそういった思いを込めてつくられています。メンバーのみんなもそうしたメッセージを受け取っているはずなので、今後も驕(おご)ることなく、時代や組織の変化にあわせてアップデートをしていくべきだと思っています。

編集後記

ユーザベースのみんなが大切にしているThe 7 Values。だからこそ、その副文をアップデートする今回のプロジェクトも、めちゃくちゃ時間をかけて議論しました。私もSlackチャンネルに入っていましたが、2〜3日チェックしなかっただけで議論がどんどん進んでいて、しかもテキストの量が膨大。まとめるのも大変だろうし、記事内にもありますが、それを全社に発表するのは怖かっただろうなと思います。関わった皆さん、お疲れさまでした!

執筆:宮原 智子 / 撮影:渡邊 大智 / 編集:筒井 智子
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