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「IDEOにおけるApple」のような事例をつくりたい──アクセラレーションスタジオ「AlphaDrive AXL」設立の背景

「IDEOにおけるApple」のような事例をつくりたい──アクセラレーションスタジオ「AlphaDrive AXL」設立の背景

2018年の創業から約5年間。計1万件を超える新規事業アイデアの創出支援に携わり、100件を超える事業を創出してきたAlphaDrive。2023年2月には新たに、新規事業の立ち上げ・グロース支援に特化したアクセラレーションスタジオ「AlphaDrive AXL(アルファドライブ・アクセル)」を設立しました。 AXL立ち上げの背景と事業内容、これからの展開について、AlphaDriveで同事業を担当する加藤、木地貴雄にじっくりと話を聞きました。

加藤 隼

加藤 隼JUN KATOAlphaDrive執行役員 イノベーション事業/アクセラレーション事業担当

2013年、ソフトバンク株式会社に新卒入社。法人営業を主務とする傍ら、新事業スキームを担当顧客へ提案し、同事業の責任者...

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木地 貴雄

木地 貴雄TAKAO KIJIAlphaDrive AXL Studio Team

東証プライム上場企業で常務取締役、グループ会社で代表取締役を兼務。兼務先のグループ会社をMBOした後、スタートアップ企...

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目次

1→10フェーズで停滞する事業を救いたい

はじめに、AlphaDrive AXL設立の背景について教えてください。

加藤 隼(以下「加藤」):
「AlphaDrive AXL」(アルファドライブ・アクセル)は、AlphaDriveがこれまで「0→1」の支援で培ってきた新規事業開発のノウハウをいかして、「1→10」のフェーズを支援するアクセラレーションスタジオとして立ち上げました。
 
これまでAlphaDriveは、リソースのケイパビリティ(組織的な能力)が足りなかったために、1→10の事業に対して積極的に支援することができませんでした。

ただ、0→1を支援した事業が私たちの手を離れたあと、グロースさせられずに伸び悩むケースが多く、実際にAlphaDriveがこれまでご支援をして「事業化」の意思決定がなされてきた100を超える案件のなかで、成長サイクルに乗り切れていない事業も少なく有りません。
 
1→10のフェーズは、プロダクト開発の仕方やベンダーの選定、マーケティングなど、いろいろな課題が一気に押し寄せるフェーズです。事業化に向けて本格的に取り組むフェーズであるからこそ、ひとつずつの判断もシビアでなければいけません。だからこそ難しいんですよね。
 
0→1で事業を生み出せたことについては経営層から評価してもらえても、それが着実に成長し、その後も新規事業がたくさん生まれる状態にならなければ、「やっぱりうちって、新規事業が生み出せないよね」ということになってしまう。
 
意思のある方が起案して、経営層に掛け合って新規事業を始めるケースもありますし、社長自ら意思を込めて取り組みたいと新規事業を始めるケースもありますが、事業が確実に立ち上がらなければ、その会社の新規事業の機運がしぼんでしまいます。
 
だからこそ成長サイクルに乗るまで支援したい。そういう想いがあってAlphaDrive AXLを立ち上げました。

AlphaDrive執行役員 イノベーション事業/アクセラレーション事業担当 加藤隼
AlphaDrive AXLはいつ頃、どんなきっかけがあって立ち上がったのか、タイムラインを教えてください。

加藤:
まず、2022年1月に準備室を立ち上げました。いわゆる0→1の新規事業開発を支援しているイノベーション事業部にアクセラレーションリードユニットという部門をぶら下げる形で発足し、約1年かけて組織づくりやソリューションの整備、事例づくりをしてきました。
 
あとは、そもそもAlphaDriveのアクセラレーションでは、どういうソリューションを提供していくのか、何をしていくか議論して、説明できるマテリアルをつくり、最低限デリバリーが回せる仕組みを構築する。そういったことを粛々とやって、2023年1月に正式にAlphaDrive AXLが立ち上がりました。
 
この1年で採用も強化しました。お客様の対面に立って、事業開発を導くことのできるメンバーを3人採用したんですが、本当にすごい人たちが入社してくれて。そのひとりが木地さんですね。「なんでここにいるの?」と聞きたくなるような、すごい経歴の持ち主です。

どんな経歴をお持ちなんですか?

木地 貴雄(以下「木地」):
24歳の頃から、父が創業した上場会社の子会社で代表を務めていました。その後スピンアウトして、まったく別の上場会社から出資を受けて、5年ほどかけて100人規模の事業に育てました。でもホテル関連の事業だったので、コロナ禍でうまくいかなくなってしまって……。
 
その後2年ほどフリーランスとして働いていたんですが、ひとりでやるうちに「人と仕事するってとても大事なことだ」と気づいたんです。ひとりは楽なんですが、やはり人間は人間の中でしか磨かれない。人の中で生きていたほうがスキルアップできるんです。
 
そう考えていたときにたまたまAlphaDriveの求人を見かけて、起業経験や新規事業の立ち上げ経験を活かせるのではと思って応募しました。 

AlphaDrive内で事業を預かり育てる「仮想出島スキーム」

AlphaDrive AXLでは、グロースフェーズの顧客をどうやって開拓しているんでしょうか。

加藤:
イノベーション事業部が現在だけでも80社くらい0→1の支援をしているんですよ。公募型の新規事業プログラムでたくさんの事業案を出し、そこから確実性の高い新規事業を立ち上げる取り組みが多いですね。いま伴走している事業案だけでも、恐らく400〜500件はあるはず。その中から年間100件弱の事業案が投資採択されていて、これからアクセラレーションフェーズを迎えるぞという局面にいます。
 
そうした0→1の支援の延長で、引き続きグロースフェーズもAlphaDriveに、とAXLに依頼いただくケースが7割。あとは新規でご依頼いただくケースが3割ですね。
 
新規の場合、プレスリリースに反応をいただいたり、イノベーション事業部が新規事業のマーケティングをしている中で、アクセラレーションフェーズにいる事業担当者に出会うケースなどがあります。その担当者の方から「0→1の立ち上げまでは到達したものの、その後停滞しているのでテコ入れしたい」というご相談をいただくこともあります。そうした場合は、いったん0→1のインキュベーションフェーズに戻って掘り下げ直すことを条件に支援をご提案していますね。
 
一度しっかり0→1の土台を積み上げてきた事業であれば、インキュベーションフェーズからアクセラレーションフェースへのつなぎこみは比較的スムーズにできます。でも顧客の定義もなく、課題の深掘りや潜在ニーズの把握も不明瞭で土台ができていないような場合は、投資資金をムダにしかねないんです。

具体事例として、NTTドコモさんと高校生向けオンラインキャリア教育サービス「はたらく部」を共創されたそうですが、AlphaDrive AXLとしてどんな関わり方をしているのでしょうか。

加藤:
AlphaDriveはこれまでにも、ドコモのイノベーション統括部という新規事業の部門と一緒にさまざまな取り組みをしてきました。やり取りの窓口を担当してくださっていた方が、ドコモの公募型新規事業に応募していて。それが「はたらく部」です。

「はたらく部」がPoC(Proof of Concep:概念実証)のフェーズに達したところで、担当者の方からAlphaDrive AXLに相談をいただきました。
 
当初課題として挙げられたのが、大企業ゆえに1個のアライアンスを組んだりLPをつくったりするのに時間がかかるため、この環境で新規事業を立ち上げても競合にスピードで負けてしまうのではないかという懸念でした。
 
そこで我々が提案したのが、新規事業立ち上げに適した”出島”的な環境を用意する「仮想出島スキーム」です。
 
ドコモ社内で事業を育てようとするとドコモのガバナンスが適用されるので、どうしても動きが遅くなってしまうこともあります。不確実性が高くスピード感を持って推し進めなければならない時期だけ、一時的に事業をAlphaDriveに移管し、土台がしっかりできたタイミングでドコモにお戻しする。そんな仕組みですね。
 
この仮想出島スキームは名実ともに「事業を預かって成功させる」という意味で、AlphaDrive AXLの事業開発を象徴するスキームだと思っています。実力がなければできないことですし、責任感と覚悟を持って事業をお預かりしています。

はたらく部で開催したイベントの様子

はたらく部で開催したイベントの様子

仮想出島スキームとして、案件を請ける・請けないのジャッジはどのようにしているんですか?

加藤:
お預かりする以上は責任を持って事業をしっかり育て上げないといけないので、入り口で3分の1くらいまでスクリーニングしますね。
 
まずはその事業のコンディションを見ます。アクセラレーションフェーズを迎える準備が整っているか。その状態になければ一定水準まで仕上げられるよう、仮想出島スキームを使わずに通常の伴走支援を提案します。
 
コンディションだけでなく、事業性とリスクの折り合いがつくかという観点も大切ですね。
 
AlphaDriveの事業として育てる間、我々が大きなリスクを負っているのも事実です。M&Aをする際と同じレベルの厳重なデュー・デリジェンスのフローを設けて、外部の弁護士さんとも連携しながら、リスクヘッジできるかどうかを判断しています。

「はたらく部」は現在、木地さんがAlphaDrive側のプロジェクトリーダーとして、ドコモさんと二人三脚で取り組んでいますが、どんな意識で向き合っているんですか?

木地:
加藤さんが言うように、AlphaDriveだからこそ引き受けられる事業だと思っていて、いかに事業の方向性、流れを修正してグロースさせられるかを日々考えていますね。
 
スタートアップは100社あったら1社成功すれば恩の字なわけですが、その「1社」を生み出すために事業をピボットをしたり、さまざまな検証をしたり、正しく進めていく必要があります。
 
期間、リソース、資金が限られている中で、何を実行するか。いかに効率的にやるか。時には自分が嫌われ役になって断行していかなければならないときもあると思います。
 
加藤:
本当にそのとおりですね。ファウンダー(創業者)は自分の想いが強いので、思い込みも含めてバイアスがかかってしまって、妄信的になることもあります。その気持ちも大事にしつつ、コトに向き合って「勝率を上げる」サポートをさせていただくことが大事だと思うんです。
 
木地さんは入社して短期間ではありますが、お客様と忖度なく議論をして、健全なコンフリクトを起こすトライをしていますよね。
 
木地:
想いの強いファウンダーの方に信頼していただくには、忖度しないことが必要なんだと思います。事業には、事業責任者の気持ちが乗るものですが、気持ちがあっても事業がうまくいくわけではない。だから、思ったことを言ったほうがいい。
 
ドコモさんからお金をいただいて支援をしている以上、担当者の方が思うように動いてもらうことも大事なんですが、「それは違う」と思ったらちゃんと伝えなければいけないと思うんです。
 
いいことも悪いことも、思ったことをちゃんと言う。真剣にその事業を伸ばしたいから言っているんだということが伝われば、お客様にもわかっていただけるのではないかと思いますね。嫌われ役が務められなければ、仮想出島スキームはうまくいかないでしょう。

AlphaDrive AXL 木地貴雄

自らの「失敗」が顧客を成功に導くコンパスとなる

木地さんは入社してまだ約3ヶ月ほどですが、どんなやりがいを感じていますか?

木地:
加藤さんが柔軟に話を聞いてくれるんですよね。「ああしろ、こうしろ」とは言わず、基本的には自分たちに任せ、足りないところはサポートしてくれる。結果的にそれがお客様からの信頼につながっているという部分に一番やりがいを感じますね。
   
インキュベーションとアクセラレーションは似ているようでまったく異なる分野です。ですから、AXLって新しい会社がもうひとつできたのと同じ感覚というか。
  
加藤:
両者は相対する仕事の属性も違いますよね。0→1のインキュベーションフェーズは、事業案が社内から連続的に出てくるような仕組みや基盤をコンサル側でつくって、盛り上げ、伴走して育てる目線を持ちながら、1つひとつの事業を「1」にしていくプロセスです。
 
仕組みづくりや、人材育成、企業の文化を変えるといった目線を持ちながら事業に寄り添うのが0→1フェーズであるのに対して、アクセラレーションの目的は事業の「成功」にあります。
 
支援スタンスの違いもありますね。0→1フェーズの事業は不確実性が高い一方で、ポイントとなる要素を確率で管理していくという考え方をするので、浅く広く「面」で見ながら検証していく。
 
1→10のアクセラレーションフェーズの事業は、その企業にとってはすでに検証期を抜け出して、「期待が込められた案件」になっていたりするんですよね。企業からの期待値も大きい分、僕らとしても1つひとつの事業を成功させるために、深く狭く入りこんでいかなければなりません。
 
でもAlphaDriveにはそれができるような人たちが集まっていると思っています。木地さんのキャリアはアクセラレーションのメンバーの中でもさらに特殊ですけど(笑)。
 
木地:
AlphaDriveは、支援している新規事業の業界や企業の幅が本当に広いので、僕みたいな特殊なキャリアの人が入社しても受け皿があるし、楽しいと思えるんですよ。また、日々の業務からは学びもたくさんあります。代表の麻生さん(麻生 要一)や加藤さん、一緒に働くメンバーからもそうだし、事業の中身からもそう。
 
僕のように一度組織のトップを経験して会社員になる場合、プライドを捨てることが学びにつながるんです。年齢を重ねれば重ねるほどプライドを捨てるのが怖くなる。でもそのプライドをすべて捨てて「もう一度学ぼう」と思ってAlphaDriveに入ったんです。
 
この環境はある意味で、「これまでお前がやってきたことは本当に正しいのか」という自分自身の答え合わせにもなるんですよね。

対談風景
まさに「アンラーン」ですね。実際にやってみてどうですか?

木地:
新規事業づくりって、これまでの失敗の経験が全部活きるんですよ。お客様を見ていると、「こっちに行くと失敗するぞ」という方向に行ってしまうこともある。でも自分が経験しているからこそ、それを止めることができる。そこで止められなくても、先回りして手が打てる。
 
AlphaDriveのコンサルタントは、実際に新規事業を自分で立ち上げたことのあるメンバーが揃っているので、いまAlphaDriveがいなくなったら不安になるお客様は、きっとたくさんいると思いますよ。

アクセラレーションフェーズ支援のプロフェッショナルに

競合との差別化ポイントを教えてください

加藤:
現状のAlphaDrive AXLは機能実務支援組織なので、支援業務のメインは新規事業の立ち上げに伴走してメンタリングを行うことです。それと同時に、プロダクト開発やマーケティング支援など、1つひとつの事業の立ち上げフェーズで起こるさまざまなこともサポートする構えで事業運営しています。
 
もちろん世の中には、新規事業に特化したアジャイル開発ができるような開発ベンダーさんがいて、スタートアップフェーズのマーケティングを請け負うマーケティング専門会社もあります。

そういった競合の中でAlphaDriveが選ばれるようになるためには、複合的な提供価値とソリューションの中身をもっと磨き上げなければと思っています。
 
イノベーション事業との接続でいえば、すでに「AlphaDriveがいないと無理です!」と言ってくださる会社がたくさんあります。これほど多くの0→1フェーズの事業を支援している企業は他にいないので、大きなアドバンテージになっています。
 
今後はそれに甘えず、アクセラレーション事業部として体制も含めて、機能的な部分をより研ぎ澄ませていきたいですね。

加藤隼
3年から5年後、AlphaDrive AXLがより強固な体制でアクセラレーションフェーズの支援ができるようになった未来には、どんな世界が待っていると思いますか?

加藤:
事業の観点からは、新規事業マーケットに対して「健全に発展させる貢献」をしたいと思っています。

僕らの手が届かないがゆえに、新規事業の市場自体がシュリンクしてしまうような事象に出会うことがあって。健全にアクセラレーションフェーズの事業立ち上げを導き、再現性をもって事業成功の確率を高められる支援事業者の必要性を感じています。

マーケットに対して健全に価値を提供し、組織も事業も成長させる。それを地道に行うことで市場でのAlphaDriveの影響力を高めて、新規事業のマーケット自体をより大きく、持続性のあるものにしたいと考えているんです。

木地:
いまの悩みは、インキュベーションフェーズからの接続ではなく、アクセラレーションフェーズから新規で入って支援する案件が少ないことです。一口に「アクセラレーション」といっても決まった型がないため、ここを成功できる会社はなかなかないと思っていて。

だから僕の直近の課題は「はたらく部」にコミットすることですね。「はたらく部」は3年後、5年後には事業をグロースして、ドコモさんにお戻ししているはず。もしかするとその先のフェーズに進んでいる可能性もあります。

加藤:
将来的な構想でいえば、たとえば僕ら自身が出資機能を持って、出資しながら一緒に育てるといったことをフレキシブルにやっていきたい。あとは、伴走や機能支援だけでなく、M&Aした事業のPMI(経営統合プロセス)を支援するとか、そんなことをしてもいいんじゃないかと思っています。
 
企業内における事業開発のアジェンダはもっと幅広いはずなのに、僕らがやっていることはほんの一部です。これからどんどん新しく入ってくれるメンバーたちのエッジを活かしながら、この事業を広げていけるといいですね。
 
僕は「IDEOにおけるAppleのような事例」をAlphaDriveでつくりたいんですよ。

IDEOが支援しているのはグローバルで著名な大企業。僕らもあくまで支援会社という立場、黒子です。でも、世の中にインパクトのある事業/会社を生み出すことができれば、支援会社冥利に尽きますよね。

これまで、支援してきた会社の「成功の兆し」をつくった事例はたくさん出ていますが、このまま努力していけば、3〜5年後には我々が支援した事業が世の中にインパクトを残すような事例が生まれるはず。
 
本当の意味での、世の中にインパクトを残すような事業をつくる支援をしていきたいですね。

木地・加藤

編集後記

AlphaDrive、ちょっと目を離しているうちに次々と新しい事業やプロジェクトが爆誕するんですが、AXLもそのひとつ。KJ(加藤のあだ名)はUzabase Journal登場3回目ですが、毎回異なるプロジェクトの話なので全く飽きません(笑)。

木地さんはじっくり話を聞くのは初めてだったんですが、経歴を聞いて「え、何でAlphaDriveに?」と思わず真顔で質問してしまいました。多様なバックグラウンドを持つユーザベースグループのメンバーたち。まさに「異能は才能」を体現しているなと思います(ユーザベースが大切にしている「The 7 Values」のひとつ)。

執筆:宮原 智子 / 撮影:倉本 あかり / 編集:佐々木 鋼平・筒井 智子
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