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映画監督がたどり着いた、「異能」が受け入れられる場所──NewsPicks Studios萬野達郎

映画監督がたどり着いた、「異能」が受け入れられる場所──NewsPicks Studios萬野達郎

NewsPicks Studios チーフプロデューサー兼演出家の萬野達郎は、映画監督というもうひとつの顔を持ちます。2023年5月20日に公開される『ストレージマン』は、萬野監督の最新作。NewsPicks Studiosで番組を制作しながら映画の撮影をこなす萬野は、ふたつの仕事をどのように両立し、自身の「異能」をどう活かしているのでしょうか。じっくりと話を聞きました。

萬野 達郎

萬野 達郎TATSURO MANNONewsPicks Studios チーフプロデューサー・演出

「 TheUPDATE」「OFFRECO.」「 New Door」などを担当。19歳で単身渡米。カリフォルニア州立大学...

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目次

経済番組を「おもしろく、わかりやすく」届ける

萬野達郎 キャリアの変遷図
萬野さんがNewsPicks Studios(以下、NPS)に入社することになったきっかけを教えてください。

NPSができたタイミングで「THE UPDATE」という看板番組がスタートしたんですが、当時NPSの人手が足りなくて。当時のNPSの副社長であり僕の大学時代の先輩だった木野下さん(木野下 有市)から電話がかかってきたんです。
 
ちょうど僕がフリーランスになった1週間後のタイミングで、「あさってから来れないか」と。そこで初めて木嵜さん(木嵜 綾奈/NPS取締役・チーフプロデューサー)と会って、「THE UPDATE」のリニューアルに手を貸してほしいと言われてジョインしました。

NPSに入社するまでは何をしていたんですか?

もともとアメリカの大学で映画の勉強をしていたんですが、帰国してすぐには映画の仕事に就けなかったので、テレビの仕事などに携わっていました。
 
歌舞伎俳優の市川海老蔵(現・團十郎)さんの事務所に所属して動画の制作をしたり、先輩と個人事務所を立ち上げたり、海外向け日本語チャンネル「NHKワールド・ジャパン」で、日本経済について世界に発信する番組のディレクターを務めるなどしていました。
 
その後一旦フリーランスになったのは、前作の映画『Motherhood』の撮影に集中したかったためです。そして、この映画が完成する間際に木野下さんから電話があって、NHKでの経済番組がNewsPicksと親和性がありそうだから、NPSに来てはどうかと言われて。
 
なかなか映画1本では食べていけない現実もあって、フリーランスとしてこれからどうしようかと思っていたところに木野下さんとのご縁があって、NPSに入社したという経緯ですね。

現在の仕事内容について教えてください。

番組制作のチーフプロデューサーを兼任しながら、演出に携わっています。
 
いま担当している番組は「THE UPDATE」と、平成ノブシコブシの吉村崇さんがMCを務める「OFFRECO.」、ROLANDさんの「New Door」です。ほかにも、NewsPicksのYouTubeチャンネルにZ世代向けのサブチャンネルを開設しようということで、その準備をしているところです。

映画やドラマはなんとなく想像できるんですが、経済番組の演出はどんなことをするんですか?

NewsPicksのコアユーザーに刺さる「HORIE ONE」や「2 Sides」、「WEEKLY OCHIAI」といった番組がある中で、僕のような異端児ができることといえば、「おもしろい」「わかりやすい」と思ってもらえるような番組をつくることだと思っています。
 
「THE UPDATE」や「OFFRECO.」に関してはバラエティー色を強くして、初めて見る人にも経済に興味を持ってもらえる番組づくりを心がけていますね。
 
おもしろおかしく、ちょっと柔らかい雰囲気を出すために、吉村さんや古坂さん(古坂大魔王氏/「THE UPDATE」MC)にどうしゃべってもらいたいか、企画段階から考えてつくっています。

NewsPicks Studios 萬野達郎
企画会議はどんなふうに行われているんですか?

現在チームのメンバーは、木嵜さんと僕、ディレクターが4名で、全部で6名。ミーティングではそれぞれやりたい企画を挙げてもらっています。
 
たとえば最近はChatGPTが話題ですが、こういった時流から企画をピックアップしたり、NewsPicksの特集記事などをベースにしたりすることが多いですね。
 
「THE UPDATE」や「OFFRECO.」は広告モデルを兼ねているので、どんなテーマを取り上げるか、営業のメンバーとミーティングして、その内容を番組に落とし込んでいます。

「THE UPDATE」はNPS初期からある長寿番組ですが、飽きることなくより良い番組にしようと思い続けられる原動力って何だと思いますか?

メンバーが「繰り返すことの美学」を感じているのが大きいですね。みんなこの番組が好きで、もっとおもしろくしたいと思っているんです。

同じことをやり続けていると滞留したり、腐ったりしかねません。そうならないように次の一手を考えたり、似たようなテーマでも切り口を変えたりしようと、常にチームで議論しています。

監督業とNPSの両立は大変ではないですか?

NPSの業務は多忙ではあるんですが、収録や企画会議は先の予定までわかるので、忙しいながらも自分のやりたいことができる環境ですね。
 
1週間でいえば、火曜日に「THE UPDATE」、2ヶ月に1回木曜日に「New Door」、日曜日に「OFFRECO.」の収録があって、それ以外は月曜日や水曜日に企画会議が入っています。映画の宣伝活動などは、普段の業務が終わった後や週末に入れています。
 
NPSではアメリカの番組制作のようなスタイルで、フォーマットやルーティンづくりを心掛けているので、万が一僕やチームメンバーが急に休むことになっても回していける体制になっています。

メンバーの姿勢に気づかされた「数字に向き合えていない」現実

仕事で忘れられないエピソードを教えてください。

「OFFRECO.」は当初広告モデルとしてスタートしたんですが、サブスクで視聴していただいている方に対して課金の数字も見ていかなければいけない時期がきて、そのときに自分はあまりに数字に向き合えていないんだと実感したことがありました。
 
NewsPicksのYouTubeは番組から切り出した10分を無料で、それ以降の本編は課金すれば視聴できるモデルだったんですが、「HORIE ONE」や「2 Sides」を手がけているメンバーのダイジェストのつくり方はもちろん、課金が取れなかった場合は何が悪かったのかを徹底的に検証する、課金への飽くなき執着心がすごいんです。

それを見たときに、僕は「広告の営業の人やクライアントさんが喜んでもらうことが目的なんだ」と考えて、正面から数字に向き合っていなかったんだと気づかされました。
 
当時は「THE UPDATE」や「OFFRECO.」の広告モデルがある程度評価されていたところだったので、課金という別の領域で実績を上げているのを見て、憧れと同時に劣等感を抱きました
 
そこで初めて課金に向き合うことになって、陰からこっそり動きを見てテクニックを盗んで……ようやく「OFFRECO.」でも課金が取れるようになってきたんです。
 
もちろん本人に直接聞けば、課金モデルのテクニックを教えてくれるだろうとは思いました。でも自分でやってみることでテクニックを身に付けなければと思っていたので、そのメンバーのやり方を参考にしつつだいぶ試行錯誤しました。
 
それまで、「広告モデルだし、クライアントさんにとっても表現が柔らかいほうがいいよね」と思って逃げていた部分もあったなと反省して、番組のトンマナは崩さない範囲で「HORIE ONE」や「2 Sides」のように攻めてみようと工夫したり。いろいろ影響を受けましたね。
 
いまからちょうど1年前ほど前のことですが、入社して一番壁を感じた出来事でした。

NPS萬野達郎

メンバー個々が「異能」を持ち、最大限に「異能」を活かす

萬野さんの一番好きなバリューを教えてください。

異能は才能」ですね。僕みたいな、いわゆる本流から外れた人間を受け入れてくれて、かつ、本流から外れた人間だからこそできることを試させてくれる会社だと思っています。
 
僕以外のメンバーにも異能を感じる人はたくさんいて、直属の上司である木嵜さんもまさにそうですね。木嵜さんほどプロデュース力のある人はいません。相手の懐に入っていく術は本当にすごいですね。
 
僕はインドア派なので、できればひとりで家にいたいタイプなんですが(笑)、木嵜さんのコミュニケーション力は横から見ていてすごいなと思います。普段のコミュニケーションからコネクションができて、番組のキャスティングに活かされている。根っからのプロデューサーだと思います。

木嵜さんはものすごく「異能は才能」を認めてくれる人で、そうしたユーザベースの強いカルチャーがあるからこそ、入社して4年間やってこられたと思っています。

若手のディレクターに対しても「異能は才能」を感じることはありますか?

そうですね。たとえば、中国から来られたメンバーには入社してすぐ、絶対ミスできない生配信の難しい業務をお渡ししたことがありました。「大丈夫ですか?」と聞いたら、「私、失敗しないんで」と『ドクターX』みたいなことをおっしゃって(笑)。いまだにミスなく仕事をこなしてくれる、安定感のある人ですね。
 
ほかにも、最近NHKから転職してきたメンバーは、仕事がすごく丁寧ですね。番組を良くするためにいろんな提案をしてくれて、とにかくおもしろいものをつくろうと思ってくれているのを感じます。

The 7 Values:異能は才能
異能を持ったメンバーのいるNPSには、どんな人がフィットすると思いますか?

柔軟性のある方だと思います。たとえば、木嵜さんはもともとレコード会社で営業をしていましたが、どんな職場にも自分の哲学を順応させられる人なんですよね。
 
いままで常識だと思っていたことが毎日のように覆されるような業界なので、自分のやり方にとらわれるような方には正直ちょっと合わないかもしれません。

自分の異能と柔軟性は両立できるものなのでしょうか。

そう思っています。
 
NPSに入社したばかりの頃、木嵜さんと僕と上田さん(上田 裕/NPS BizDev/Marketing Teamリーダー)の3人で、LUNA SEAやX JAPANでギタリストを務めるSUGIZOさんにインタビューしたことがあったんですよ。当時、映画の道とNewsPicksの仕事をどう両立していけばいいのか悩んでいた時期でもあって。
 
そのときSUGIZOさんがおっしゃっていた、「X JAPANでの僕は、HIDEさんの代わりにギターを弾くことを美学と思ってやっている。でもLUNA SEAは自分がつくったバンドなので、自分の色を全面的に出している」という言葉に感銘を受けたんです。
 
僕自身、映画を撮っているときは自分の異能を前面に出しているんですが、NPSでは異能はにじませながらも、NPSの視聴者が求めていることはなんだろうと考えて番組をつくっています。SUGIZOさんの言葉を聞いて、それは正しいことなんだとあらためて感じました。

NewsPicks Studios 萬野達郎
営業から映像系にキャリアチェンジされた木嵜さんのように、NPSで初めて映像のキャリアをスタートするのは可能なんでしょうか。

できると思います。最近AlphaDriveから異動してきたメンバーはもともとライターで、動画メディアを勉強したいという希望があってNPSに異動してきました。
 
先日、Z世代向けのYouTubeを作成するために彼にインタビューをしてもらったんですが、ライターの仕事で培った異能を発揮していましたね。
 
映像のプロでなくても、映像や動画に活かせそうな尖ったスキルがあるのなら、横に展開する手助けはできると思います。動画編集の技術は僕たちが教えていくので、何かしら異能を持っているのであれば、NPSの仲間になってほしいです。

NPSとして新しい映像のカタチに挑戦したい

2023年5月20日に公開される萬野監督の最新作はどんな映画なんですか?

新作は『ストレージマン』という映画です。コロナ禍で派遣切りにあった主人公が、ふとした弾みで奥様に手をあげて、家族にも見放されてしまいます。それで仕方なくトランクルームに住むことになるという、社会問題も含んだ映画ですね。
 
この映画の構想のきっかけとなったのが、以前業務委託でユーザベースに参画されていた連下浩隆さんとの出会いでした。前作の『Motherhood』をNPSで社内上映会させてもらった際、連下さんも映画を見てくださって、それからたびたび飲みに行くようになったんです。
 
彼がユーザベースを退職したあとも交流は続いていて、2021年の年始に一緒に飲みに行った席で、彼の主演作をつくって欲しいと相談されました。そこで、「トランクルームに住んでいる人の話を映画にしたいんですが、どうですか?」と提案しました。

NPSでもコロナ禍でいろんな番組を制作したんですが、いずれも「コロナに負けず頑張ろう!」という内容で、コロナの影響による派遣切りなど、いわゆる闇の部分はあまり取り上げることができませんでした。映画の中であれば、そうした部分にスポットが当てられそうだと思ったんです。
 
ちなみに連下さんは痩せ型な方なんですが、トランクルームに住んでいる人のイメージにぴったりで。主演を演じてもらえないかとお願いして、一緒に制作を開始しました。
 
そういう意味では、NPSに入っていなかったらこの映画は生まれていなかったかもしれませんね。

なるほど。最後に、萬野さんの今後のビジョンを聞かせてください。

まず監督業について言うと、前作の『Motherhood』が20分、今作の『ストレージマン』が40分ほどの映画なので、次回は長編映画に挑戦したいと思って企画を考えているところです。
 
そしてNPSでは、いま手がけている番組を引き続きおもしろいと思っていただけるよう取り組むのは大前提として、今後はNPSとしての新しい映像の形を届けていきたいと思っています。
 
具体的には経済情報ドラマのようなものが撮れないかと思っていて、セールスのメンバーに営業をしてもらっているところです。いわゆるBranded Shortというジャンルで、クライアントさんが求めることをドラマとして表現できたら、より良い訴求ができるのではないかと。
 
これまで、SUGIZOさんの言うところのLUNA SEAのギタリストとしての部分はあまり出さないようにと遠慮していたんですが、これからはもう少し異能の部分も出していきたいですね。

NewsPicks Studios 萬野達郎

編集後記

実は萬野監督とは同期入社。入社日の自己紹介で「映画監督をやっています」と言っていて「!?!?」となったのを覚えています(笑)。「映画を撮っているときは自分の異能を前面に出している」という萬野さんの姿、いつか見てみたいなと思いました。最新作、楽しみです!

執筆:宮原 智子 / 撮影:井上 秀兵 / デザイン:小田 稔郎 / 編集:筒井 智子
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